ドイツは2030年・再エネ65%へ向け再エネ促進法(EEG)を改正 それでも2050年カーボンニュートラルには足りないと激論 | EnergyShift

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ドイツは2030年・再エネ65%へ向け再エネ促進法(EEG)を改正 それでも2050年カーボンニュートラルには足りないと激論

ドイツは2030年・再エネ65%へ向け再エネ促進法(EEG)を改正 それでも2050年カーボンニュートラルには足りないと激論

2020年12月30日

激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 特別篇

2020年12月17日にドイツ連邦議会は、再生可能エネルギー促進法(EEG)の改正案を可決した。EEG2021と呼ばれるこの法案は、ドイツ人たちが2030年までに消費電力に占める再エネの比率を65%に引き上げるための重要な里程標だ。だがその内容については電力業界から「十分ではない」という批判が上がっている。ドイツ在住ジャーナリストの熊谷徹氏による特別寄稿、2021年のドイツエネルギー業界展望をお届けする。

2021年1月1日施行の法改正で、太陽光発電の設備容量を約2倍に

この日、連邦経済エネルギー省のペーター・アルトマイヤー大臣は、「我々は2021年1月1日からEEG2021を施行させることにより、地球温暖化対策の強化と再エネ拡大という2つの重要なメッセージを全世界へ向けて発信する。我が国は今回初めて、2050年までに国内で生み出される電力と、輸入される電力についてカーボンニュートラルを達成するという目標を法律の中に明記した。この法律は、エネルギー転換の中で重要な一歩である」と述べ、法案可決の意義を強調した。

EEG2021は、ドイツが今後9年間に風力発電や太陽光発電の設備容量を拡大するスピードを明記している。

たとえば2020年の陸上風力発電の設備容量は54GWだが、2030年にはこれを31.5%増やして71GWにする。現在の太陽光発電の設備容量は52GW、これをほぼ2倍の100GWに増やすことになる。

さらにメルケル政権は、再エネ電力の自家消費を促進するために、出力が30kW未満の太陽光発電装置については、消費者の再エネ賦課金の負担義務を免除することを決めた。賦課金が免除される年間発電量はMWhに制限されるものの、この改正によって、自宅の屋根に太陽光発電パネルを取り付けて、家庭で消費する電力を自然エネルギーでまかなおうとする市民が増える可能性もある。

さらに、再生可能エネルギーによる電力で水を電気分解して作られる「グリーン水素」の拡大を加速するために、EEG2021はグリーン水素の製造に使われる再エネ電力については、再エネ賦課金の負担を免除することも決めた。


ペーター・アルトマイヤー連邦経済エネルギー大臣(右)とアンドレアス・フィヒト連邦経済エネルギー省国務長官 EEG2021記者発表で © BMWi/Andreas Mertens

テナント向け再エネ電力の助成額を引き上げ

EEG2021は、いわゆる「テナント向け電力(Mieterstrom)」を振興するための助成措置を盛り込んだ。テナント向け電力とは、発電事業者が複数の世帯が住む賃貸マンションなどの屋根に太陽光発電パネルを設置し、テナントにその電力を消費させるモデルだ(建物に住んでいる人だけではなく、近隣の住民に電力を供給させる場合もある)。この制度は、自分の家やアパートを持たない市民にも再エネ電力を消費させることを目指して、2017年に導入された。

メルケル政権は多くの発電事業者や建物所有者がテナント向け電力モデルを実行するように、この種の電力に対する助成措置を行っていたが、EEG2021では助成額を引き上げた。具体的には、2017年の助成額は出力30kWの発電装置では1kWhあたり1.49セントだったが、EEG2021ではこの額を次のように引き上げた。

太陽光発電装置の出力1kWhあたりの助成額
10kWまで3.79セント
40kWまで3.52セント
500kWまで2.37セント

Deutscher Bundestag(bundestag.de)

陸上風力発電からの利益の一部を住民に還元へ

ドイツでは、数年前から陸上風力発電装置の新設数が伸び悩んでいる。その理由は、建設の差し止めを求める周辺住民や鳥獣保護団体からの訴訟が増え、地方自治体による建設許可申請の認可が遅れているためだ。陸上風力発電は、この国の再生可能エネルギーの中心であるため、新設の遅れは政府や電力業界にとって大きな悩みの種となっている。

このためドイツ政府は、住民たちの風力プロペラ建設への理解を得るために、今回初めて地元自治体への利益還元のための仕組みを導入した。EEG2021は、「将来陸上風力発電装置を新設する発電事業者は、実際に系統に送り込まれた電力1kWhにつき、毎年0.2セントを、発電装置から2.5km以内にある地方自治体に支払うことができる」と定めている。

