AIとビッグデータ解析で分散型エネルギーのO&Mを効率化 米国ENCOREDの新サービスi-DERMS | EnergyShift

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AIとビッグデータ解析で分散型エネルギーのO&Mを効率化 米国ENCOREDの新サービスi-DERMS

AIとビッグデータ解析で分散型エネルギーのO&Mを効率化 米国ENCOREDの新サービスi-DERMS

EnergyShift編集部
2020年04月08日

米国のENCOREDは、IoTを活用したエネルギービッグデータプラットフォームの技術を通じて、未来のエネルギーネットワークの構築を目指すスタートアップだ。Disaggregation(家電分離)などユニークな技術を開発しており、IoTを通じたエネルギー効率化のサービス「ENERTALK」はすでに商用化され、日本でもソフトバンクの子会社であるエンコアード・ジャパンが展開している。2月末に開発したi-DERMSという新たなシステムでは、AIとビッグデータの活用でメガソーラーのO&Mや蓄電池運用の効率化を提供する。プロモーションのため来日されたバイス・プレジデントのシン・ドンジン氏とイ・セヨン氏に話を聞いた。

IoE(Internet of Energy)で人とエネルギーをつなげる

―最初に、ENCOREDという会社について、教えてください。

シン・ドンジン氏:ENCOREDは2013年に、米国カリフォルニア州で設立されたスタートアップです。人とエネルギーをつなげる会社であり、Energy AI (人工知能)の会社だと考えてください。主な株主はジョージ・ソロスやソフトバンクなど。設立者でCEOのジョン・チェは元LS産電の社長で、IEC ACTAD(国際電気標準会議―送配電委員会)の専門委員です。
事業エリアは、AIを活用した太陽光発電や蓄電池、DRなど分散型エネルギー資源(DER)の管理、マイクログリッド、エネルギーデータサービス、住宅のDRやスマートホームなどです。拠点は本社のある米国、および韓国、日本にあります。

―これまでは、御社の家電分離という技術が注目されてきました。

イ・セヨン氏:これは、NILM(Non-Intrusive Load Monitoring)という技術です。電気が使われているパターンを分析することで、家電の利用状況や故障の検知、生活パターンに合わせたサービスの提案、簡易セキュリティなどを提供することができます。
オーケストラで複数の楽器が同時に演奏されていても、人は聞き分けることができます。同じように、複数の家電が同時に使われていても、それぞれの家電の電力消費のパターンを見分けることができるということです。

商品化されたENERTALKでは、分電盤に取り付けたIoTデバイスで電流と電圧を測定、スマートフォンのアプリケーションを通じて、リアルタイムでの電気の利用状況や省エネの提案、さらには独居高齢者の生活の状況などを伝えることができます。また、こうしたデータ分析とアプリケーションの機能を通じて、DRを実施することができます。

左:イ・セヨン氏 右:シン・ドンジン氏

AIを活用して、O&Mを効率化

―今回は、新たに、i-DERMSというシステムを開発されました。これはどのようなシステムなのでしょうか。

シン氏:i-DERMSとは、AIを活用したIntegrated Distributed Energy Resources Management Systemの略です。分散型エネルギー資源(DER)の統合管理システムということになるでしょうか。

最初にターゲットとしたのは、太陽光発電所です。DERのうちでも太陽光発電所は、設備のMWあたりでO&Mのための測定データが多いという問題があります。1,000MWの火力発電所であれば10,000ヶ所、同じ発電容量の風力発電でも51,000ヶ所の測定データがあるのですが、太陽光発電では436,000ヶ所にもなるという報告があります。このことが、太陽光発電のO&Mの課題となっています。この大量のデータを、AIを活用して分析していくことで、効率的なO&Mができるということです。

Renewable Energy World By Michael Kanellos and Steve Hanawalt | 11.27.19

現在でも太陽光発電では、ストリングスごとの電流のデータなどが集められています。しかし、こうしたデータは、ルールに基づいて人が判断している、というのが現状ではないでしょうか。

これに対し、今後は、より詳細で広範囲にわたるデータを、ドローンなども活用しながら収集し、価値あるデータを取り出して分析し、トラブルなどを予知することで、最適化できるということです。こうした分析技術は、ENERTALKに使われている分析技術と同様のものです。
一般的に、O&Mの要員は、20MWあたり1人といわれていますが、これに対し40~60MWを1人で対応できるようにしていきます。

―サービスはどんなイメージなのでしょうか。

シン氏:お客様の発電所のデータを継続的に収集し、AIで学習、分析した上で、対応に関する情報を提供するというものになります。マシンラーニング、ディープラーニングを継続することで、発電量予測や異常状態の検出、最適化が正確になっていくというしくみです。
例えば、日射量予測を通じた太陽光発電量予測と、ストリングスごとのデータを分析していくことで、異常状態のストリングを検出し、異常がすでに起きているのかどうかをアルゴリズムで判断し、アラートを上げることもできるようになります。

アラートシステムの概念図 Residual(残余量)などから異常値(Anomaly score)を導き出す(ENCORED資料より)

―測定機器として、専用のIoT機器は必要になるのでしょうか。

シン氏:そうではありません。私たちの開発の中心はIoT機器ではなく、AIとビッグデータのプラットフォームです。したがって、どの会社の遠隔監視装置からでもデータが取得できるようにしたいと考えています。

―DERは、まだ太陽光発電に限ったものなのでしょうか。

イ氏:蓄電池の運用も最適化します。蓄電池は急速な充放電を繰り返すことで劣化します。システムを効率的に運用すると同時に、蓄電池の劣化を防ぐことにも、最適化に対する解決が可能です。

ハワイの実証試験にも導入

―i-DERMSの導入事例を教えてください。

シン氏:2つの電力会社とひとつの自治体で実証試験を行っています。 ひとつは、韓国の発電会社である東西発電会社(KEWESPO)です。ここでは、数十MWの太陽光発電と数百MWhの蓄電システムを導入し、第2フェーズの実証を行っています。
別の韓国の発電会社である、韓国水力&原子力発電会社では、数十MWの太陽光発電と数MWhの蓄電システムを導入し、アルゴリズムの最適化の実証などを行っています。
米国ハワイ州では、500kWの太陽光発電と750kWhの蓄電システムを使い、マイクログリッドの実証と商用化に向けた準備を進めています。
東西発電の実証試験では、将来的なO&M要因の半減が可能であることと、蓄電システムの運用だけで、20年間に12%程度の利益増につながることが示されました。

東西発電会社の実証実験の様子(ENCOREDの資料より)

―ENERTALKは需要側のシステムですが、i-DERMSは発電側のシステムです。そこにはつながりはあるのでしょうか。

イ氏:AIによる分析という点では同じです。また、発電側と需要側の、電気事業全体でのVPPの運用が提供できるようになったということでもあります。

私たちはIoTなどを通じてリアルタイムのデータを収集し、AIによるディープラーニングの分析でエネルギー効率を10%以上高め、DRによるピークカットなどを通じて、17%以上の価値を高める。これが私たちの辿るべきジャーニー(旅程)だと考えています。

価格の高い化石燃料を消費して地球を温暖化させるのではなく、限界費用ゼロだが変動する再生可能エネルギーを知的に利用していくことで持続可能な地球環境にしていく。人々が、自分自身がエネルギーをどのように消費しているのかを知ることのできる社会にしていく。そこにENCOREDの価値があると考えています。

(Photo:岩田 勇介、Intervew & Text:本橋 恵一)

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