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日本でも「TCFD」が義務化へ。企業はどう対応すべき?

2021年09月03日

2015年12月に採択されたパリ協定。これを機に、投資家の判断基準として「その企業は社会や環境とどのような関わり方をしているのか」ということが重要視されるようになりました。

そこで誕生したのがTCFDです。TCFDは日本国内でも義務化が検討されています。この記事ではTCFDについて解説したあと、今後国内企業がどのように対応すべきなのかを説明します。

TCFDとは

TCFDは気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の略称です。世界中の銀行や保険会社、資産管理会社、大手非金融企業、信用格付機関など、民間の組織に所属するメンバー32人によって2015年に結成されました。

TCFD提言とは、気候変動に関する取り組みを発表するよう、企業側に促すためにつくられた提言です。2017年6月にTCFDが公表しました。

この提言では、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標・目標」の4項目についての情報開示が求められています。それぞれについて詳しく説明します。

ガバナンス

ガバナンスは4つの項目のなかでもっとも重要な項目です。以下のように気候関連リスクや機会に対する組織のガバナンスについての情報開示が求められます。

  • リスクと機会に対する取締役会の監督体制
  • リスクと機会を評価・管理するうえでの経営者の役割

先ほども述べましたが、投資家や銀行などの貸付業者は、企業の気候関連リスクや機会に対する取り組みに大きな関心を持っています。そのため、ガバナンスをもとにその企業や経営陣がどれだけ気候関連リスクに意識があるのかを適切に判断できるようになります。

戦略

ガバナンスの次に重要視されるのが戦略です。この項目では、気候変動に対する事業・戦略・財務への影響の開示が求められます。以下が具体例です。

  • 短期、中期、長期におけるリスクと機会
  • 気候変動のリスクと機会が事業や戦略、財務におよぼす影響
  • さまざまなシナリオを考慮した組織戦略

投資家たちはこの情報をもとに、企業の将来のパフォーマンスを判断します。戦略がより具体的で適切なものであるほど、投資家たちの評価が上がることになるのです。

リスク管理

リスク管理では、以下のように気候関連リスクの識別・評価・管理の状況に関する情報開示を行う必要があります。

  • リスクをどう把握し、どう評価しているか
  • 気候変動のリスクをどのように優先順位をつけて管理するか
  • 組織全体のリスク管理への統合状況

これらの情報をオープンにすることで、投資家たちは該当企業のリスク管理体制を正しく評価できるようになります。

指標と目標

4つ目が指標と目標です。気候変動リスクと機会の評価・管理を行ううえでどのような指標を用いるか、どのような目標を掲げるか、の説明が求められます。以下が具体例です。

  • 組織が戦略やリスク管理を行ううえで用いる指標
  • 温室効果ガスの排出量(スコープ1〜3)
  • リスクと機会を管理するにあたっての目標と実績

指標と目標に関する情報を開示することで、企業の対応能力や管理・適応状況の進捗を把握できます。4つの項目のなかでは一番重要度が低いのですが、この情報は同業他社との比較材料として活用されるため、とても重要です。

TCFD提言に取り組むことで得られる効果とは?

さまざまな情報の開示が求められるTCFD提言。これに賛同し、実際に取り組むことで以下のような効果が期待できます。

  • 投資家や金融機関の評価向上
  • 持続性のある経営体制の実現
  • 社会から受ける評価の向上

これらについて、詳しく見ていきます。

投資家や金融機関の評価向上

環境省の地球温暖化対策課が公表した情報によると、TCFD提言に対応しなかった場合「好条件な資金調達の機会の損失」「企業の環境評価の低下」「株主などからの訴訟リスクの向上」といった悪影響が挙げられています。

逆にいうと、TCFD提言に則った企業活動を行うことによって、好条件での資金調達の実現や株主・金融機関からの評価向上につながるのです。

持続性のある経営体制の実現

企業が持続的に成長を続けるためには、内在するリスクが小さいうちに改善・解決する必要があります。

TCFD提言に取り組むことで、企業側は組織が抱えるリスクをいち早く察知でき、早期の解決が可能になります。これにより、持続性のある経営体制が実現できます。

社会から受ける評価の向上

昨今、人々の地球温暖化などの環境問題に対する意識が高まりつつあります。そのため、消費者のあいだでも環境保全につながる製品やサービスを評価する動きが増えています。

積極的に情報を開示することで、環境問題に対する姿勢を対外的にアピールできるため、消費者からの支持が期待できるのです。

賛同数世界一位?日本の賛同状況とは?

