経済産業省の総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会の委員である、公益財団法人地球環境産業技術研究機構システム研究グループ(RITE)主任研究員の秋元圭吾氏インタビュー。第4回は、エネルギーと投資、電力市場の環境について課題をお聞きした。
短期集中連載:秋元圭吾氏に聞く脱炭素への道
(全5回 毎日更新)
第1回 カーボンニュートラルは、なぜ困難な挑戦なのか (3月15日公開)
第2回 エネルギーミックスの目標と技術の進展をどう考える (3月16日公開)
第3回 原子力発電をエネルギーミックスにどう位置づけるのか (3月17日公開)
第4回 エネルギーインフラへの新規投資に必要なものとは? (本稿)
第5回 DXとEV、ユーザーに立ち返ったサービスでCO2削減を (3月19日公開)
―日本が今後、エネルギー分野や気候変動対策において力を入れるべき重点政策とは何でしょうか?
秋元氏:エネルギーシステム改革がだいぶ進捗していますが、それでもまだ道半ばといった状況です。FITは再エネの普及には役立ちましたが、国民のコスト負担が相当大きく膨らんでいます。そこで、まさに今、FIPに切り替えることにより経済合理性を働かせながら、再生可能エネルギー導入を進めていく方向にシフトしているところです。
こうした経済メカニズムを利用しながら脱炭素化を図るという政策手段は非常に重要で、ここで詳細な制度設計をしなければなりません。脱炭素化に向けた一丁目一番地は省エネですが、二番目は再エネです。
私がもっとも懸念しているのは、電力自由化によって短期的な投資回収ができるものに傾倒しがちだという点です。これは制度上の大きな欠陥だと思います。
これを是正するためには、新規投資の回収予見性がある程度立つような仕組みが必要です。
ただし、事業者側の努力も求められるのは当然で、総括原価方式に戻れと言っている訳ではありません。
地球環境産業技術研究機構システム研究グループ(RITE) 秋元圭吾 主席研究員
秋元氏:現在の自由化では、よい技術に対し長期的な投資回収を行う仕組みが生まれにくい状況です。長い目で見た投資回収を担保できるような環境を整えることが必要ではないでしょうか。
例えばCCS(二酸化炭素回収・貯留装置)は、通常の火力発電所よりも設備投資が大きくなります。大規模な設備であり、なおかつCO2を貯留するための掘削作業も必要です。さらに掘削にはリスクがつきもので、ファイナンスが付きにくいことも予想されます。その意味からも初期投資の一部を料金から回収できるなど、予見性が立ちやすい制度が追加的に必要です。これは、原子力の新増設にも言えます。原子力には批判もありますが、私はカーボンニュートラルの観点から必要だと思います。
こうした大規模な投資回収の一部でも予見性を高めるような制度面の後押しがなければ、今後の進捗は難しいでしょう。したがって、カーボンニュートラルの文脈の中では、今後投資予見性の立ちやすい制度設計が必要になると考えます。
―今冬のJEPX取引価格が高騰しましたが、その背景として、通常はJEPXの取引価格が低く、設備利用率の低い電源を維持することができないという問題があったと思います。今の話とも関係するのではないでしょうか?
秋元氏:市場にゆだねるだけでは、必要な発電設備を維持できないという、いわゆるミッシングマネー問題が言われています。JEPXの取引価格の下落によって、新規の発電所の投資回収がしづらくなります。
JEPXの取引価格はスパイクするから回収可能だという意見もありますが、その場合の時間軸は30年などという長期スパンです。いつスパイクするかもわからない30年間、投資家が待ち続けるはずがありません。ましてや、そんな条件で融資する金融機関もないでしょう。
その意味でも、投資回収の予見性をもう少し高める制度設計にしておかなければ、新規投資が弱まってしまいます。
気づいたら効率の悪い老朽火力ばかりの危険な綱渡りといった状況になりかねません。長期でうまく低炭素化、脱炭素化に誘導できるような制度を用意しておく必要があると思います。
2020年末から2021年1月にかけて市場価格は高騰した。
(第3回 「原子力発電をエネルギーミックスにどう位置づけるのか」はこちら)
(第5回 「DXとEV、ユーザーに立ち返ったサービスでCO2削減を」 は3月19日公開です)
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