自動車メーカーの3Dプリンター採用が加速している。今までの補修用パーツやプラスチック成型のモデリングだけではなく、さらに本格的になっている。それにはEV化の流れとも強く関わっている。なぜEVには3Dプリンターが有効なのか。
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自動車メーカーの3Dプリンター採用が加速している。
日産自動車は3DエンジニアリングのSOLIZEと日本HPと共同で、NISMOヘリテージパーツの生産を始めたと3月に発表した。これは、製造中止やモデルチェンジしたパーツを3Dプリンターでつくるというものだ。SOLIZEはトヨタとも補修パーツなどで協力関係にある。
BMWは2018年、はじめて量産車BMW i8 Roadsterで実製品にアルミ合金の3Dプリンター製品を一部実装。同社は2020年6月に3Dプリンティング(アディティブ・マニュファクチャリング=AM)の新しい施設をドイツ・ミュンヘンに開設した。同社の3Dプリンティングによるさらなる新技術の開発をになう拠点になる。VWもインテリアやエクステリアのプロトタイプ製作で3Dプリンターを活用していることで知られている。
実装された3Dプリンターでつくられたパーツ(BMW ウェブサイトより)
自動車メーカーはこのように、小ロットでしかつくれないプロトタイプや補修品などに使うため、3Dプリンターを採用してきた。
そこに今、新しい理由が加わった。脱炭素の流れによる自動車のEV化の流れだ。EVになぜ3Dプリンターが重要なのか、3つのポイントを紹介する。
3Dプリンターはいわゆる一体成形が可能だ。それにより、ボルトの多くが不要になる。ガソリンエンジンにおける重量の4〜5キログラムはボルト類が占めているといわれ、それが減るだけでも魅力的だ。また、軸部分の試作品では6割の軽量化に成功した例もある。
ポルシェは3DプリントされたEV用のギアボックスを開発した。ドライ部分のハウジングは、鋳造部品を使用するときに比べ、10%軽量化されるという。3Dプリントは特殊形状も可能なため、鋳造部品の2倍の強度が可能で、軽量化と強度を両立させている。
ポルシェ開発センターのパワートレイン先行開発部門でプロジェクトマネージャーを務めるファルク・ハイルフォート氏は、「あらゆる利点を持つアディティブ・マニュファクチャリングが、電動スポーツカーの大型で高負荷のかかる部品にも適していることが証明されました」と述べている。
ポルシェの3Dプリントで試作されたEV用のギアボックス(ポルシェウェブサイトより)
EVは実は、「重さとの勝負」が肝心でもある。バッテリーは非常に重く大きいため、車の駆動に、ガソリンよりもパワーが必要になるのだ。もちろん、航続距離にも影響してくる。
EVは重さ、強度、航続距離、コストなどの掛け合わせが非常に重要で、車体やエンジンは軽ければ軽いほうがいい。3Dプリンターでは新素材を試したり、一体成型での製造で軽さに寄与できる。少しでも車体を軽くするための3Dプリンター活用がここに来て注目されている理由だ。
最初に挙げたように、プロトタイプ製造や修理対応(ヘリテージ市場)はもちろん、レース車を含む特別仕様車など、3Dプリンターは小ロット生産に威力を発揮してきた。
EVはまだまだ開発途上の技術でもあり、その開発スピードを上げるためにも3Dプリンターが必要とされている。形状だけではなく、たとえば素材に関してもそうだ。
3Dプリンターが出回った当初のプラスチック射出成形から、扱える素材は飛躍的に増え、より強度のあるアルミニウム合金へ、さらにカーボンに特化したものも出てきている。さまざまな素材を素早く試すことができるようになった。
とかく「図体の大きい」自動車産業だが、小回りの利く開発は、目まぐるしいスピードで進化するEV開発には非常に重要になる。金型の不要な3Dプリンターは小ロット生産でアジャイル開発に向き、よりすばやいモデルチェンジ、パーツの見直しができるようになるだろう。
従来はEVになると部品点数が減るといわれてきた。しかし、純EVだけではなく過渡期のHEV(ハイブリッド)まで広げると、話しはそう簡単ではない。日産自動車の生産技術部門、塩飽紀之氏は日経の取材に対して「電動化が進むと部品は増える」という。内燃機関にEVとほかのエネルギーとを両立させなければいけないからだ。
日産では2035年時点で、「モーター搭載の電動車の5割はHEV」と考える。そうなると、多様化する内燃機関に対してより多くのパーツを作らなければならない。3Dプリンターはこうした「多様化」する製品需要に応えられるのだ。
マサチューセッツにある3Dプリンターメーカー、Markforgedは2021年3月、株式公開計画を発表した。時価総額は21億ドル(2,240億円)になるとみられている。同社はカーボンに特化した3Dプリンターを開発・製造しており、クライアントにはNASA、米空軍と並び、トヨタ、ポルシェ、テスラも含まれる。
GEグループは相次いで3Dプリンターメーカーを買収。グループ内で3Dプリンター活用を拡大しているが、現在注力しているのがBinder Jetting方式の金属3Dプリンターだ。これは金属、セラミックなど幅広い材質で利用が可能で製造能力が高く、3Dプリンター分野で最も注目を集めていると言ってもいいだろう。GEアダプティブの目標は、自動車の最終部品量産だ。
「Binder Jetテクノロジーの資本コストとスループットの比率、および大幅に低い原材料コストにより、3Dプリンターが量産性能を備えると、最大の製造セグメントである自動車業界で従来の製造技術を真正面から取り入れることができます」と開発担当者は自信を見せる。
金属3Dプリンター「H2 Binder Jet」(GEグループウェブサイトより)
今回は自動車産業、EVでの脱炭素と3Dプリンターをみてきたが、実は3Dプリンターが脱炭素に寄与できるのはクルマだけではない。この記事でも見てきたように、分散製造が可能な3Dプリンターは輸送分野でも脱炭素に力を発揮する。
3Dプリンター企業Ivaldi Groupがスローガンとして掲げている「Send Files, Not Parts(パーツではなくファイルを送ろう)」のように、分散型製造のコンセプトも興味深い。コロナ禍におけるグローバルサプライチェーンにも影響を及ぼすだろう。
3Dプリンターの性能は飛躍的に向上している。世界の3Dプリンターの市場規模も2029年には1,180億ドルに達するという。
脱炭素と3Dプリンター市場はこれからも急成長するとみていいだろう。
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