エンジニアリング会社のプラント向けDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいる。運転管理にAIやデジタル技術を取り入れることで、プラントでの予防保全や、運転の効率化が図れるようにするサービスなど、従来のEPC売り切りビジネスからプラントライフサイクルサービスへと事業領域を広げている。また建設工事でもデジタル化を駆使した、効率化手法が取り入れられつつあり、エンジニアリング産業に大きな変化をもたらしている。
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「プラントには魔物がいる」という話がプラントの運転・保守でよく聞かれる。熟知しているはずのプラントのオペレーションでも、不測の事態は発生してしまうことがしばしば起こるからだ。
運転・保守をフィールドオペレータの勘に頼っている部分も多く、今でもプラントの運転はアナログな部分が多い。近年デジタル化が叫ばれるようになってきたが、なかなか一足飛びには進まないのが実情だ。そこにエンジニアリング会社自身がDXサービスを提供しようとしている。
例えば、石油精製では原油の輸入先が多岐にわたる。そのため3~5日に一回、輸入してきた石油の産地の油種に合わせて切替運転が行われる。これも従来は熟練オペレータがその経験をベースに運転を行っているのだが、その熟練オペレータも少なくなっている。こうした領域にもDX化で効率的に、安全に運転が行われようとしている。
千代田化工建設では、この油種切替運転を最適化するため「油種切替AIシステム」を開発した。これまでのマニュアルオペレーションをデジタル化してAIで最適運転を指示するもので、誰でも熟練オペレータ並みの運転ができる。既に一部製油所に導入しており、最終開発を行っており、近く本格的に販売開始できる。
また同社はLNGプラントのEPC(設計・Engineering、調達・Procurement、建設・Construction)が事業の大きな柱となっているが、ここでもAIを導入して運転を最適化するサービスを展開。新たな機器の追加や既存設備の改造も不要で、導入期間も短く、1トレインで最大5%の収益向上に繋がる。
このシステムではプラント運転の見える化、分析、効率化の3つのモジュールで構成しており段階的に導入が可能だ。既にインドネシアのドンギ・スノロLNGプラントで導入され、その効果が実証されている。
LNGや製油所の酸性ガス(CO2やH2Sなど)除去装置では、フォーミング(発泡現象)が発生しプラントの生産量の低下や、最悪プラントの計画外停止となってしまう。年間数百件ものフォーミングが発生し、その対応に追われているLNGプラントもあった。フォーミング対応はオペレータの経験に基づくもので、非常に負担が大きい。
そこで千代田化工建設では、フォーミング予測のAIモデルを開発。これにより発生の1時間以上前にフォーミングを検知し、先手を打って対応できるため、プラント操業が安定化し、年間で数十万ドル規模の機会損失を低減したという。
他にも千代田化工建設では、プラント運転の最適化や故障予知、遠隔監視などのデジタル製品群を取りそろえ「EFEXIS(エフェクシス)」のブランド名で統一。新たな製品・サービスの開発も進める等、エネルギー関連プラントをはじめとする各種プラント向けに拡充。今後数年間で年間10億円以上の売り上げを目指している。
EFEXISウェブサイトより 油種切替システムの概要図
これに対して日揮ホールディングスはデジタル製品としての販売ではなく、運転・保守を対象とした診断・改善サービスを「PLANT PLUS」の名前で展開している。石油精製や石油化学など各種のプラントで、熱流動解析・構造解析技術を使って診断、改善を行なうものだ。
例えば空冷熱交換器では、冷却後の暖かい空気を吸い込むことで性能が低下する高温排気再循環(HAR)現象というものがあるが、これを診断・改善するサービス「HARView」を提案。そのほか流体・構造解析で配管合流部の熱疲労割れの改善、加熱炉の熱効率の改善、さらには構造強度の解析による耐震化対応など幅広い分野でサービスを提供している。
またLNGプラントに対しては、計画段階から建設・運転・保守までライフサイクルで支援する「AIRLIZE LNG」というサービスを提供している。空冷LNGプラントでも、周辺の気象の影響でプラント性能が低下するHAR現象が起こる。これに対して、AIRLIZE LNGでは空気コントロールでLNGプラントの生産性を高めるよう計画段階から支援する。
Airlize LNG紹介ビデオ
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参照
千代田化工建設 EFEXIS
日揮ホールディングス PLANT PLUS(PDF)
日揮ホールディングス AIRLIZE LNG
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