国は2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを打ち出し、さらに今年4月には、2030年に向けて2013年度比で46%の削減目標を掲げた。経済界もさらに踏み込んだ対応が迫られるなか、経団連は6月15日、「グリーン成長の実現に向けた緊急提言」を発表した。脱炭素社会実現に向け、政府に欧米並みとなる十数兆円規模の財政支援を求めた。
経団連の提言では、太陽光発電などの再生可能エネルギーを主力電源化したうえで、原子力の最大限の活用やカーボンリサイクル技術などによって、電力の脱炭素化を推進すべきだとした。
だたし、日本のCO2排出量のうち約60%を製鉄や化学製品など、ものづくりの分野が占めている。これら産業は製造時に熱などのエネルギーを大量に使うため、電化が難しい。
経団連は「水素還元製鉄など、水素やアンモニアを活用した脱炭素化がものづくり分野では不可欠」だと指摘し、技術支援はじめ大量のグリーン水素やアンモニアなどを安く、安定的に調達するための国際的なサプライチェーンの構築を求めた。
一方、再エネの普及拡大によって、産業用の電気料金が平均15%以上値上がりしており、「電力多消費産業を中心にその影響は甚大で、国際競争力が削がれてしまう」と懸念を示す。
そこで「諸外国の制度を参考に、思い切った産業用電気料金の低減策が必要だ」とした。
自動車や船舶、航空機、鉄道などの運輸部門に関しては、ボトルネックのひとつを蓄電池だと指摘する。
蓄電池の低コスト化、小型化、軽量化といった課題解決に向け、大胆な補助金や税制措置の投入とともに、製造に欠かせないレアアースの安定確保も要望した。
一方、政府は脱炭素の実現に向け、企業のCO2排出量に応じて金銭的な負担を負うカーボンプライシングの導入を本格検討している。
カーボンプライシングには、企業の排出量に応じて課税する「炭素税」と、企業が排出できるCO2の量に上限を設け、その過不足分を別の企業と売り買いできる「排出量取引」の2つがある。
カーボンプライシング導入について、産業界からはエネルギーコストがさらに上昇し、国際競争力を弱める恐れがあるとの反対意見が多く、日本では本格導入に至っていない。
経団連はカーボンプライシングについて、「CO2排出に対するペナルティではなく、脱炭素社会実現に向けて、企業が主体的な取り組みを推進するインセンティブにすべきである」と主張する。そのうえで「再エネ由来の電力であることを証明する非化石証書やJ-クレジットなどは、カーボンプライシングの有力なオプションとなり、企業による主体的な取り組みを補完する役割を果たしうる」とした。
経団連の提言は、環境政策と経済成長の両立を図り、日本全体を根底から変革させるグリーン・トランスフォーメーション(GX)の実現を目指すとしている。ただ、その一方で、国際競争力を弱める恐れのあるカーボンプライシングや電気料金の値上げには、慎重姿勢を崩さない。
また「2030年目標の達成にはあと9年しかない」と指摘し、実現には欧米並みとなる十数兆円規模の財政支援を求めた。
経団連は新たな提言をもとに、政府などへの働きかけを強めていく考えだ。
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