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決算発表から見る日産の今後 脱炭素視点で分析すると

決算発表から見る日産の今後 脱炭素視点で分析すると

2021年05月13日

日産の2020年度決算が出た。EVを日本でリードしているのは日産であり、脱炭素戦線という意味でも重要な企業のひとつだ。元々、2020年度の業績は良くないと予想はされていたものの、数字は真っ赤。決算資料で言及もあった今後の電動化戦略を、ゆーだいこと前田雄大が解説する。

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日産の2020年度決算を振り返る

まず車の販売台数をみてみましょう。

2020年度販売実績


日産自動車株式会社 2020年度決算報告資料より

2020年度当初見通しよりも販売台数が減っているのが分かります。コロナや半導体減産の影響だということです。販売台数は、同時に決算報告したスバルも同じ影響で当初目標よりも下方実績(2021年3月期計画86.79万台→実績86.02万台)になっているため、回復が早かったトヨタなどを除いては、ある種共通することではないかと見ています。

問題は財務実績です。2020年度は販売台数減もあり、売り上げが減少。営業利益も減少、赤字拡大。経常利益は黒字から赤字に、となっています。

純利益だけを見れば、2019年度よりは改善しているが、それは2019年度に構造改革費用及び減損損失などで5,730億円のマイナスを計上したから2019年度は赤字が大きかったのです。

ここを見ると、全然プラスがないではないかというくらいにひどいです。日産の市場評価も下がってしまいます。

日産は堅めの予想をする

ですが、ここで少し見方を変えたいと思います。日産、ちょっとした特徴があるんです。

まず一つ目。堅めの予想をしすぎるという傾向です。そもそも、元の推定に対してどうだったのでしょうか。

前回の決算の時点で、2020年度はコロナの影響があるとの予想がありました。予想外だったのが半導体の減産です。つまり、元々の推定に対してもマイナスになりそうだったのが、実際は2020年度当初見込みを、中間レビューのときに上方修正しました。さらに実際の決算はその中間時点での見通しよりも上方修正になっています。

財務実績(東証届出値) 営業利益増減分析(対見直し・億円)


日産自動車株式会社 2020年度決算報告資料より

半導体減産の影響があったにもかかわらず、それを計算に入れ込むことが出来なかったいずれの見通しよりも、数字が上昇した、というのは、プラスの材料として見ることができるのではないか。

つまり、当然、状態は「良くはない」。けれども、一番底は脱して、上方に向かいつつある。それはコロナや半導体減産という強いマイナス要素があっても、ということで、それなりに強いトレンドだ、と見ることができると個人的には見ています。

「そもそも、堅めに当初予定を作り過ぎなのではないか」との指摘もあります。堅めに作っておけば、当然、上方にいく。僕も同意見です。堅めに予想を作って、あとで上方修正する傾向はあるようです。

ただ、一番底にいた企業なので、そのようにしておかないと、市場の信頼をより失墜してしまうというところもあるのではないか。そのための「堅めに予想をつくって、上方修正」ではないかと思います。

実は2期以降は回復傾向

もう一つ重要な点として「実は2期以降は回復傾向にあった」点が挙げられます。注目は、2020年度の実績が時系列でどうだったのか、です。

2020年度:主要財務指標の推移


日産自動車株式会社 2020年度決算報告資料より

コロナからの経済回復も考慮に入れないといけない要素ですが、数字上大きくマイナスになったのは第1四半期のみ。それ以外の期は連結ベースで見ればいずれの期も営業利益、キャッシュフローともにプラスだったことが分かります。

売り上げは、期を追うごとに上がっていっています。そして、それが販売台数にも反映されています。特に、米国、欧州の市場で数字が改善しているのが見て取れます。

これらの数字は、方向という意味では、日産がやはり一番底は脱したという材料にもなると思っています。

2020年度の他の要素として、コロナ禍においての構造改革です。これはかなり厳しかったと思いますが、資料のとおり、一応、成果は上がったようで、損益分岐点の台数値も下げることが出来たという形となっています。身の丈にあった改革が進んだということでしょうか。

