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経済大国「中国」の脱炭素に関する本音とその奥にある動機とは

2021年11月26日

COP26で明らかになった中国の本音

まずは①COP26で明らかになった中国の本音の解説に入ろうと思うが、その前に、議長国イギリスが躍起になって取り組んだテーマに触れたいと思う。それが石炭火力の段階的廃止だ。

交渉に交渉を重ね、閉幕を一日延ばしてまで、COP26の成果文書であるグラスゴー合意に「石炭火力の段階的廃止」の文言を入れようとしたことからも、イギリスの本気度が伝わってくるだろう。だが、採択直前になって、ストップをかけた国が二つある。

インドと中国だ。

インドも中国もカーボンニュートラルを宣言しており、長期的にみれば、CO2を出さないことに合意している国だが、なぜ段階的な廃止に反対したのか。この脱炭素時代に、コンセンサスをブロックすることになるかもしれないリスクをおかしてまで、彼らは何を取りたかったのか?

答えは簡単、彼らはCO2を排出したいから、だ。

もっと言えば、今この瞬間、そこを奪われるわけにいかないから、だ。

冒頭でも述べたように、今でこそ、各国ともに「脱炭素」「CO2削減」などといっているが、元々、気候変動交渉では、実効性のある枠組みを作るのに四苦八苦した歴史がある。そして、その反対派の代表格が、中国とインドだった。

彼らは今、世界で最もCO2を出している国と3番目に出している国だ。世界全体で脱炭素を達成するためには、排出量の多い国こそ、しっかりCO2削減にコミットしなくてはならない。にも関わらず、CBDR原則(共通だが差異ある責任)を持ち出して、CO2を減らすのは先進国の責任だと主張をし続けてきたのがこの二ヶ国だ。都合のいいときだけ途上国の皮をかぶって、経済成長する権利を主張してきたこれらの国々の本質が、そう簡単に変わるわけがない。

つまるところ、目下の経済成長を阻害してまでCO2削減をする気がない。これがインドと中国の本音だ。

では、この二ヶ国の反対を受けてグラスゴー合意の文言がどうなったか。

元々、イギリスが入れたかった文言は「phase out(段階的廃止)」だ。アウトという文言のとおり、最終的にゼロにする、という格好になっている。ただ、年限は区切っていないので、あくまで超長期でもいいから、最終的にphase out——ゼロにしよう、という姿勢だ。

さらに見ていくと、石炭火力の前には「unabated(削減対策なしの)」という文言が入っている。これをつけることによって、廃止対象とするのはあくまでもCO₂対策がされていない石炭火力、という意味になる。つまり、石炭がダメだとしているのではなく、あくまでCO2を出すような石炭火力はダメ、としたかったわけだ。このことから、CO2回収装置などは必要なものの、石炭火力を使う余地がこの文言に残されているとわかる。

つまり、「CO2削減措置のない石炭火力の段階的廃止」。これこそが、元々イギリスが取りたかった文言なのだ。CO2削減措置が取られなければ、当然ながらCO2が排出される。人工光合成でもして、大気中のCO2を石炭火力からの排出量以上に吸収する、などということをしない限り、カーボンニュートラルは不可能となる。たとえ長期的とはいえ、カーボンニュートラルを宣言しているなら、出来るよね?というのがイギリスのスタンスだったわけだ。

ただ、これではCO2を当面排出し続けたい中国・インドは困ったことになる。実際に、脱炭素転換が出来てから掌を返そうとしている彼らとしては、ここで外堀を埋められることはどうしても避けたい。自分たちの体制が整うまで、何としても時間を稼ぎたいというのが、中国とインドの本音なのだ。

なので、中国とインドはグラスゴー合意文書に対して「廃止」ではなく「削減」にすべきだ、と主張した。つまり、ゼロにすることは確約しない、でも減らす分には合意をしようという形で、お茶を濁すことにしたのだ。その結果、閉幕を1日遅らせて合意された文書では「phase out」の代わりに「phasedown(段階的削減)」という文言が用いられる格好となった。

ただ、カーボンニュートラルを宣言しているから、自国都合のうえで段階的削減を主張しては整合的でない。他の国々から、脱炭素に後ろ向きな国と思われたくない、というのは中国のもう一つの本音だ。そのため、中国はなぜ反対したのかについて、このように述べた。

多くの発展途上国では、いまだに電力の普及や十分なエネルギー供給が行き届いておらず、石炭の使用終了を要求する前に、これらの国のエネルギー不足を考慮すべきだ

お分かりだろう。これこそ、都合のいいときには途上国側に立つ、中国の得意技だ。自国都合にはできないので、あくまでも「他の途上国が困るから、中国がそれらの国に変わって代弁してあげました」という姿勢を貫き通すつもりだ。

とはいえ、この話も、一見すると理屈が通っているように思えるが、気候変動交渉の本質からすると変な話だ。なぜなら、採択に賛同するかどうかは、他の途上国が自分たちで判断・選択すればいい話だからだ。途上国であろうと、自国にとって本当に都合が悪ければ、反対票を投じることができるのだ。

もちろん、他の国との関係を気にして手を上げられない国もあるだろう。しかし、だからといって中国が代弁してコンセンサスをブロックするのをチラつかせる理由にはならない。

この中国の会見は、いかに中国が自己都合で反対したかというのを如実に表している。

一応、これまでは自己都合でも正面切って反対していたことを鑑みれば、脱炭素に後ろ向きな姿勢を出すことについて気を使わせるところまでいっただけでも、一つの進歩が見られたといえるかもしれないが。

いずれにしても、「自国の成長のためにしばらくはCO2を排出したいが、脱炭素に後ろ向きとも思われたくない」。中国の本音はここにあるのだ。

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前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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