ドイツ政府、卒FIT対策を本格化 再エネの発電装置を援助の方針 | EnergyShift編集部

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ドイツ政府、卒FIT対策を本格化 再エネの発電装置を援助の方針

ドイツ政府、卒FIT対策を本格化 再エネの発電装置を援助の方針

2020/11/10
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激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 第31回

日本でも2032年以降、事業用のFIT電源が卒FITを迎え始める。一方、FITで先行したドイツは、2021年にも卒FITとなる発電所が出てくるが、その後も再エネを拡大していくためには、発電を継続してもらうための施策が必要ということだ。年内にも新たな政策が発表されるという。ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏が、ドイツの卒FITをめぐる議論について報告する。

「卒FITの発電所の停止は考えていない」

ドイツ連邦経済エネルギー省のペーター・アルトマイヤー大臣は、2020年10月14日に、ドイツの風力発電・太陽光発電事業者にとって極めて重要な発言を行った。

大臣は、この日ベルリンで行われた再エネ業界や州政府代表との会合の席上、「今年末に再エネ電力の固定価格による買取り(FIT)が終わる発電装置への支援措置を今年末までに決める」と述べたのだ。

続いて大臣は「来年から助成金を受けられなくなるこれらの発電装置が持つ潜在的な可能性を重視し、運転継続を可能にする。場合によっては、発電量がさらに増えるようにすることも考える」と語った

大臣によると、20年経過した発電設備については、「Repowering(リパワーリング=更新)」を促進する。大臣は、「これらの発電設備を停止させることは、考えていない」と強調した。これらの発電設備を停止させた場合、ドイツは「2030年までに再エネ発電比率を65%に高める」という目標を達成できないからだ。

経済エネルギー省は12月のクリスマス休暇が始まる前に、具体的な卒FIT対策を策定し、現在作成中の再生可能エネルギー法(EEG)の改正案に盛り込む方針だ

ドイツ連邦経済エネルギー省のペーター・アルトマイヤー大臣

再エネ発電ブームから20年後の課題

EEG法に基づくFITがドイツで始まったのは、2000年。当時のシュレーダー政権は原子力を代替する再生可能エネルギーを急激に拡大するために、送電事業者に対し風力、太陽光などからの電力については政府が法律で決めた価格で買い取ることを義務付けた。

EEG法においては、送電事業者は、再エネ電力については需要の有無にかかわらず、系統に流し込まなくてはならない。しかも買取り価格は、20年間にわたって固定された。これは発電事業者にとって、価格変動リスクをほぼゼロにする、寛容な措置である。しかも2000年代の最初の10年間には、特に太陽光による電力の法定買取価格が高く設定された

2000年代の初めの電力卸売市場では、再エネ電力よりも石炭・褐炭や原子力からの電力の方がはるかに安かった。つまり再エネ電力の価格競争力は弱く、送電事業者は法定価格では再エネ電力を卸売市場で売ることができない。そこでシュレーダー政権は、再エネ電力の法定価格と市場価格の差額を、電力消費者に賦課金として負担させることにした。つまりドイツ市民は電力を消費するごとに、再エネ電力の発電事業者を間接的に支援したのである。

このFIT制度のために、ドイツでは2000年以降、空前の再エネ発電装置・建設ブームが起きた。風況が良い北部を中心に、白く塗られた風力発電プロペラが雨後の筍のように建てられていった。

ドイツでは、今年上半期の発電量の内48.4%が再エネ電力である。石炭・褐炭・原子力の合計(31.4%)を大きく上回っている。再エネ電力の比率がここまで高まった裏には、発電事業者にとって有利なFITがある。

再生可能エネルギーによる発電量割合 2020年上半期

1. Halbjahr 2020: Erneuerbare Energien decken die Hälfte des Stromverbrauchs in Deutschland

2025年までに16GWの再エネが消滅の危機

だが20年のFIT期間が終わると、発電事業者は法定価格で再エネ電力を売れなくなる。現在卸売市場では、再エネ電力の価格が2000年代の初めに比べて大幅に下がっている。再エネ発電量が増えたために、価格競争力が高まったのだ。

2017年以降新しく建設される再エネ発電装置については、助成価格は原則として入札によって決められる。「助成金は不要」とする発電事業者が落札するケースも増えている。再エネ電力は助成金がなくても市場で戦える力を付けたのだ。さらにコロナ危機によって電力需要が激減したことも、再エネ電力の卸売市場での価格の下落に拍車をかけた。

つまり発電事業者は、市場価格で再エネ電力を売っても風力プロペラの運転コストをカバーできず、運転停止に追い込まれる危険が高まっていた。

風力・太陽光発電業界では、「政府が何の対策も取らないと、多数の卒FIT発電装置がストップし、2025年までに再エネ発電容量が16GW減る」として、経済エネルギー省に対し過渡的な支援策を実施するよう求めていた。