以上、決算の最後の数字だけを見ると、真っ赤で割と悲惨なのですが、中身をブレークダウンしていくとそこまで悲観する内容ではないのではないかという分析です。

2021年度見込みから見る日産の姿勢は

販売見通しはこの通り、増える見込みで出してきています。先ほどの構造改革の結果の損益分岐点の440万台、こちらに合わせた格好に目標がなっています。業績見込みがこちらも各種数字については改善予想を立てています。注目すべきは営業利益の0という数字。

2021年度 業績見通し(東証届出値)


日産自動車株式会社 2020年度決算報告資料より

このように意思決定したかの内訳は下図のとおりですが、注目は右から二つ目の「ビジネスリスク」という赤部分。

2021年度 業績見通し(東証届出値) 営業利益増減分析(対見直し・億円)


日産自動車株式会社 2020年度決算報告資料より

この部分について内田社長は「2021年度の自動車市場は半導体供給不足の影響を受け不透明な状況が続くとみており、当社も例外ではなく第1四半期を中心に影響を受けると見込んでいます」と言及。

前述の通り日産は「堅めに予想して、上方修正」の傾向があると指摘しました。ここにもその慎重姿勢が現れていると見ています。営業利益については、赤字でも黒字でもいけるように作為的に0に設定したようにも見受けられる数字設定です。

「いや、堅めに予想しすぎだろ!」と個人的には思わず突っ込んでしまいたくなりますが、底からの回復期ですから、致し方ないですかね。結果として、純利益が600億のマイナスとなりました。

報道は3期連続マイナスだが・・・

これを受けて、報道も、日産の決算は、連続の大赤字、来期も含めて3期連続のマイナスだ、という形で報道しています。

ですが実際はどうなんでしょう。個人的には、この堅めすぎる予想がゆえにそうなっているだけで、実際には、上方修正をもくろんでいると見ます。仮に赤字だった場合、この会社のキャッシュフローはまずいのではないかと思われますが、現状は流動性は一応確保されています。

流動性の状況(2021年3月末時点)


日産自動車株式会社 2020年度決算報告資料より

これに加えて、すでに今季、独自動車大手ダイムラーの全株式を約1,500億円で売却。これについては、電気自動車(EV)の開発など、電動化への投資に充てると発表するなど、着実に電動化対応も進んでいます。

e-POWERも含めて、電動化は着実に進展していて、その点では脱炭素時代には、しっかり適合準備が出来ている会社なのです。

同時に発表された来季に向けた日産電動化ロードマップは

決算会見で内田社長は勝負のEV「アリア」について言及。今年度中ごろに投入されると見られていますが「すでに約20万人のハンドレイザー(見込み客)がいる」と述べました。

さらに軽EVについて「現在、三菱自動車との共同プロジェクトとしてNMKV(日産・三菱によるジョイントベンチャー)で企画開発している軽のEVは、今後他社に先駆け国内市場に投入します」とアナウンス。

電動化のもう一つの核であるe-POWERについては、今後、EV以外の電動車についてe-POWER車に一本化する見込みで、現行のセレナ、キックス、ノートの3車種から次期型エクストレイル、エルグランド、スカイラインなど6車種以上に拡大する方向で開発を進めています。見込みとして、国内向け車両だけで月販3万台以上に達するという報道もありました。

こちらについて、内田社長は「e-POWERも積極的に搭載車種を拡大し、日本での成功を中国や欧州に広げていきます。中国では今年度のシルフィを皮切りに、2025年度までに6車種へ搭載する予定です。欧州のキャシュカイには、日産が世界で初めて量産を実現した可変圧縮比エンジン VCターボを発電専用エンジンとして使用するほか、来年度には新型エクストレイルにもe-POWERを搭載する予定です。また日本でも今後搭載車種はさらに拡大させていきます」と述べました。

