さて、今回からお酒から離れて、食べものの話に移ります。まずは、ベジタリアンの話。え? なんで食べ物の話でいきなりベジタリアンの話かって? それは簡単、私自身がベジタリアンだからです。仕事や趣味でリアルに食事をご一緒した方々(あとFacebookでは友達限定でベジネタを投稿してるのでFacebook友達)は知ってると思うけど、私、ベジタリアンです。おそらく公(おおやけ)の場(SNSやネットも含むメディア)では初めて「カムアウト」したかもしれません。
ベジタリアンって、なんか最近流行ってますよね。グレタさんの影響かな? 気候変動に関心のある方々の間では有名ですが、気候変動対策(地球温暖化)とベジタリアンって実は関係があるのです(後ほど詳しく述べます)。斯く言う私も…、って、いやいや、ちゃいます。最近の流行りに乗っかってるわけではないですよ。私、既にベジ歴30年の筋金入りのベジタリアンです。私の中では流行り廃りとか主義主張とかではなく、もう人生の半分以上、日々の生活の中で無理なくフツーにそのスタイルで過ごしています。今回はそんな話を書きます。
ゆるく楽しいベジライフ
ベジタリアンって、もしかしたら「あれもダメ、これもダメ」とか制限が厳しい禁欲的で息苦しいルールを課している人たちだと思っている人も少なくないかもしれません。実際、そのように質問されたりしたこともあります。…いやいやワタクシ、ビールもウィスキーもワインも大好きだし、美味しいもの大好きだし、どちらかというとストイック(ストア派)ではなくエピキュリアン(エピクロス派)ですよ。
よく、「(肉料理を指して)こーんな美味しい料理食べられないなんて人生損してますね・・・」と軽口を言われることがありますが(本人は気の利いた冗談を言っているつもりかもしれませんが)、こちらも食べたいものを我慢して食べないわけではないので、単純に価値観や嗜好の違いであり、余計なお世話ですよ! と心の中で思いながらニッコリ社交辞令的微笑みを無言で返したりします。私は自分が好きなものを食べて、私にとって特に好きではないものを選択しなかった結果、こうなったに過ぎません。あなたが好きなものに共感できなくてごめんよ・・・、という思いはありますが、それはお互い様。ビールやウィスキーやワインと同じく、私の好みのは他人とちょっと違うみたいだけど、まあ、気にしない。っていうか、自分の好みのストライクゾーンを他人様と合わせることって生き苦しくないですか?
というわけで、この一連のなんちゃってゆるゆる連載で好き放題やらしてもらってるように(編集部のみなさま、すみません・・・)、ビールやウィスキーやワインと同じく、私の好きな料理について熱く(暑苦しく?)語りたいと思います。まあ、皆さま、生温かい目でご覧下さい。
一品目:ババガヌーシュ
さて、コロナウィルス禍で “stay home” でこの時期、自炊を強いられている人も多いと思うので、私の好きな自作ベジ料理をご紹介。チャンチャラチャラチャラチャンチャンチャン〜チャラララランランラン〜♪(著作権的にいろいろアレなので、みなさまお好きな料理番組のオープニング曲を脳内で再生下さい)。
さて、まずは誰でも超簡単にできる一品料理、ババガヌーシュ bābā ghannūj。中東のナスのたたき料理です。中東のイスラム料理って肉料理ばかりをイメージする人が多いかもしれませんが、実際に現地で食べると(といっても私も中東にはほとんど行ったことがないので、主に欧州の各都市で移民が多い地区の本場中東レストランに繰り出すことが多いのですが)、肉料理と野菜料理がはっきり分かれていて、日本のよくあるサラダやスープみたいに頼んでもいないのにビミョーに肉類のトッピングや出汁が混ざってるということがほとんど無いのがありがたい。実際、欧州の中東レストランではベジタリアンの人が来ることも多いし、ベジタリアン向けとメニューにちゃんと書いてあることも多いです。ビバ! 中東料理!
