世界的に電動化が進んでいる4輪車(クルマ)に対して、あまり知られていないのが2輪車(バイク)の世界。自動車業界では、テスラ株が2020年9月の段階で日本の自動車メーカー上場9社の合計総額を上回り、今年2021年1月には、自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター(Ford Motor)、トヨタ自動車(Toyota Motor)、ホンダ(Honda)、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)、フォルクスワーゲン(VW)の時価総額の合計を上回りました。では電動バイク業界ではどうなんでしょう? どんなメーカーが、どんな電動バイクをリリースしていて、普及の課題は何なのか? そんなことを明らかにする連載にできればと思います。
4輪車の世界では脱炭素の流れが決定的となり、欧州をはじめ多くの国で2030年代までに新車販売のすべてを電気自動車(EV)にするという目標が掲げられているのは御存知の通り。日本国内でも菅政権が発表した「グリーン成長戦略」で「遅くとも 2030 年代半ばまでに、乗用車新車販売で電動車100%を実現」するという目標が示されているわけです。
ただ、この「電動車100%」という目標に、2輪車が含まれているのかは明確にはされていません。2輪車について、具体的な目標を示しているのは東京都で、小池都知事が2020年12月に都議会にて都内で販売される新車を2030年までに「脱ガソリン車」とする方針を表明した際、2輪車も2035年までに脱ガソリンを目指すとしました。
これを受けて、カワサキは2035年までに先進国向け主要モデルの電動化を完了すると発表。この電動化にはフル電動のBEV(バッテリーEV)だけでなくハイブリッド(HEV)も含まれるようですが、2025年までに10機種以上を導入と意欲的な目標を掲げています。
こうした動きからも、世界的な脱ガソリンの流れに2輪車は無縁であるとは言えません。4輪車の販売がすべてEVとなっている中で、2輪車だけが内燃機関でガソリンを燃やして走ることが認められるとは考えにくいですし、そもそもガソリンスタンドがなくなっていけば2輪車が給油することも困難になっているはずです。
とはいえ、EV化・ハイブリッド化が進んでいる4輪車に比べて、2輪車の電動化が遅れているのは事実です。実際には電動のバイクは国内でも結構販売されているのですが、普及しているとはいえません。そこで実際に電動バイクを日本で発売しているメーカーの相関をわかりやりすくしていくために、その各社メーカーを特性で2軸上の散布図にしてみました。
電動バイクメーカー散布図
1つの軸となるのは、従来からバイクを製造・販売してきたメーカーか、あるいは電動バイクで2輪マーケットに参入してきた新興メーカーであるかという点。たとえば国内ではホンダやヤマハ、輸入車ではハーレーダビッドソンやBMWといった老舗メーカーも電動バイクをリリースしています。
その一方で、これまでは名前も聞いたことがなかったような新興メーカーもどんどん増えています。海外メーカーだけでなく、国内のベンチャー的なメーカーも生まれてきているのが面白いところ。この中から、4輪のテスラ的なメーカーが、近い将来に生まれるかもしれません。
もう1つの軸となるのは、”乗るのを楽しむ”趣味性の高いバイクを主力とするのか、それとも実用性重視の近距離コミューターに力を入れているのかという点です。ガソリン車でいうと、前車は排気量が大きめのギア付きのバイク、後者は原付一種・二種クラスのスクーターなどが該当します。この点は、後述する電動バイクの課題とも関わってくる部分です。
電動バイクが普及するための課題は、4輪車に比べるとバッテリーを搭載するスペースが限られるということです。特に、趣味性の高いモデルにおいては、ツーリングに耐えられる航続距離が求められる一方で、軽快に操れる軽さも重要なので、むやみにバッテリー容量を増やすこともできません。現行のガソリンエンジンを搭載したバイクのように、数百kmの航続距離と乗って楽しい運動性能を両立することは、現在の技術ではなかなか難しいのです。
現状では、ある程度の距離を走れて運動性能も兼ね備えるマシンをリリースしているのは、ハーレーダビッドソン(ライブワイヤーは、CHAdeMO規格の高速充電に対応し、満充電時の最長航続距離は、市街地用のモードでおよそ235km、高速道路での使用においては152km)とZERO MOTORCYCLES(SR/Sが、最長 259km(市街地 30~50km/h で走行時)最短 132km(高速 113km/h で走行時)の航続距離)。それにBMW(Cエボリューションの航続距離は約160km(定地走行値)で最高速度129km/hだという)もスクータータイプではありますが、乗って楽しめるマシンを市販しています。ホンダと関係の深いレースコンストラクターである無限も「神電」というマシンで、レース活動をしており、その技術が今後どう活かされるのか注目したいところです。
逆に1回の走行距離が短くて済むコミューターであれば、バッテリー容量は小さくても構いません。ランニングコストも安いので、走行するルートが決まっている配達業務などにも適しているといえます。日本郵便では、首都圏を中心にホンダの電動バイクの導入を進めていますが、このジャンルでは電動バイクの普及が進みそうです。
また、コミューターのジャンルで期待されているのは、充電するのではなく、バッテリーを交換するシステム。バッテリー残量が少なくなってきたらステーションに行って充電済みのバッテリーと交換するという方式で、電動バイクの先進国である台湾では普及が進んでいます。日本国内でもGOGOROというメーカーが住友商事と組んで実証実験を行っていました。
充電を待つ必要がなく、交換だけで走行を続けられるため、インフラとしてステーションの整備が進めば普及を後押しする力となりそうなだけに、国内4メーカー(ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ)もコンソーシアムを設立する力の入れようです。
バッテリーとステーションの技術仕様について4社で合意しているほか、ステーションの設置場所についても議論を進めています。もしもコンビニエンスストアの駐車場などにステーションの設置が進めば、便利なシステムになりそうです。
ガソリンエンジンを動力とする従来のバイクに比べ、新興メーカーを含めた多様なプレイヤーが独自の考え方で取り組みを展開している電動バイク。第二次世界大戦後間もない時期に日本や欧州では、多くのバイクメーカーが勃興していた歴史がありますが、いま現在の電動バイクメーカーの百花繚乱ぶりとその各社への期待は、そんな時代を思い起こさせる状況です。
各々のプレイヤーがどんな思想で普及に取り組み、どんな未来図を描いているのか。この連載では、バイク業界から視た、その辺りを紹介していきたいと考えています。
EVと同じく激動が起こりうるであろう電動バイク業界のこれからの予想、そしてそのなかから生まれるテスラになるうる候補企業をいっしょに模索していきましょう。
つづく 第2回は11月下旬予定
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