2021年7月26日時点で、TCFDに賛同する各国の機関数は約2350件です。なんと日本は賛同機関数が世界第一位。日本に次いで、イギリスやアメリカの組織が賛同を表明しています。

TCFDに賛同する各国の機関数

*TCFDコンソーシアム「TCFDとは」

以下のグラフを見ると、2017年から2021年にかけて急速に賛同数を増やしていることがわかります。

TCFD賛同数現在、金融庁ではTCFDの義務化が検討されており、2021年秋ごろから本格的な議論がスタートする予定です。すでにヨーロッパ諸国や中国などでは情報開示の義務化が決定されており、日本も同様の流れになるものと予想されます。

次に、日本のTCFD賛同機関のうち、具体的なアクションを起こしている企業を2社紹介します。

味の素株式会社

2019年5月、味の素株式会社はTCFD提言に賛同し、情報開示に関する議論を行うTCFDコンソーシアムに参加しました。「味の素グループが実施したTCFD対応シナリオ分析」では、洪水対策として重要機器の配置見直しや工場の壁のかさ上げ、渇水対策として貯水池の設置や取水口の位置変更などの取り組みが記載されています。

味の素株式会社は、2011年にタイで発生した大洪水によって5つの工場が被災し、生産がストップした時期がありました。これ以来、気候関連リスクに関する取り組みを積極的に行っています。

東急不動産ホールディングス株式会社

東急不動産ホールディングス株式会社もTCFD提言に賛同し、具体的な情報の開示を行っています。2050年を気候関連リスクが顕在化する年として設定し、以下の事態になる可能性があることを明らかにしています。

  • 異常気象によってリゾート施設の稼働日が減少し、減収する。
  • 想定外の集中豪雨による傾斜地の崩落により、修復費用が発生する。
  • 温暖化による気温上昇で降雪量が減少。ウインタースポーツ施設の稼働日も短縮され、減収する。

こういったリスクに備え、低炭素型建築物(ZEH・ZEBなど)や屋外緑化の推進、水害が懸念される建築物にBCP対策(事業継続計画)を施すなどの対応を取ることを明らかにしています。

TCFD提言のために、企業は何をすればいいの?

今後、日本でも義務化が検討されているTCFD提言。情報を開示するにあたり、企業は具体的に4つの取り組みを行う必要があります。

経営陣の理解の獲得

適切な情報を収集するためには、会社全体でTCFDの重要性を知っておく必要があります。一番大切なのは経営陣から理解を得ることですが、社内でも勉強会を開き、社員にも対応の重要性をしっかり認識してもらいましょう。理解を得ることで連携体制を構築でき、適切な情報収集が可能になります。

情報の収集

社内で理解を得られたら、開示するための情報収集を行います。TCFD提言で求められるのは、年次財務報告を通して適切な企業情報を伝えることです。分析対象となる事業を選定し、分析を行うターゲット年を設定しましょう。

ターゲットをいつに設定するかによって、考えられるリスクは異なります。それらを検討しながら、現在できる取り組みや今後の対策などをまとめましょう。

シナリオ分析の実行

情報を収集した次に、シナリオ分析を行います。シナリオ分析とは、ターゲット年に起こりうる要因を認識し、それに対する対策を導き出すことです。環境省が公表する資料の通り、将来の不確実性を予測することで柔軟な対応が可能になります。

シナリオ分析の実行

*環境省地球温暖化対策課「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ」

シナリオ分析は主に以下の流れで進行します。

項目概要
リスク重要度の評価想定されるリスク・機会が自社にどれほど影響するのか予測し、重要度を評価する
シナリオ群の定義自社に関連するリスクをもとに、複数パターンのシナリオを定義する
事業インパクト評価定義した各シナリオが、自社の戦略・財務に与える影響を評価する
対応策の定義特定したリスクや機会に対して、現実的な対応策を検討する
文書化と情報開示ここまでに検討した内容を文書化し、読み手目線で情報開示を実施する

シナリオ分析は投資家の強い要求によってTCFD提言に組み込まれました。ここで求められるのは正確な将来の予想ではなく、自社の戦略が気候関連リスクにどれくらい耐えられるのかという情報です。対応の方向性を大まかに決めて、PDCAサイクルを回しながら具体的な対応策を決めていくケースもあります。

情報の開示

最後に情報開示を行います。投資家が目を通す可能性のある媒体に情報を掲載するのが望ましいです。分析がしっかりできていても、誰にも見られなければ意味がなくなってしまうので注意しましょう。

具体的には有価証券報告書や年次報告書、統合報告書、サステナビリティレポート、ウェブサイトなどで開示するケースが多いです。

おわりに

すでに欧州ではTCFDの義務化しようとする流れとなっており、これと同様の動きが日本にも見られます。

国内ではTCFD義務化が企業にとって負担になるとの意見もありますが、昨今の課題である「事業の持続可能性の観点」から考えると、TCFDの義務化は企業の長期的な存続にプラスに働くと考えられています。TCFDに関する動向は、今後のビジネスに大きな影響を与えることが予想されるため、引き続き注目が必要です。

EnergyShift編集部
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