材料。二人分を想定すると、材料はナス中3個、タヒニ tahini(中東料理の定番、ゴマペースト。最近はスーパーでも売ってるところがあります。なければ日本の練りゴマでOK)適量、レモン半個(100%レモンジュースやすだち・かぼす果汁でも可)、オリーブオイルたっぷり。お好みでガーリック(なくても可)とクミンシード(なくても可。でもあると中東風テイストが増すのでお薦め)、パセリ(生パセリがベストですがなければ乾燥パセリでも可)やカイエンヌペッパー(スーパーで売ってる粉末で可)があると彩がよいでしょう。
作り方。まずナスを焼く。魚焼きグリルに放り込んで10分くらい、皮が焦げて硬くなったらOK。魚焼きグリルは魚臭くてイヤ! って方は(こういうとき、我が家は一切魚を焼かないので便利。ウチの魚焼きグリルは野菜焼き専用です)、コンロの上に百均とかの金網を敷いてナスを転がして直火で皮を焼くのでもOK。事前にナスに竹串を刺しておくと爆発を防げますが、まあ爆発して形が悪くなってもOK。結構アバウト。それがよい。微妙なロースト香が残るのがよいので直火がいいけど、オール電化で火が使えないご家庭はオーブン焼きでもまあOK(時間がかかるけど)。
ナスが焼けたら皮を綺麗に向いて、ざくざく細切れに。ペースト状になるまでしっかりたたいてもよいし、ナスのテクスチャがちょっと残る程度に軽くたたくのでOK。たたいたナスはボウルに入れ、ニンニクとクミンシードはみじん切りor摺り潰ししたものをフライパンで軽く炒って投入。生でもOKだけど食べ慣れないとキョーレツすぎるのであまりお勧めしません。タヒニ大さじ2〜3とオリーブオイル大さじ1〜2(それぞれお好みでいいけど最初は様子を見ながら少量の方がよいかも)を投入、混ぜる。以上、完成! ・・・って、超簡単手抜き料理です。でも本格的中東料理。
盛り付け。重要なのは盛り付けです。料理は味だけでなく、目で見て鼻で感じて舌で触って五感で楽しむもの。見た目大事! たたいたナスのペーストを平皿に台形状に盛り付け、中央を窪ませる。大さじスプーンのサイズがちょうどいいかも。そこにオリーブオイルをどっぱり注ぎ、池を作る。ちょうど京極発電所の上池みたいな感じです(…と、ここで知ってる人しか知らないマニアな電力ネタをこっそり混ぜる)。お好みでパセリみじん切りやカイエンヌペッパーを散らして出来上がり〜♪
ちなみに料理番組で思い出したのですが、日本では家庭科の調理実習を延長したような「正しい」お料理を指南する番組が多いですよね(そうじゃないものもあるけど圧倒的に少ない)。日本ではレシピや分量がかなりきっちりしたものが多いけど、例えばBBCとか海外の料理番組ってかなりテキトーでワイルドで、作ったあともキッチンでその場でソッコーでつまみ食いしながら「うめーっ!」とか本人が美味しく食べるシーンが多いです。その方が見てるほうも楽しい。
料理ってわりとテキトーでいいんです(ただし、お菓子作りは化学反応だからきっちり計らないとダメだけど)。「塩少々」って何gですか? っていう質問は料理をあまりしない人にありがちで、思わず工学部的には0.45±0.15gみたいな回答したくなるけど、人によって気温によって体調によって求める塩気はvariableなので、適当の方がいいんです(はい、この連載を貫くキーワードであるvariable、また出ましたね)。毎回毎回きっちり同じベースロード電源的調理方法って、作る方も食べる方もサステナブルじゃないですよね・・・。
そのかわり、同じ料理を最低10回(プロだったら多分100回とか?)作って「感覚」を養うのが重要。漫画とかドラマでよくある意中の人に振り向いてもらいたいためにレシピ片手に全力で初めて作りました! というのはリスクが高いギャンブルです。意中の人に振り向いてもらいたいなら、相手に振る舞う前に最低10回は試行錯誤する(というより日常的に自分のために自分で作る)か、もしくは「私の実験台になって下さい」と懇願して10回振る舞うかどちらかがよいでしょう。相手の胃袋を掴んで離さない作戦。
