米国テキサス州で、これまでの揚水発電とは発想が異なる、地質力学的揚水発電の計画が進んでいる。
2022年3月7日、独自の揚水発電技術を持つQuidnet Energyは、米国最大の公営企業で電力や天然ガスを供給するCPSエナジーとの間で、15年間におよぶエネルギー貯蔵プロジェクトについて商業契約をしたことを発表した。
今回のプロジェクトは、最大15MWの出力まで拡張可能なものとなり、最初のフェーズにおいて、1MWで10時間の運用が可能な揚水発電所を建設することになる。
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揚水発電は現在、電力貯蔵システムの90%以上を担っている。その点では成熟した技術といえよう。とはいえ、地質力学的揚水発電は、一般の揚水発電のように水を持ち上げてエネルギーを蓄えるのではなく、地質中に高圧で水を押し込むことでエネルギーを蓄えるというしくみとなっている。
出典:Quidnet Energy
電気が余っているときには、地上にある池の水を、およそ地下300mから450mの不浸透性の岩盤の層に圧力をかけて押し込む。電気が必要になったときは、押し込んだ水を放出し、加圧されていた水がタービンを回して発電する。
構造としてはシンプルだが、ポイントとなるのは、加圧水を貯蔵できる地層を探査し、開発することだ。その点、テキサス州は石油産業が盛んな地域であり、まさに石油探査と油田開発の技術が応用されている。ただし、シェールオイル開発と異なり、水圧破砕は行わない。
また、脱炭素化で石油産業が衰退する中、新たな雇用の受け皿としても期待されている。
水は地上の池と岩盤層の下を往復する閉鎖系となっている。また、河川改修を行わない。こうしたことから、自然環境への影響は最小限となり、山岳地を利用しないため、適用できる地域は多いという。
さらに、リチウムなどのレアメタルを使用することもなく、蓄電池など他のシステムのおよそ半分のコストで長期間にわたってエネルギー貯蔵が運用できるということだ。
また、1モジュールが1MWから10MWのサイズで、必要に応じてモジュールを追加するしくみとなっている。
最初に建設される1MWのプロジェクトは、Quidnetにとって最初の商業プロジェクトになるという。
これまでは、同じテキサス州のメディナ郡とサンサバ郡でテストサイトを開発してきたほか、ニューヨーク州とカナダのアルバータ州でもパイロットプロジェクトを進めている。特にカナダのプロジェクトでは、GW級の揚水発電の可能性について調査しているという。
同社の出資者には、ビル・ゲイツのブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズなどが参加している。
出典:Quidnet Energy
一方、CPSエナジーは、サンアントニオを中心に88万軒以上の顧客を持つ電力・ガス会社だ。同社は2040年までに温室効果ガスの排出量を80%削減することとしており、今回のプロジェクトは再エネ拡大に向けた重要な部分を担っているという。
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