エナシフTVの人気コンテンツとなっている、もとさん、なおさん、やこによる「脱炭素企業分析」シリーズ、特に好評だった企業事例を中心にEnergyShiftではテキストでお届する。第1回は日本製鉄である。
シリーズ・脱炭素企業を分析する(1)
昔は「鉄は国家なり」という言葉があったが、もはや今はそういう時代ではない。いかに脱炭素していくかが問われる時代になっている。まさに「鉄は国家なり」から「脱炭素は国家なり」で、日本製鉄も脱炭素へのシフトが進められている。
日本製鉄の株価は2020年後半から上げ基調、コロナ禍があったものの、後半の鉄鋼需要回復が株価上昇の一因とみられる。他にも、高炉15基を10基に整理統合するなど事業のコンパクト化を進めており、会社全体の構造改革が評価されているのも株価上昇の原因。
2012年に新日本製鐵と住友金属工業とが合併し、当時の社名は新日鐵住金。その時、株価は一度持ち直したものの、その後はゆっくりと下がっていった。2019年4月から、現在の日本製鉄に商号変更している。そして、脱炭素をどうするかというのが製鉄業にとっては非常に重要な鍵となっている。
日本製鉄は、源流をさかのぼると1934年設立の日本製鐵という国策会社。ただし、現在の日本製鉄は戦前の会社が法人として存続しているというものではないため、現在の日本製鉄のHPには書かれていない。
戦前の日本製鐵は、官営の八幡製鉄所、民営の製鉄会社が合併して発足したもの。国家総動員のための合併だ。戦後、GHQの指示で1949年に解散している。事業を継承したのが、新たに発足した八幡製鐵や富士製鐵など。そして現在の会社の法人としてのスタートは、1970年に八幡製鐵と富士製鐵が合併して発足した新日本製鐵となる。さらに2012年に住友金属工業と合併して、新日鐵住金となり、2019年には現在の日本製鉄に改称した。
現在、日本製鉄は、高炉を15基から10基に減らしていこうとしている。実は、製鉄業の国内需要は低迷しているが、構造改革で遅れをとってしまったのが現状。高炉は一度火を入れたら、停めるのはとても難しい。高炉を停めてしまうと中で鉄が固まってしまい、処理が大変なことになる。そのため、高炉による製鉄では生産調整ができないのだ。
また、電炉の割合が少ないことも、日本の製鉄業の課題だ。三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏は、「欧米はすでに7割は電炉による生産だが、日本は3割程度にとどまっている」と指摘する。電炉もたくさん電気を消費するが、石炭で鉄鉱石を還元する高炉と比較すると、CO2排出量は少ない。先進国は鉄鋼の原料としてスクラップの割合が増えているが、日本は高炉にこだわり、スクラップを中国に輸出してしまっていた。
産業構造を転換できなかった原因としては、低い企業価値の大企業による財界支配があげられる。かつての新日本製鐵だけで経団連会長を3名出すなど、歴史のある企業だからこそ支配力がある一方で、変革は容易ではなかった。
しかしそうもいっていられないのが現状。この脱炭素の流れの中で一気に構造改革を進めていけるかどうかが非常に注目であるし、問われているところ。
「脱炭素は国家なり」ということで、日本製鉄も脱炭素に向けたさまざまな取り組みを進めている。「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050~ゼロカーボン・スチールへの挑戦~」として、2030年CO2を30%削減。30%は少ないと思われるかもしれないが、今ある技術だけで脱炭素化していく前提なのでこうした数字。その後、さまざまな技術革新や新技術を導入していき、2050年にはカーボンニュートラルを目指す、といった二段構えで日本製鉄は脱炭素に取り組んでいく。
2050年に向けては電炉の大型化や高性能化、水素還元製鉄、CCUSなどを次々と導入していくという。
出所:日本製鉄中期経営計画
ところで、なぜ鉄を作るとCO2が出るのか。鉄の原料である鉄鉱石は酸化鉄だ。これを、石炭からつくられた炭素の塊であるコークスを反応させ、鉄とCO2に変化させる。いわゆる酸化鉄の還元反応という原理だ。およそ1トンの鉄を作るのに2トンのCO2が発生するのが非常に悩ましいところ。
そこで炭素のかわりに水素で鉄鉱石を還元する技術の開発が進められている。とはいえ、水素も石炭由来の水素では意味がないのでカーボンフリー水素、グリーン水素などを使うということだ。
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日本のセクター別のCO2排出量を見てみよう。左のグラフは発電所から排出されるCO2をエネルギー転換部門としているが、右は発電によるCO2を需要側に振り分けたものだ。
こうすると、日本全体のCO2排出量の39%が産業部門となり、しかも日本製鉄一社だけで39%のうち9%を占めることがわかる。日本のCO2排出量の9%を占めている会社がカーボンニュートラルになるというのは相当インパクトがあることだ。
出所:日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050
日本製鉄は電気も販売している。2001年、電気事業をスタートさせ、自社の発電所で自家発電、廃棄物発電を行ってきた。
その発電事業を2006年、新日鐵エンジニアリングとして分離、今も社名を日鉄エンジニアリングと変更し、電気の販売を行っている。販売電力量は約6億kWhで、沖縄電力の10分の1にあたり、廃棄物発電、バイオマス発電、地熱発電など脱炭素につながる発電を行っている。エンジニアリング会社としては、これまで洋上の石油、ガス田のプラント、港湾の開発などを手掛けてきた。こうした経験から、洋上風力への参画も視野に入れている。
親会社の日本製鉄は守りの脱炭素だが、日鉄エンジニアリングは攻めの脱炭素として、虎視眈々とトレンドに挑んでいるので、同社からは目が離せない。
ところで、日鉄エンジニアリングは女性が働きやすい会社を掲げ、SDGsにも対応している。
これは2011〜15年当時の高橋社長が強く推し進めてきた部分だ。記者を対象とした当時のブリーフィングでは、「最初に自分の会社の取り組みで一番自慢できることは女性の活躍、女性の登用」と語っている。「女性が結婚や出産で会社をやめてしまうのは会社にとって非常なマイナスでしかない。それならば女性が戻ってきてくれたなら即戦力になるのだから、戻ってきやすい会社にしていく」とのこと。
女性活躍推進法における認定制度「えるぼし」についても、2017年からずっと認定を受けており、脱炭素だけでなくSDGsの推進という意味でも非常に注目できる。
製鉄会社の脱炭素はいばらの道。技術だけじゃなく、会社そのものの改革も必要。これまでしがみついてきた高炉という技術を取り払い、新しい技術に進むことも会社の改革。一方、エンジニアリング部門では、脱炭素で攻めていける。期待出来るところは多い。脱炭素の攻めと守りをしっかりやっていくことについて、日本製鉄の今後に注目、期待していきたい。
(Text:MASA)
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