二品目:大根のたいたんのスモーブロー
閑話休題。料理に戻りましょう。お次はスモーブロー smørrebrød。北欧のオープンサンドイッチです。これにちょっと京風テイストを入れて大根のたいたん(京都のおばんざい料理で有名な「炊いたん」)を載せて立体的ミルフィーユ状にします。
材料。まずは黒パンのスライス。スモーブローの基本は黒パンですが、日本ではその辺のスーパーではなかなか手に入らないので(あっても高い)、バケット(フランスパン)の薄切りでも可。大根はお好みで2〜3cmくらいの輪切り。厚揚げもしくは薄揚げ。トッピングはなんでもいいです。例えばきのこ3種(エリンギ、しめじ、舞茸)とか、パプリカとかカブ葉とか。その日その場で冷蔵庫と相談するのが主夫の知恵なり(水上勉の『土を食う日々』よろしく「畑と相談」とか言ってみたいけど、人生50年一度も庭付きの家に住んだことがないしがない都市生活者なもので・・・)。バルサミコ(なければオリーブオイルと醤油を混ぜてその場で即席ドレッシングでもOK)があるといいでしょう。あとはハーブ類(バジル、タイム、マジョラム等)、塩コショウ適量。和風テイストを強調したいのであればハーブでなく柚子皮という手も。
作り方。まずは大根のたいたん。大根はざっくり目分量でいいので2〜3cmくらいに輪切り。皮を向いて(有機無農薬の場合は皮を捨てるのはもったいないので、千切りにして冷凍庫で保存してある程度の分量が貯まったらキンピラにでもして下さい)、上面底面に包丁で軽く十字を入れて炊く。和風テイストを強調したいのであれば昆布で出汁を取ってもいいです(但し沸騰させないこと。エグ味が出てバルサミコと喧嘩します。あ、出汁を取った昆布も捨てるのもったいないから千切りにして冷凍庫で保存してある程度の分量が貯まったら醤油で炊いて佃煮にでもして下さい)。塩を適量投入。濃いめの味付けがお好みであれば薄口醤油を入れてもOK。大根は圧力鍋があれば5分弱火+5分放置くらいでソッコーでホクホクに炊けます。普通鍋であれば30分以上頑張れ。圧力鍋は時短だけでなくCO2削減にもなります。
厚揚げは2枚におろして薄くします(そのままの厚さでも構わないけど、ミルフィーユ状にすると横倒しに崩壊する確率大)。ニンニクの細切れをフライパンに投入、オリーブオイルで軽く炒めて焦げ目がついたら引き上げる。そのオイルで厚揚げを軽く炒めて焦げ目をつける。薄揚げの場合も同じ。和風テイストの場合はみりんと醤油で照り焼きにするのも可。ちなみに、照り焼きの本質的な部分ってみりんと醤油を焦がした味なので、実は中身は肉じゃなくても厚揚げでもコンニャクでも何でもいいんですよ! ベジ照り焼き、ローカロリーヘルシーでうまうま。
トッピングは、例えばキノコ3種盛りであれば、片手に持てる程度の分量のエリンギとしめじと舞茸をテキトーにぐわしっと掴んでフライパンに投入。これは塩胡椒程度の下味を付ければ完了。パプリカの場合、ババガヌーシュの焼きなすと同様、コンロかグリルで直火で皮を焼いて剥く。それを24〜32等分の細切りにして数切れをトッピング。赤と黄色を混ぜると美しいです。この工程は結構時間がかかるので、できれば日曜日とかにスーパーで買いだめして大量に作り置きしてタッパーで保存しておくと平日便利。サラダとかマリネとか丼物の付け合わせとかいろいろ使えます。我が家の日曜日の遊び方。カブ葉(大根葉でも可)も同様で、スーパーとか八百屋でカブや大根を買う際に葉っぱがわしわし生きのいいやつを買ってきて、これも日曜日にざくざく細切れにしてタッパーで冷凍保存。そのまま片手でつまめる分量くらいをわしっとフライパンに放り込んでオリーブオイルと塩コショウで軽くソテー。これで準備完了。
