神戸製鋼所は2050年カーボンニュートラルを目指す 製鉄事業に加え石炭火力発電所も脱炭素が課題【脱炭素銘柄】 | EnergyShift

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神戸製鋼所は2050年カーボンニュートラルを目指す 製鉄事業に加え石炭火力発電所も脱炭素が課題【脱炭素銘柄】

神戸製鋼所は2050年カーボンニュートラルを目指す 製鉄事業に加え石炭火力発電所も脱炭素が課題【脱炭素銘柄】

2021年05月20日

神戸製鋼所<5406>は国内鉄鋼会社の一角ながら、事業の多角化を進めており、電力事業は国内有数の総出力を持つ事業に成長した。しかし同社の電力事業は石炭火力発電所が中心であり、製鉄事業に加え石炭火力発電所という脱炭素の矢面に立つ事業を2つ抱える状態だ。同社の製鉄事業に加え電力事業での脱炭素の取り組みの行方が注目される。

脱炭素関連銘柄を読み解く(5)

鉄鋼業から排出されるCO2は世界の7~9%を占めるといわれ、鉄鋼業の脱炭素が急務に

鉄は国家なり、といわれ国家の近代化に鉄鋼業は重要な役割を果たす産業だ。日本でも官営八幡製鉄所から始まり、鉄鋼業は日本の近代化を支えてきた。

しかし製鉄には莫大な熱エネルギーが必要であり、古くは木炭そして現在は石炭が多量に利用されている。石炭を大量に消費する鉄鋼業界は、CO2排出量が多い業界として知られる存在だ。鉄鋼業界のCO2排出量は世界の7~9%を占めるといわれており、脱炭素の流れが加速する中で鉄鋼会社も脱炭素に向けて本格的な対応が求められている。

現在国内で高炉を持つ鉄鋼会社は日本製鉄<5401>、JFEホールディングス<5411>、神戸製鋼所<5406>の3社に集約されている。国内のCO2排出量を削減する上で、鉄鋼3社は重要なプレイヤーだ。

事業多角化が進む神戸製鋼所、ただし製鉄事業に加え石炭火力発電所でも脱炭素が求められる

国内鉄鋼3社のうち、兵庫県のみに高炉を持つ神戸製鋼所は日本製鉄、JFE-HDに比べ製鉄事業の規模が小さい。同社は事業の多角化を進めており、現在は製鉄事業・建機事業・電力事業が3本柱だ。

この中で製鉄事業の脱炭素化は、他社と同様の経営課題である。石炭を使わず水素を利用して製鉄を行う水素還元製鉄は脱炭素の切り札的技術だが、まだ克服すべき課題も多く実用化には多くの時間と多額の研究開発が必要だ。

更に脱炭素に向けた神戸製鋼所の独自の課題として、石炭火力発電所中心の電力事業の存在があげられる。同社の電力事業は2021年3月期に200億円を超えるセグメント利益を計上する、同社屈指の収益事業だ。

同社の電力事業は、同社の神戸製鉄所(2017年に廃炉)のインフラや製鉄事業での自家発電ノウハウを活用する形で2002年度から開始された。製鉄事業で利用する石炭を活用して石炭火力発電所を運営しており(神戸発電所1・2号機)、事業全体での総出力は沖縄電力を超える国内有数の電力供給事業社となっている。また神戸発電所3号機が2021年度、4号機は2022年度に稼働予定である。

同社の電力事業は栃木県真岡市では都市ガス発電も展開されているが、既存の神戸発電所1・2号機に加え今後稼働予定の3・4号機はいずれも石炭火力発電所であり、同社の電力事業は脱炭素の影響を受けざるを得ない。


真岡発電所近影(2020年2月撮影)神戸製鋼所プレスリリースより

神戸製鋼所の業績推移は

神戸製鋼所の過去3期の業績推移は下記である。

 売上高営業利益当期純利益
2019年3月期1兆9,718億円482億円359億円
2020年3月期1兆8,698億円98億円▲680億円
2021年3月期1兆7,055億円303億円232億円
2022年3月期(予想)1兆8,700億円550億円250億円

同社は2020年3月期に▲680億円の最終赤字を計上したが、2021年3月期は黒字を回復した。2020年3月期、2021年3月期のいずれも鉄鋼アルミ事業は赤字であったが、2022年3月期は黒字を予想しており、鉄鋼アルミ事業の増収及び黒字化を背景に全体としても増収増益を果たす計画だ。

ただし脱炭素の加速により製鉄事業及び電力事業の事業環境は流動的な面がある

世界的に廃止の流れが加速する石炭火力発電所を有する電力事業は利益貢献が高い(2021年3月期は同社最大のセグメント利益206億円を計上)ものの、今後の脱炭素の流れによっては電力事業が大きな影響を受ける可能性がある。

アベノミクス相場前と同等の低い水準に留まる神戸製鋼所の株価

神戸製鋼所の株価は700~800円台の水準で推移している。コロナショックの後は、300~400円台で推移したが、2021年に入り上昇を始めている。

しかし700~800円台の株価水準はアベノミクス相場の開始前の2012年秋頃と同等の水準だ。コロナショック後に上昇したとはいえ、同社の株価は非常に低い水準にある。

また予想PERは約11倍である。日本製鉄約8倍、JFE-HD約7倍に比べ高いが、東証1部平均の16倍(2021年5月18日時点)に比べると割安だ。事業多角化が予想PERの観点では同業2社に比べ評価されているといえるが、脱炭素の流れが加速する中で同業2社に比べ高いPERを維持出来るのか注目される。

脱炭素の矢面に立つ事業を2つ持つ神戸製鋼所の今後具体的な取り組みが注目される

鉄鋼会社ながら2021年3月期は電力事業が最大の利益部門となった神戸製鋼所は、既に沖縄電力を超える総出力を持つ国内有数の電力会社でもある。しかし製鉄事業と石炭火力発電所という、脱炭素の矢面に立つ2つの事業を主力事業とする状態である。

神戸製鋼所は2050年に温室効果ガス排出を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指す表明している。他の鉄鋼2社以上に脱炭素化が求められる同社の、脱炭素に向けた今後の具体的な取り組みが注目される。

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石井 僚一
石井 僚一

金融ライター。大手証券グループ投資会社を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析、為替市場分析を得意としており、複数媒体に寄稿中。過去多数のIPOやM&Aに関与。ファンダメンタルズ分析に加え、個人投資家としてテクニカル分析も得意としている。

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