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米国ニューヨーク市では、一定規模以上の建物に対するCO2など温室効果ガス排出規制の条例を定めた。その手法を考える上で示唆を与えてくれるのが、ロッキーマウンテン研究所のレポートだ。CO2排出削減の切り札は、再エネ利用とセットになった電化、そしてデマンド・レスポンスからデマンド・フレキシビリティへの進化だという。それがどのようなものなのか、YSエネルギー・リサーチ代表である山藤泰氏が報告する。
全米でも抜きんでて気候変動対応に積極的なニューヨーク市が、ある規模以上の建物からの温暖化ガスの排出を削減する施策を具体化した条例を定めた。その条例は、気候変動対応法(Climate Mobilization Act)の中で2019年に定められたLocal Law 97(LL97)だ。
その規制の対象となるのは、床面積が2万5,000平方フィート(2,323m2)以上の建物からのCO2の排出に上限を設定したものだ。対象となる建物はニューヨーク市内の集合住宅・商用公用ビル5万件に相当する。この条例の適用について、諮問委員会も設置されている。
その具体的な規制内容だが、上限の設定はまず2024年に始まり、その後順次強化されて、2050年迄に現在の排出量の80%を削減しようというものだ。
具体的には、2005年を規準にして2030年迄に、CO2排出量を40%削減する目標から始まる。それには、建物の効率化や、排出権クレジットを適用したりすることも可能だが、それだけでは到底達成できる目標ではなく、主たる方策は、建物の給湯、暖房を、天然ガスや石油を燃料として使用するものから、電気ヒートポンプによるものに切り替えることである。
ただし、厨房機器は対象となってはいない。また、2023年1月1日までに作動を開始する天然ガス燃料電池も対応策として認められることになっている。
建物が対象となっている理由は、ニューヨーク市全体の年間CO2排出量は5,500万トンだが、図に示されているように、建物からの排出量が3分の2を占めているからだ。
このような設備の更新には当然大きなコストがかかるが、市による補助金の他に、低利融資制度も準備されている。また、建物の所有者がコストアップを家賃やオフィスレンタル費用を上げることで賄うことも許容している。各種手段を総動員している感じがするが、2025年5月1日から、床面積当たりのCO2排出量が目標値に達しない建物の保有者は罰金を払わなければならない。
罰金の額は、建物の年間CO2排出限度量と実際の排出量の差に268ドルをかけた額になる。この制度が実際に適用されるのは、2025年5月1日が最初となり、その後毎年5月1日に罰金の算定が行われることになっている。
建物からの温暖化ガス排出を減らすための設備更新などの申請は、2021年4月12日から受付が始まり、高排出量の建物については6月30日が最終期限となっているが、病院や介護施設などについては7月31日に設定されている。
ニューヨーク市全体の炭素排出源 2019年 建物、運輸、廃棄物(単位:100万トン)
NYC GREENHOUSE GAS INVENTORY 2019
このニューヨーク市の建物に対するCO2排出削減に向けた規制への対応策の重点は電気ヒートポンプによる熱の生成になるのだが、建物からのCO2排出量はほぼゼロになるものの、その分だけ電力消費が増える。
ここで眼目となるのは、再生可能エネルギーによる発電量が総発電量に占める比率が今後急速に高まれば、建物の電力消費が大幅に増加しても、ニューヨーク市からのCO2排出量は大きく減少するということだ。
このニューヨーク市の施策について、エネルギー消費の効率化を主題として取り組んでいるロッキーマウンテン研究所(RMI)(コロラド州、ボウルダー)が興味ある分析をしている。そのレポートのタイトルは、「Demand Flexibility in New York City, Benefits beyond Carbon」(ニューヨーク市でのデマンド・フレキシビリティ、カーボン排出削減を上回る利点)である。
これまで電力消費の制御に、デマンドサイド・マネジメントとかデマンド・レスポンスという方式が使われてきたが、これらは全て電力事業が発電設備の稼働をできるだけ平準化するために行う電力需要管理を意味するもので、季節別料金や時間帯別料金、深夜電力料金といった、電気料金の上下で電気機器設備の稼働を調整するものだった。
それが、情報通信で電気機器の稼働を制御する方式が普及することによって、電力需要が急騰して発電能力を超えそうな時には、個々の電気機器を送電系統管理者から送られる信号で抑制制御することもできるようになっているが、いずれにしろ、電力の需給をバランスさせるためのものだった。
だが、デマンド・フレキシビリティは、発電された電力が、再生可能エネルギーに拠るものの比率が高いときに電気ヒートポンプ給湯暖房設備を稼働させるという方式である。
ヒートポンプでボイラーの水を高温にするのだが、設備の稼働を止めても水温はすぐに下がるわけではない。稼働が間欠的になったとしても、再エネ比率が高い電力を使用することによって、月間・年間の床面積当たりのCO2排出量を大きく引き下げることが可能となる。
この方式の設備稼働制御を行うことで、ニューヨーク市全体としてのCO2排出量は大きく下がることになり、個々の建物保有者が罰金を課されることも少なくなるだろう。
メリットはそれだけではない。電力需要がピークの時にだけ稼働する発電設備はピーカーと言われるが、フレキシブルに建物の電気設備を稼働させれば、電力需要のピークが下がることになり、古い石油火力発電設備が多いピーカーの稼働時間が殆どなくなることになり、その発電所周辺の大気汚染も発生しなくなる。
電力系統管理者は、今後再エネ比率の数値を発信し、それによって、ビルのヒートポンプ給湯・暖房用電気設備の稼働を制御するようになるだろう。
そして、同じ方式が電気自動車の充電を行う時間帯にも適用されるようにもなると想定される。ニューヨーク市の温暖化対応方式が広く世界で採用されることになるかも知れない。
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