盛り付け。スモーブローは見た目重視盛り付けが重要。まず温めた黒パンのスライスを平皿に載せる。その上に大根、厚揚げor薄揚げを重ねる。最後にトッピングとしてキノコ3種orパプリカorカブ葉を慎重に厚揚げの上に三角盛りする(多少皿に散らばってもよい。その方が芸術的)。焦がしニンニクも山頂から投下。最後に、バルサミコをミルクパン(または小さな鍋)でトロトロになるまで熱して、上からタラタラと回し掛ける。このトロトロになるタイミングを見測るのはちょっと試行錯誤が要ります。キッチンで盛り付けたあとテーブルまで持っていくのに立体構造を崩壊させない平衡感覚が必要ですが、まあ頑張れ。
以上、ヤスダ式ベジ料理教室、終了。他にも紹介したいベジメニューたくさんあるけど、歯止めが効かなくなりそれだけで連載100回くらいになっちゃうからまあこの辺で。これから夏になってナスやトマトが旬になればラタトゥイユがいいな〜とか、冬の寒い日はベジおでんがいいな〜(安物の魚介の練り物を入れるくらいだったら野菜オンリーの方がよっぽどよい出汁が出ます。ちくわぶはベジだから必須。関西では手に入りにくいけど)とか、季節によっていろいろ楽しめます。食べることは生きる喜び。
生きづらい日本の私
そんなこんなで自宅では日々ベジタリアンライフを楽しんでいる私ですが、家の外だといろいろ配慮とか考慮とか苦慮とか待ち構えてます。私がよく訊かれるのは「ベジタリアンだと、海外出張が多いと苦労しませんか?」という質問ですが、それに対して私は決まって「いやいや、海外出張で困った経験は今まで皆無です。むしろ日本にいる時の方が結構な確率ですごーーーーーーーく苦労するんですよ」と答えています。マイノリティーには生きづらい国なのです、日本は。
実際、私は海外には住んだことがないので、海外で長く生活したら、もしかして困るシチュエーションもおそらくゼロではないでしょう。しかし私のしがない(通算で100回にも達してませんが)海外出張の経験から言うと、海外で「私、ベジタリアンです」って言って、困ったことや偏見や誹謗中傷に会ったことはただの一度もないんですよ。
欧州や北米では大抵のレストランは必ず最低1品はベジタリアンオプションがあったり、メニューに「Vマーク」がついてて一目でわかるし、もしない場合でも相談すればシェフが出てきてあれこれ相談してアレンジしてくれたり、台湾は「素食」という知る人ぞ知るベジタリアン料理の天国だし、韓国の焼肉屋で相談したら「うちにはないけど向かいの店にあるからそこから出前してうちで食べていいよ」って(ノンベジの同行者がいたため)ものすごく親切に対応してもらった経験もあります。
一方日本では、街でお店に入ってもベジオプションがある店はまだまだ圧倒的に少ないし、「ベジタブルなんちゃら」とかいう紛らわしいメニューに対して「これはベジタリアンでもOKですか?」って訊いても「…? たぶん大丈夫です」って曖昧な答えしか返って来ない場合も多いです。「お肉類が一切食べられないのですが…」と言っても「ベーコンは大丈夫ですか?」とか「ブイヨンは大丈夫すか?」と返されたりされたこともあります。
ちょっと会話が噛み合ってないけどこう訊かれるのはまだ親切な方で、訊かれない場合の方が怪しい。こちらも「サラダにベーコンとかトッピングしていると食べられないのですが…」とか「スープにチキンとかポークの出汁が入っていると食べれないのですが…」と念のため確認すると、「………、厨房で確認してきます」って怪訝な顔をされてようやくここで確認してくれます(言わないと確認されずに出されちゃう)。もしかしたら日本ではお店に入ってこういう確認作業をするのはメンド臭い客と取られてしまうのかもしれませんが、このようなやり取りって海外(私が訪れた国は40ヶ国くらいしかないけど)ではほんまに今までゼロ回なのです。そして、日本ではもう何十回と繰り返しているのです。この差って何?
