コロナ禍の夏 原村ヴェジテラスと小水力発電 | EnergyShift

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コロナ禍の夏 原村ヴェジテラスと小水力発電

コロナ禍の夏 原村ヴェジテラスと小水力発電

2020年11月18日

原村からの便り 3

地域と環境というテーマで考えたときに、農業とエネルギーは新旧のテーマであり、いずれも重要なものだ。だからこそ、どこかでつながるような取り組みが望まれている。千葉商科大学名誉教授の鮎川ゆりか氏が、長野県原村における取り組み「原村ヴェジテラス」と小水力発電の可能性を紹介する。

地域の人たちに地元の夏野菜を「原村ヴェジテラス」

新型コロナウイルスに脅かされ続けている2020年。この夏、原村の主要なイベントはすべて中止された。7月から9月まで毎日開かれる「原村高原朝市」、夜空の星を見る「原村星まつり」、野外で行う「星空の映画祭」などがそうだ。

しかし、ことに「高原朝市」のために夏野菜を生産している生産者さんもいることから、「地産地消」をめざす「自立する美しい村」研究会としては、地域の人たちに地域で生産される夏野菜を食べてもらう、という趣旨で「原村ヴェジテラス」という小さな夏野菜のバザールを毎週土曜日(朝10時~午後2時)に開くことにした。

原村ヴェジテラスの様子

主に農薬不使用、有機野菜などを中心に、包装もプラをやめる「脱プラ」を掲げ、出店者さんには新聞紙、牛乳パックの再利用などの包装をお願いした。最初は量り売りもやったが、コロナ禍から、商品をお客様が手に取らずにすむよう、個別包装にして、そのまま持参のマイバッグに入れてもらえるようにした。会計も「無人方式」にして、各出店者さんがそれぞれのお金入れとお釣りを用意した。

また店内が密にならないよう、生産者さんには、商品を置いたらすぐに帰っていただき、さらにお客さんが入り過ぎないよう、外で並んで待ってもらい、入る時には手指消毒、検温、連絡先記入、マスクは欠かさないようにした。

7月25日から10月10日までの合計12回の土曜日のうち、4回はコロナ警戒レベルが上がった等のため休んだが、来客数は合計で311人以上、出店者数もおおむね8-12店だった。

出店者アンケートでは、コロナ対策でたびたび休店したことについては、適切な処置、コロナ対策は徹底している、などおおむね良好だったが、来年はコロナ禍がない前提とすると、再び参加するかはわからない、という反応であった。脱プラはルールが細かくわかりにくい、徹底されていないなど、不満はあった。

これを企画した側の反省点としては、企画している側が農家ではないため、生産者の立場が十分理解できていなく、主催者側の立場として「コロナ感染者をここから出してはならない」という点だけで動いたことが良かったのかどうか、イマイチわからない。来年も参加するか、という点に関しては、答えは半々であることに、それは現れている。

農業を支える水の歴史 汐(せぎ)をめぐって

さらにコロナ禍の中、8月29日に第3回研究会を開催した。テーマは第2回の「農業」を受け、農業に欠かせない水と、水を利活用する「小水力」を取り上げ、「水の歴史と今後」というタイトルで開いた。会場は原村中央公民館の講堂だが、人数制限30名のため、初めて予約制にした。

研究会の様子

講演会に先立ち、私たち事務局メンバーは、村出身で地元の汐(せぎ)の委員を歴任したこともある元役場職員の小林千展(ちのぶ)さんに案内していただき、原村の汐ツアーを行った。

汐と言われるものは用水路のような小さな流れで、あちこちで河川の水を堰き止め、引き込んで、樋やトンネル(サイホン)で交差させて、水の流れを分け、各地域へと水を運んでいる。それは「繰越堰」と呼ばれ、既存の川を越えたり、川に落としたりして、用水を下流域へ運んでいるのである。江戸時代にこのような方法で水を確保してきたことは、驚きに値する。

汐の一例

研究会の第一部は、汐ツアーで案内をお願いした小林さんに「水利用の歴史と坂本養川(ようせん)」と題して話していただいた。原村をはじめとした八ヶ岳西麓は水の少ない地域で、江戸時代に八ヶ岳の北側から西麓に汐を引いて水田開発を進めた人物、坂本養川にスポットを当てた汐普請の話から始まった。

