ガソリンの原料である石油は、いずれ尽きるといわれている貴重な天然資源です。もしガソリンがなくなったら、わたしたちの生活に大混乱をきたすでしょう。しかしながら、ガソリンの使用が地球温暖化や大気汚染につながっていることも事実です。
この記事では、石油は本当になくなるのかという疑問を解消すべく、石油をとりまく現状や、生活の利便性と地球環境の両方を守るための取り組みについて解説します。
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1956年、アメリカの地球物理学者ハバート氏は「資源には限界があり、石油生産量は1970年代前半にピークに達し、その後は減少する」とする『ピークオイル論』を発表しました。それから約半世紀が過ぎた現在も変わりなく石油を使えているのはなぜでしょうか。
石油などの天然資源があとどのくらい使えるかを考える目安として、以下の式で算出する『可採年数』が用いられます。
可採年数=可採埋蔵量÷年間消費量
ここでいう可採埋蔵量とは、すでに存在が確認されていて技術的にも経済的にも生産可能な資源の量です。石油の場合、1970年以降にも世界中で新しい油田が発見されています。新しい油田での生産開始や発掘技術の進歩、その他の要因により、ピーク期が延びたものといわれています。
しかしながら、石油が限りある資源であることは変わりません。世界でのエネルギー消費量は年々増加しています。このままでは近い将来、石油が使えない生活になってしまうかもしれません。ちなみに、2018円末時点での石油の可採年数は、あと50年という統計データが発表されています。
ガソリンは原油を精製して作られる石油製品の1つです。車の燃料として使われるだけでなく、身のまわりにあるさまざまな製品の材料にもなっています。ここからは、ガソリンの製造プロセスや使いみちなどを紹介していきます。
タンカーで原産国から運ばれた石油は、まず製油所で約350度に加熱され、蒸気にしてから蒸留塔に送られます。ガソリンや灯油などの石油に含まれた成分を分離するためです。蒸留工程ではそれぞれの沸点の違いを利用して、石油ガス・ガソリン・灯油・軽油・重油などに分類・抽出します。
ここで抽出されたガソリン基材にさまざまな添加物や他の基材をブレンドして作られるのが、自動車用・航空機用・工業用など用途別のガソリンです。ちなみに、本来のガソリンは無色透明ですが、ガソリンスタンドで販売されているガソリンは灯油や軽油との見分けがつくよう、オレンジ色に着色されています。
ガソリンといえば、まず車の燃料を思い浮かべる人がほとんどではないでしょうか。用途によっていくつかの種類に分かれています。もっとも身近な自動車用のガソリンにも、レギュラーとハイオクの2種類があることはご存じのとおりです。そのほかにも次のような種類のガソリンがあり、わたしたちの生活に使われています。
合成ゴムの原料になるエチレンやプロピレン、キャンプなどで使用される携帯用ストーブやランタンの燃料に使用されます。
ガソリンから硫黄分を除去して精製したもので、燃料以外の用途に使われます。身近なところでは、ドライクリーニングや塗料に使われているのが工業用ガソリンです。
高度な安定性や耐寒性などが求められるため、自動車用ガソリンよりも厳格な規格が定められています。
総務省統計局が発表した原油生産量の多い国トップ5(2016年)は以下のとおりです。ちなみに、日本での原油生産量(同年)は約19万トンでした。
1位:サウジアラビア 5億2,301万トン
2位:ロシア 5億2,172万トン
3位:アメリカ合衆国 4億3,805万トン
4位:イラク 2億2,034万トン
5位:中国 1億9,969万トン
出典:世界の統計2021 5-3 鉱業生産量 エネルギー資源|総務省統計局
資源が少ない日本では、ほとんどを海外からの輸入に頼っています。経済産業省がとりまとめた石油統計速報では、2021(令和3)年7月の輸入量として次のように発表されました。
1位:アラブ首長国連邦 403万キロリットル
2位:サウジアラビア 362万キロリットル
3位:クウェート 115万キロリットル
4位:カタール 92万キロリットル
5位:エクアドル 11万キロリットル
