前回は、個人レベルのEVシフトについて、変化が緩やかな可能性、加速する可能性をそれぞれ考えてきた。変化のスピードはともかく「脱炭素化」が進むことは確実なため、ガソリンスタンド(GS)の役割はこれまでとは違うものに変わらざるを得ない。例えば、これまでの給油に加えてEV(電気自動車)充電所としての役割も徐々に担っていき、充電中の待ち時間を活かしたメンテナンス、飲食、買い物、各種の娯楽や生活機能なども提供して、トータルで儲けていくような構造転換が必要になってくるだろう。
海外では既にガソリンスタンド(GS)に変化が見られる。例えば東南アジアのペトロナスは、GSでのレストランやショッピングなど、滞在時間を快適に過ごす実験を始めている。また、ロイヤル・ダッチ・シェルも2017年に既に「未来のGS」コンセプトを発表しており、ウォールストリートジャーナルによると「近い将来、シェルステーションはレストランで飲食したり、オンラインショッパーが商品をピックアップしたりできる場所になるだろう。運営に必要な電力はソーラーパネルでまかない、電気自動車や水素自動車の充電所にもなる(もちろん後ろの角ではまだ給油もできる)」ということだ。
出典/PHOTO:SHELL
もし、充電のできる近所のGSに魅力的なレストランが併設されていたり、買い物スポットになっていたり、あるいは通販品のピックアップやクリーニングができるなど、便利で訪れたい場所になっていたとしたら、「あとは値段さえ手の届く範囲だったら、ウチもそろそろEVにしようかな」と考える人も多いのではないだろうか?
日本のサービスエリアには既にこのような給油・充電以外の機能が一定備わっているので、GSの1つのモデルとして研究されているかもしれない。サービスエリアもまた、今後大幅に充電所が拡充されていくことだろう。こうした動きが、(私がテスラを手放す大きな理由にもなった)充電所の少なさという悩みの種の解消につながり、個人のEV購入を後押ししていくのではないだろうか。
さらに、これは都市部で特に顕著な傾向だが、昨今の若年層は環境保護への感度が非常に高く、また「車を所有したい」という欲求も他世代より低い傾向にある。このような若い世代は、初めから車を所有せずにカーシェアを選択するか、あるいはマイカーを購入するとしても、1台目からEVを選択する可能性が高いと考えられ、それによってEVへの転換は不可逆的かつ一定以上のスピードで進行していく可能性もある。
私は、既に都心部には日本のカーシェアのティッピングポイントが来ていると感じている。ただし、地方でも同じスピード感でカーシェアが普及するかは懐疑的だ。地方ではクルマが「生活の足」であり、カーシェア先進国のアメリカでも、カーシェア最大手のZipcarは都市部しか展開していない。それでも、少なくとも都市部のカーシェア用の車はEVにドンドン置き換わっていくだろう。そうなると、一般のEVオーナーが充電設備をカーシェア用に解放しはじめる可能性もあり、充電場所の充実化の一端を担っていくかもしれない。
以上のように、産業に端を発したEV化の波が、個人の生活においても、充電場所の増加などを通じて顕著に感じられるようになるだろう。そして、EVの普及に伴う価格逓減効果と相まって、2030年代に入る頃には「純粋なガソリン車」というのは、一部の中古やアンティークマーケット以外ではほぼ売られなくなっているのではないかと私は予想している。
(第10回につづく)
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