日本でも高評価のe-POWER。世界の電動化の波にも、少なくともアメリカ、中国の方向に合致します。これは結構勝負になるのではないか?とも思います。

バッテリーやe-POWERのコスト低減に言及

日産がまとめたラインナップがこちら。これまでランナップがかなり問題視されてきていましたが、ようやく、手ごまが揃ってきた感があります。

電動化戦略については「2030年代早期より、主要市場に投入する新型車を全て電動車両へ」。「そう、それでいい!その計画をさらに前倒しにしていく!」と個人的にはいいと思います。


日産自動車株式会社 2020年度決算報告資料より

技術開発ロードマップについては、このように発表。肝となるバッテリーのコスト低減にコミット。これは非常に重要ですし、いい論点です。さりげなく全固体電池については2030年よりも前に実現、と設定。VWなどとも戦える!e-POWERもコストダウンをはかり、2020年代中盤には第三世代に入るというところをコミットしました。

技術開発のロードマップ


日産自動車株式会社 2020年度決算報告資料より

脱炭素時代の自動車会社のロードマップとしては、十分にいい内容ではないでしょうか。

欲をいえば、ホンダが、自動運転やセンシングに言及したのに対して、発表内容は少し弱いと感じましたが、それだけ、電動化にかけてきているのが分かります。

少なくとも、日本で、日本メーカーのEVとなった場合には、日産・三菱連合ほぼ一択ですから、ここでもしっかり2021年度、勝負してほしいなと思います。いずれにしても、真面目に電動化に取り組んできた企業、そこを僕は応援したいですね。頑張れ日産!

日産の株価分析は

今回の決算を踏まえて、株価はナイアガラの滝のように下がりました。二期連続の赤字、及び次の期も赤字見通しということで、大手投資家含め、自動的に手放した人が多いのだと思います。

ですが、今回の分析を通して、個人的な見通しとしては、2021年度は、当初目標よりは上方修正してくる。すると赤字から黒字転換になるので、そうした発表が中間レビューのところや、次期年度末決算で出てくると、今回の下がった反動は一気に来るのではないか。そのように、今回のナイアガラ現象については見ているところです。

10年のスパンで見ると、底はコロナショックもあった2020年3月、そこからは上昇トレンドにあります。

半導体減産の影響もあり、しばらくは450円から600円の間を行ったり来たりかもしれません。しかし、上昇トレンドは割と強く出ているのと、やはり3月が実績的にも底だったことを見れば、上がる方向性だろうと思います。配当はいま未定の状況ですが、黒字転換ならびに配当復活となると、一気に戻ってくるのではないか。

あとは、EVでどれくらい戦えるか。国内はまだEV熱がそこまで高くないですが、国際的なEV戦線でアリアがどれくらい戦えるか、ここも市場の期待値がかなり高くなってくるだろうと思われます。

いち早くガソリンからの脱却路線を打ち出し、負の資産評価もなくなってくると考えると、そこの部分の投資家評価も段階的に上がってきそうです。

上がるとすると水準は・・・

では、上がるとなるとどこの水準か。

この10年の水平反発ラインはこのように900円あたりに引けます。つまり黒字転換、配当復活等が出てくれば、ここの水準まで一時的に上がる可能性があるとも見えます。ここで当たって下方に下がるのか、それとも上方に上抜けするのか。

次の水平ラインが1,050円あたりになるので、ここが次の指標だと思います。長期で見ると30年グラフがこのような形になります。このグラフを見ると実は300円くらいを底値に上がるというのが伝統的な日産株価の波形であるのが分かります。

過去二回、いずれも上下を繰り返しながら強い上方トレンドの中で1,300円くらいまではいく、というのが傾向として見ることができるのではないでしょうか。

個人的には、今回の決算、光るものもあったと思いますので、もし500円を割るような株価になったのであれば、買ってみて長期ホールドしてみる、そういうのも「あり」ではないかと個人的には分析しています。

いずれにしても、今日はこの一言でまとめたいと思います。『結構、膿だしが終わった日産 電動化の時代の波に乗れ!』

 

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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