発電事業者が地域住民に対し、この発電装置から割安の電力を供給するオプションも考えられている。これらの措置は強制ではなく任意だが、多くの地方自治体と発電事業者が地元への利益還元モデルを選択すると予想されている。

ドイツの風力発電所に飛び交う鳥
ドイツの風力発電所に飛び交う鳥

卒FIT発電事業者の支援措置も盛り込む

政府は、卒FIT対策も盛り込んだ。ドイツでは20年前に運転を開始した多数の再エネ発電装置が、2021年1月1日から固定価格による買取り制度(FIT)の適用を受けられなくなる。

2021年にFITの適用が終わる陸上風力発電装置の数は、約5,000基に達する。これらの発電装置を運転する事業者は、原則として卸売市場で電力を売るか、特定の顧客との間で電力の長期供給契約を結ばなくてはならない。

だが現在コロナ不況のために再エネによる電力の卸売価格は低迷しており、多くの卒FIT発電装置が運転費用をカバーできなくなる事態が懸念されている。発電事業者がこれらの発電装置を停止させた場合、自然エネルギーの発電量が大きく減って、2030年までに消費電力の65%を再エネでカバーするという目標は達成できなくなるかもしれない。

このためEEG2021は、とりあえず1年間にわたって、卒FITの陸上風力発電装置について部分的な助成を継続することを決めた。具体的には、政府は市場価格に次の額の助成金を上乗せする。

期間EEG2021によって市場価格に上乗せされる、
1kWh時あたりの助成額
2021年1月1日~6月30日に
発電された電力
1.0セント
2021年7月1日~9月30日に
発電された電力
0.5セント
2021年10月1日~12月31日に
発電された電力
0.25セント

EEG-Novelle 2021 löst Welle der Kritik aus (iwr.de)

改正案に対し批判の嵐「これでは足りない」

このEEG2021に対して、電力業界、産業界、学界から厳しい批判の声が上がっている。

電力業界のロビー団体であるドイツ連邦エネルギー水道事業連合会(BDEW)は、「EEG2021には、小規模な太陽光発電施設について再エネ賦課金を免除するなど、前向きに評価するべき点がある」としながらも、「全体としては2030年の再エネの消費比率目標(65%)を達成するには不十分だ。EEGの制度はすでに限界に達しており、中期的には再エネ拡大に市場メカニズムを活用するための、新しい助成システムを構築するべきだ」と批判し、2021年の前半にいくつかの点を修正するよう求めた。

たとえばBDEWが批判しているのは、スーパーマーケットなどの屋根に取り付ける太陽光発電装置に関する規則だ。

EEG2021は、大規模店舗などの屋根に設置される太陽光発電装置について、出力が750kWを超える場合には電力購入価格を入札によって決めることを義務付けた。だが2021年に入札にかけられる容量は、300MWに制限されている。BDEWは、「300MWという上限は低すぎるので、引き上げる必要がある。全体としてみると、EEG2021は太陽光発電を後押しするパワーに欠けている」と指摘している。

また太陽光発電関連産業連邦連合会(BSW)や再生可能エネルギー連邦連合会(BEE)も、「メルケル政権は、再生可能エネルギーの拡大を加速するための重要なチャンスを生かし切れなかった。2030年までの再生可能エネルギー発電装置の設備容量の目標も低すぎる」と批判している。

BSWは、「政府は2030年の太陽光発電の累積設備容量を現在の約2倍(100GW)にするという目標を打ち出した。だがCO2削減目標を達成するためには、これでは不十分であり、少なくとも現在の3倍(150GW)に増やす必要がある。したがって、毎年の新規設備容量を、現在の改正案が目指している2GWではなく10GWに増やすべきだ」と主張している。

実は今回の改正案については、連邦参議院も異例の批判文書を公表した。連邦参議院は法案をブロックせずに可決したため、EEG2021は2021年1月1日に施行される。しかし電力業界などからの批判の高まりを考えると、メルケル政権は年明け早々再生可能エネルギーの助成制度の見直しに着手せざるを得なくなりそうだ。

ドイツ政府は「再生可能エネルギー拡大における市場メカニズムの強化」という目標を達成できるだろうか。

 

参照
BMWi - Bundestag verabschiedet EEG-Novelle
Novelle des EEG: Deutschland, Land der aufgehenden Sonne? | tagesschau.de
Deutscher Bundestag(bundestag.de)
EEG-Novelle 2021 - Was bringt die Reform des Erneuerbare-Energien-Gesetzes? (deutschlandfunk.de)
EEG-Novelle 2021 löst Welle der Kritik aus (iwr.de)

熊谷徹
熊谷徹

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。 ホームページ: http://www.tkumagai.de メールアドレス:Box_2@tkumagai.de Twitter:https://twitter.com/ToruKumagai
 Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/ ミクシーでも実名で記事を公開中。

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