汐の実際の写真を見ながら、どのようにして用水を八ヶ岳の上流域から水田地帯に運んできたか。そしてその汐の水を守るのは各地区に任されていて、汐の管理のため、地元水田耕作者による汐敷の草刈り、泥上げなどの「出払い」という仕事が200年以上にわたって続けられていることが話された。

昭和初期の時代には、河川からの用水の引き込み口で水争いが起きることもあり、汐委員は夜通し寝ずの番をしたことがたびたびあったし、流血の騒動に発展したこともあったとのことだ。

このように、用水は非常に大切に扱われており、汐の水を利用するには、水利権を持つ者の同意が必要で、区民であっても勝手に水利権のない畑などに用水を使うことはできない。ましてやその水を使って発電を行うには、関係地区の承諾を得る必要があるが、その承諾を得るためには水利権の性質に照らして非常に困難を伴うということであった。

2030年エネルギー自立100%を目指す長野県と小水力

実際、第2部での株式会社3V(スリーヴイ)代表の柗本(まつもと)修二様のお話では、現在建設中の八ヶ岳水力第一発電所には40ほどの地区の合意が必要で、それを得るのに7年もかかったとのことだ。

この小水力発電所は取水口から発電所までの標高差が100mあり、発電方式はペルトン方式を使う予定。

ペルトン水車の仕組み

定格出力100kWで2021年5月に竣工予定。最初はFIT法を利用して投資回収を8年~10年に計画。FIT後は地域への送電を考慮した地域電力の立ち上げを視野に入れ、永続的な地域貢献を考えている。

本事業は茅野市と長野県の支援を得て展開している。地域の資源を地域で活用する事で、資金の地域内還流を促し、新たな産業創出、雇用促進等への貢献を願っている。

長野県は2030年にエネルギー自給100%をめざしており、特に県内には山があり、小水力に適した落差のある河川や汐があるため、県も小水力を勧めていて、県の支援が得られる。国も小水力のような安定した再生可能エネルギーを進めているため、国からの援助も得られる。地域の人が、「やりたい」と手を上げれば、株式会社3Vはそのお手伝いをする、と言われていた。

柗本さん自身、地域のエネルギー自立をずっと考えてきて、小水力が循環型エネルギーとして最も適切ではないか。水や農業用水がカネ、資金に替わり、地域が活性化するので重要ではないか、と話を結ばれた。

事業予定区域の湿原の様子 写真提供:株式会社3V(スリーヴイ)

会場からの質問も活発で、冬に凍結する寒い地域でのメンテナンスなどについて、あらかじめ質問票を送ってきた方もいた。また多くの方は自分の近くの河川、あるいは敷地内を通る水路を利用して行うミニ小水力、超々小規模水力発電に関心を持たれたようだ。柗本さんはそういうのは採算性がない、と言われていたが、アンケートにはそのような要望があふれていた。自宅で発電できるシステムを求めている人々が多くなってきていることを感じさせられた研究会であった。

鮎川ゆりか
鮎川ゆりか

千葉商科大学名誉教授 CUCエネルギー株式会社 取締役 1971年上智大学外国語学部英語学科卒。1996年ハーバード大学院環境公共政策学修士修了。原子力資料情報室の国際担当(1988~1995年)。WWF(世界自然保護基金) 気候変動担当/特別顧問(1997~2008年)。国連気候変動枠組み条約国際交渉、国内政策、自然エネルギーの導入施策活動を展開。2008年G8サミットNGOフォーラム副代表。衆参両議院の環境委員会等で参考人意見陳述。環境省の中央環境審議会「施策総合企画小委員会」等委員、「グリーン電力認証機構」委員、千葉県市川市環境審議会会長を歴任。2010年4月~2018年3月まで千葉商科大学、政策情報学部教授。同大学にて2017年4月より学長プロジェクト「環境・エネルギー」リーダーとして「自然エネルギー100%大学」を推進し、電気の100%自然エネルギーは達成。2019年9月より原村の有志による「自立する美しい村研究会」代表。 『e-コンパクトシティが地球を救う』(日本評論社2012年)、『これからの環境エネルギー 未来は地域で完結する小規模分散型社会』(三和書籍 2015年)など著書多数。

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