エナシフTVの人気コンテンツとなっている、もとさんとやこによる「脱炭素企業分析」シリーズ、特に好評だった企業事例を中心にEnergyShiftではテキストでお届する。第18回は、不祥事で会長辞任にまで及んだが、潜在的には高い脱炭素技術を持つ三菱電機を紹介する。
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三菱電機と言えばルームエアコンが抜群の知名度を誇る。ルームエアコン「霧ヶ峰」は2017年に世界最長寿ブランドとして、ギネス世界記録に認定されている。そんな三菱電機だが、株価はどうなっているのか。
株価の直近のピークは2018年で、その後はピーク時の約3分の2程度の価格で株価は推移している。2020年11月から再び上昇傾向に入るものの、2021年6月以降、急激に下降する。
下落の原因は三菱電機の不祥事にある。最初に鉄道ブレーキの検査で不正が発覚、8月には業務用エレベーターの点検でも不正が発覚した。ただ、二度目の不正発覚の際、大幅な株価下落がなかったのは、三菱電機のポテンシャルを見込んでいるからではないだろうか。
9月に入り、第1四半期の決算発表で営業利益急拡大を発表したことで、やや株価が持ち直したが、9月末から再び急激な下落となっている。
第1四半期が好調だった原因は、FA(工場のオートメーションの基盤など)や生産が増加した自動車、自動車機器などの産業メカトロニクスの売上増だ。加えて、家電もテレワーク定着による需要で売上を伸ばしている。空調などは半導体不足の影響を受けて、やや低迷しているが、全体的に好調だと言える。
2021年の3月期決算では売上が4兆1,914億円で、営業利益は2,301億円となっている。前期の2020年3月期決算が売上4兆4,625億円、営業利益2,596億円なので、前期と比較して減収減益となっている。
コロナの影響もあり減収減益なのだが、2021年度の第4四半期には既に増収増益になり、回復傾向を見せている。2021年度はコロナ前の売上への回復を目指して、売上は4兆4,900億円、営業利益は2,600億円を目標としている。
部門ごとの売上では重電システム、産業メカトロニクスともに上昇している。
なかでも重電システムには注目したい。脱炭素の一丁目一番地である電力関連や、ビル(ZEB=ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)などもここに含まれる。
大きな売上にはなっていないが情報通信も手掛けており、AI開発なども行なっている点は、今後には期待したいところだ。
事業における海外比率は、2019年と2020年に二年続けて42%となっているが、2021年第1四半期は、海外比率が50%以上となっている。これはコロナ禍からの経済回復が国内より海外の方が早かったことが要因かもしれないが、三菱電機の海外に対するポテンシャルが非常に高いということでもある。
1921年、三菱造船株式会社電機製作所を母体に、三菱電機株式会社が設立された。三菱造船は今の三菱重工であり、同じ三菱グループとして、現在も中核企業となっている。
1924年には2,300kVAの立軸形水車発電機を初めて製造する。この発電機は水力発電なので、再エネの遺伝子をこの時点で持っていたと言えよう。
1927年には小田原急行株式会社向け、国産電鉄変電プラント第1号を完成させる。現在、電化や再エネに時代が変革していくなかで、ガソリンを使用する自動車や、ジェット燃料を使用する飛行機よりも、電車の方が環境には優しい。そういった電車の遺伝子も、この時点から持っていたのは強みだと言える。
脱炭素の観点から重要なのが2008年。
脱炭素を意識しはじめたのは、2008年と早い。このときに、豊かな生活と地球環境維持の両立を目指す「環境ビジョン2021」実現に向け、事業を通じてCO2削減を目指す成長戦略、地球温暖化対策事業の強化・拡大方針を発表している。
その取り組みの一つとして2012年、「大船スマートハウス」(情報技術総合研究所内)に太陽光発電(PV)と電気自動車(EV)などの容量の大きい蓄電池を連携して制御する「PV・EV連携パワコン」を新たに設置、HEMSとの連携による「PV・EV連携HEMS」を業界で初めて構築している。
2017年には、企業や都市の環境への取り組みを調査・評価・開示する国際NGOであるCDPから「気候変動」、「ウォーター」の2分野で最高評価を獲得した。
2019年に三菱電機グループ「環境ビジョン2050」を策定、2020年には三菱電機グループの温室効果ガス削減目標が、SBTイニシアチブの認定を取得している。