アルトマイヤー大臣は、気候変動対策として再エネを拡大しなければならない時期に、多量の設備容量が消滅することを見過ごすことはできない。このためどのような方法で卒FITの発電装置を救うべきか、現在方法を検討している。

経済エネルギー省は、卒FITの発電装置については、卸売価格からマーケティングのためのコストを差し引いた値段で、発電事業者が引き続き送電事業者に、電力を売れるようにすることを計画している。発電事業者がリパワーリング後に発電設備がスマートな(自動化された)計測装置を付ければ、マーケティングのためのコストはさらに下がっていく。

またアルトマイヤー大臣は、政府からの補助金ではなく、できるだけ市場メカニズムを利用することによって支援コストを最小限に留めたいとしている

卒FIT電源利用で注目されるPPA

こうした中、ドイツ第2位の再エネ電力販売会社「ナトゥーア・シュトローム(本社デュッセルドルフ)」は、2021年以降FIT適用が終了する発電設備からの再エネ電力を、積極的に顧客に提供することを考えている。

ナトゥーア・シュトローム

同社の推計によると、2021年だけで約5,000基の陸上風力発電装置について、FITの適用が終わる。

卒FITの発電事業者は、送電事業者に卸売価格で売るだけではなく、PPA(Power Purchase Agreement)を結ぶこともできる。ナトゥーア・シュトロームには、卒FITを控え、PPA締結を希望する発電事業者の問い合わせが殺到しており、4週間で86の再エネ発電設備に関するPPAを結んだ(出力52MW)。

同社はこの他にも、直接販売企業クヴァドラ・エナジー社を通じて、49基の風力プロペラ(出力35MW)から電力の供給を受けている。

ナトゥーア・シュトロームのオリバー・フンメル社長は、「ドイツ政府は、卒FITの再エネ発電装置に対して、2年間にわたって少なくとも運転費用をカバーするだけの価格(1kWhあたり3.2ユーロセント)を保証することによって、運転継続を可能にするべきだ」と主張する。この措置によって、2年間に生じるコストは1,500万ユーロ(18億円、1ユーロ=120円換算)になる

フンメル社長は、「2021年からの2年間で、6GW相当の再エネ発電設備へのFIT適用が終わる。これらの発電事業者の大半は、まだ電力を販売し続けるための契約を結んでいない。連邦政府が何らかの救済策を実施しないと、これらの発電設備の大半が運転をやめることになる。気候保護のために再エネ拡大に拍車をかけなくてはならない重要な時期に、多数の風力プロペラが停止することになる」と警告する。

来年(2021年)1月からFITの適用から外れる発電事業者は、特に不利な状況にある。その理由は、コロナ危機の影響で電力の卸売価格が低くなっているので、彼らは政府の支援なしには運転費用をカバーできないのだ。

フンメル社長によると、2021年にFITの適用が終わる再エネ発電設備の容量の合計は、2019年に新設されて運開した再エネ発電設備の容量の合計の4倍に達する。陸上風力発電設備の新規設置数が減っているので、卒FITの発電設備が大量に運転をやめた場合、ドイツのエネルギー転換にとっては大きな後退となる。


ナトゥーア・シュトローム プレスリリースより

電力会社のロビー団体、ドイツ連邦エネルギー水道事業連邦連合会(BDEW)のケアスティン・アンドレー専務理事も、卒FIT発電装置のための支援措置を要求している。同氏は「CO2削減目標を達成するためには、現在すでに陸上風力発電設備が設置されている場所をリパワーリングのために維持することが重要だ。リパワーリングを行えば、収益性が増えるので効率的に再エネの発電比率を高めることが可能になる」と指摘する。

さらにBDEWは、卒FIT発電装置の支援のために、様々な法律改正や規制緩和が必要だと主張する。たとえば連邦政府は、現在すでに風力プロペラが設置されている場所でリパワーリングの許可が容易に得られるように、法的な枠組みを整備することや、風力プロペラの高さの制限や、民家からの最低距離についての規則を見直すことを求められている。

アンドレー専務理事は、「政府はFIT適用が終わる発電設備を、できるだけ早急に直接販売市場に取り込むことを目標とするべきだ」として、直接販売へのスムーズな移行を妨げている様々な規則の見直しを行うとともに、登録費用などの引き下げを行うよう要求した

EEG改正案にどのような卒FIT支援措置が盛り込まれるか、再エネ業界は息をつめて政府の動きを見守っている。

熊谷 徹
熊谷 徹

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。 ホームページ: http://www.tkumagai.de メールアドレス:Box_2@tkumagai.de Twitter:https://twitter.com/ToruKumagai
 Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/ ミクシーでも実名で記事を公開中。

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