個人的に親しい人や仕事関係でお付き合いがある方々には、さすがに温かく理解を頂いていますが、あまり親しくない人(リアルでもネット上でも)に必要に迫られてベジタリアンであることを言わなければならない場合、面と向かってあからさまに中傷とかはないものの、差別スレスレのイタいジョークを連発されたりすることもあります。マイノリティーには生きづらい国です、日本は。
どうして日本って、自分と違う行動様式や価値観を持っている人がいるということを許容してくれない人が多いんでしょうかね? なぜ自分と同じ行動様式や価値観を、にっこりやんわりと他人に強要する人が多いんでしょうかね? 自分と同じ行動様式や価値観でないと自分の存在意義が脅かされる思ってるのかなぁ・・・。 同調圧力? 同調バイアス? 昨今のコロナウィルス禍でのリスク軽視の集団行動と相まって、ちょっと心配です。
ところで、「どうしてベジタリアンになったのですか?」と聞かれることが多いですが、私もどうしてベジタリアンになったのか、特に確たる理由はありません。強いて言えば、酒もタバコもやめるつもりはないけど(タバコはときどき葉巻を吸います)、肉はやめても苦痛ではなかったから。まあそれだけです。あとは、個人的には昔、ちょっと文化人類学や民俗学とか趣味でハマってイヨマンテ(アイヌの熊送りの儀)とか関心があったので、やっぱり自分で殺せないものは口にはできないな・・・という考えもあります。
故に私は、魚介類はたまに(社交上必要に迫られる場合に)口にすることにしています。ちなみにベジタリアンの分類の中でも魚介類を口にする人たちはペスコ・ベジタリアンと呼ばれます。魚は三枚におろせるけど(技術的にできるというだけで積極的にはやらない)、哺乳類の解剖や解体は(これもやれと言われればおそらく冷静にこなせると思うけど)やらない。だから口にしない。それだけ。
そんなわけで、『ゴールデンカムイ』や『銀の匙』みたいに、動物を殺して皮を剥いで内臓を取り出して調理をして美味しく頂くシーンをリアルにちゃんと描く漫画は、逆説的ですが私も大いに共感します。命を頂く行為は重く、尊い。逆に可愛い子豚や子牛が踊っている肉類のコマーシャルや広告に対しては、私は強烈な嫌悪感を催します。ひとそれぞれなので、お肉食べたい人は食べていいと思います。ただその裏でそれを育て、殺し、解体する人たちの尊い行為を隠蔽したり忘却するのは矛盾だと思ってます。
ちょっとまじめに、地球環境とベジ
最後にちょっとまじめな話。「お肉食べたい人は食べていいと思います」と言いましたが、「好きなだけ食べる」というのは21世紀になって許されない社会になってます。お肉好きの人にはショックな情報かもしれませんが、過度な食肉生産は地球環境に多大な負荷を与えることが科学的に明らかになりつつあります(エッセイなので典拠省略。ご興味ある方は各自探してみて下さい)。それ故、小泉環境大臣がニューヨークでステーキ食いに行ったというニュースは、ステーキを食べたこと自体が問題ではなく、よりによって環境大臣就任後初の国際会議の時にそのパフォーマンスを国際社会に発信しちゃったよ・・・という日本チーム全体の鈍感さと情報収集力のなさが問題になっているのです。
ここで肉を食べる/食べないの0か1かの極端なカテゴライズではなく、「少し食べる」「少し減らす」などの無理のない考え方や行動が重要です。もしあなたが大のお肉好きなら、できるだけ動物福祉や環境保全や従業員の人権に配慮したより質の良い肉を求め、動物福祉や環境保全や人権に配慮しないことで低コスト化を達成している(つまり負の外部性が高い)大量生産の安物に手を出さない、という行動をとることもできます。
ちなみに私はビールが好きで好きでたまらないので、140円の発泡酒を毎日一本ずつ飲むよりは、そのかわり週に1回だけ980円の質の高いクラフトビールを飲む方が幸せです。毎日お酒を飲まなきゃ気が済まない人はアルコール中毒を疑われるのと同様、毎日お肉を食べなきゃ気が済まないと思ってる人は、もしかしたら強迫観念(もしくは同調バイアス)に陥っているかもしれない・・・と自己チェックした方がよいでしょう。実際、肉類の摂りすぎによる肥満はアメリカなどではむしろ貧困層に多くみられています(典拠省略)。
例えばお隣の台湾では(台湾と言えば肉料理! と思っている人も多いですが)、仏教文化が色濃く残っているためか、願掛けなど限られた期間や誕生日など特定の日だけ菜食主義になる人も多いようです。台湾ではコンビニでも全素(ビーガン=厳格なベジタリアン)のカップラーメンが売ってたりして、日常にゆるくさりげなく溶け込んでます。
こんな感じで、ベジタリアンとノンベジタリアンは0か1の二項対立ではなく、誰でもゆるく楽しく無理なくベジライフを送ることもできます。最近では「ゆるベジ」という言葉もありますし。難しい顔をして禁欲主義で…ではなく、特に理由はなくてもいいから(あってもいいですし)みんなそれぞれ好きなものを(好きなだけではなく抑制をもって)食べればいいんじゃないでしょうか。人生穏やかに楽しみましょう。それがサステナブルな生き方かと。
次回は、今回の料理の話でも随所に登場した、スパイスとハーブと調味料の話。料理のアンシラリーサービス。
(イラスト:ヤマサキタツヤ)