環境ビジョン2050においては、「大気、大地、水を守り、心と技術で未来へつなぐ」という環境宣言を発表している。
具体的には、モビリティ、ライフ(生活)、インフラ、インダストリー(産業)の4つの領域で価値創造を行っていくという。例えば、省エネ性能の高い脱炭素の鉄道システムの構築であり、CO2を削減したまちづくりということだ。脱炭素だけにとらわれず、省エネ性と快適性を両立した空間の構築を目指していくことが示されている。
では、温室効果ガス排出削減はどうなっているのか。
三菱電機も2050年カーボンゼロを目指すわけだが、上のグラフを見ると、やや苦しいところにあるように思える。というのも、事業を行う以上はどうしてもCO2は排出される(グラフ緑の部分)のだが、このCO2を三菱電機はパワーデバイスの高効率化(グラフ藤色の部分)でオフセットし、カーボンゼロを達成しようとしているからだ。たしかに半導体などの効率化でCO2は削減できるが、本当にパワーデバイスの高効率化で、カーボンゼロが実現できるのかは疑問が残る。
カーボンオフセットも重要だが、カーボンゼロの世界でオフセットできるカーボンクレジットが豊富にあるとは思えない。したがって、CO2排出の削減をより積極的に行う方が近道ではないだろうか。
三菱電機が持つ、脱炭素に向けた技術について、もう少し見ていきたい。
まずは、エネルギーシステム自体の脱炭素化がある。現在は送電線から供給されている電力も、徐々に再エネに置き換わっていく。再エネも、すでに風力発電や太陽光発電があるが、今後は洋上風力の本格展開、グリーンアンモニアの製造による発電も行なわれていくだろう。一方、火力発電でも、カーボンゼロの燃料を使用した発電所がとって代わると言われている。
カーボンゼロの電力を、なるべく高効率の変電所経由で供給することも重要だ。さらに、供給先でもカーボンニュートラルを実現していくスマートシティという取り組みも欠かせない。スマートシティではマイクログリッドを活用し、エネルギーの面でも効率的なまちづくりをめざしていく。
先述の取り組みが大規模なものだとすれば、小規模なものとしてブロックチェーンによる、電力のP2P取引がある。発電した電気を売る際、市場を通すとどうしても高くなる。そこで、市場を通さずに、需要家と供給家を最適な形でマッチングさせるのがブロックチェーン技術だ。
ゼロ・エネルギービル(ZEB)の実証施設である「SUSTIE」も注目される。
「SUSTIE」では高効率変電機器の導入や、太陽光に限らない自然エネルギーの活用、建築の際のシミュレーション技術なども活用、ビルの健康性・快適性も証明していくものとなっている。
また、「SUSTIE」で試みているActivity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)があるもユニークだ。異なる作業スタイルにおいて、作業ごとに適した空間を提供し、その日の作業内容により自由に席を選ぶことが出来る取り組みだ。
このコンセプトに基づき、フロアごとに「対話」、「リラックス」、「集中」、とテーマ分けされた実証室(執務室)を用意し、従業員が個々の働き方に適した執務空間を自由に選択できるというもの。そこには、異なる作業を単一のオフィスで行っていて、本当に効率的なのかという問題意識がある。
その他、大容量EVスマートチャージングシステムも注目の技術だ。
EVにとって、充電インフラは重要だ。とはいえ、EVバスを導入したときに、多くのバスの充電を同時に行うと、電力系統に大きな負荷がかかる。そこで、順番に効率よく充電する、賢い充電システムが必要とされている。それが大容量EVスマートチャージングシステムだ。
三菱電機は、充実した脱炭素の技術を持つ会社だとは言えるだろう。再エネをはじめとする電力インフラがあり、それを賢く使うスマートグリッド関連の技術があり、鉄道をはじめとするモビリティの技術もある。したがって、ポテンシャルは高い。さらにはTCFDにもCDPにもSBTにも対応し、情報公開を進められる体制もできている。
三菱電機の最大の問題は、技術が豊富であるにもかかわらず、脱炭素の柱を見いだせていない事だ。その背景には、三菱電機が作りだしたい社会の明確な姿を描けていないということがあるのではないだろうか。
あらためて、未来の社会に向けたビジョンを描き、行動していくことによって、三菱電機は世界と戦える会社になる可能性が十分にある。
度重なる不祥事で、つまずいているというのが現状だろう。しかし、持てる資産は決して小さくない。三菱電機の今後に期待したい。
(Text=MASA)
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