日本でガソリンの需要が急激に増加したのは、戦後の高度経済成長期のことです。当時の人々の憧れは、『三種の神器』とも呼ばれた白黒テレビ・電気洗濯機・電気冷蔵庫でした。経済成長が進むにつれ、人々の憧れは『新・三種の神器』と呼ばれる自動車・クーラー・カラーテレビへと移っていきます。1960年には自動車ローンの提供が始まり、憧れの自動車を手に入れる人が急増しました。いわゆるマイカー時代(モータリゼーション)の始まりです。
同じ頃、石油化学を含む重化学工業も急速に発展します。ペットボトル、食品トレー、ナイロンやアクリルなどの合成繊維、洗剤やシャンプーなど、わたしたちの周りにはガソリン(ナフサ)を原料とした製品があふれています。現代社会を支えるエネルギーとして欠かせない存在であることは言うまでもありません。
ガソリンはわたしたちの生活を豊かにしてくれる一方で、地球環境を破壊する要因にもなっています。また、ガソリンの価格は経済にも大きく影響します。今のようなガソリンに依存した状態が続けば、世界中に大混乱を招く事態になりかねません。特に問題視されているのが、地球温暖化の加速と化石燃料の枯渇による経済への影響です。
局地的豪雨による土砂災害や河川の氾濫、森林火災など、世界各地で異常気象による自然災害が発生しています。これらはすべて地球温暖化の影響といわれ、このまま温暖化が進めば、わたしたちの生活に大きなダメージがあることは避けられません。
地球温暖化にもっとも影響しているのが大気中の二酸化炭素です。石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料は、燃焼時に大量の二酸化炭素を放出します。本来なら植物が二酸化炭素を吸収してくれますが、土地開発が進み、森林が減っていることも関係して、大気中の二酸化炭素濃度はどんどん高まっています。
1973年10月、第4次中東戦争が勃発しました。原油の供給制限と輸出価格の値上げが行われた結果、国際原油価格は3ヶ月で約4倍になり、世界経済は大混乱となります。日本では「石油の供給がストップしてモノ不足になる」というウワサが広まり、トイレットペーパーや洗剤の買いだめに走る人で街はパニック状態になりました。第一次オイルショック(石油危機)と呼ばれる出来事です。
一時的な供給制限でも社会にこれほどの混乱を与えたのですから、化石燃料が枯渇したらどんな状況になるのか想像もつきません。資源が残り少なくなれば、当然、原油価格は値上がりします。その時点で経済成長は望めないでしょう。現に、第一次オイルショックは急激なインフレを引き起こし、その年の日本経済は戦後初めてのマイナスとなりました。
ガソリンが現代社会に欠かせないエネルギーであることは疑いようもありません。しかしながら、このままでは人類の存続も危ぶまれます。低炭素社会の実現を目指し、世界各国で脱炭素化へ向けたエネルギー構成(エネルギーミックス)を考えていくことが急務です。
2015年12月にフランスでCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)が開催されました。そのときに世界約200ヶ国が合意して成立したのが『パリ協定』です。パリ協定では、今世紀後半に世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすること(脱炭素化)を目指しています。温室効果ガスのうち、地球温暖化への影響がもっとも大きいのが二酸化炭素です。いくつかの国では、二酸化炭素の削減を目指して次のような方針を打ち出しています。()内は目標とする期限です。
日本でも環境への負担が少ない車として、電気自動車や燃料電池車が推奨されています。しかしながら、充電施設などのインフラ整備が追い付かないことや車両価格の高さなどが要因となって、普及が進まない状況です。
そこで注目が集まっているのが『バイオ燃料』です。バイオ燃料とは主に植物を原料として作られる燃料で、ガソリン車でも使用でき、ガソリンよりも二酸化炭素の排出が少ないとされています。
石油はいずれ尽きてしまうかもしれません。しかしながら、現代社会では石油のない生活など考えられないのが現状です。一方で、ガソリン車やディーゼル車から排出される二酸化炭素が地球温暖化を進めています。いずれにしても、このままガソリンを使い続ければ悲劇的な未来しかないでしょう。
ガソリンに代わるエネルギーとして、バイオ燃料の導入が世界各国で少しずつ進められています。バイオ燃料が普及すれば、サステナブルな社会が実現できるかもしれません。
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