株式投資でも一大テーマとなっている「脱炭素」。関連銘柄は幅広く、多岐に渡る。脱炭素社会の実現とともに、事業の躍進、株価の成長が望めるのはどんな会社なのか。年間300社を超える上場企業経営者と面談し、「相場の福の神」の愛称を持つマーケットアナリストの藤本誠之氏に、“脱炭素投資ビギナー”のマネーライターが聞いた。全5回連載の1回目は「半導体」をキーワードに、半導体不足の今、注目の関連銘柄をレポートする。
半導体の不足が連日伝えられている。一方で需要は高まり続け、衰えを知らない。世界半導体市場統計(World Semiconductor Trade Statics:WSTS)の2021年春季予測によると、21年の半導体世界市場は前年比19.7%と大幅に成長し、5,270億ドル(約55兆8,100億円)に達するとしている。22年もその成長は継続し、前年比8.8%増の5,730億米ドル(約60兆6,800億円)を見込む。
WSTS 2021年春季半導体市場予測(地域別)(出所:WSTS日本版ニュースリリース)
そんな中、東北大学で研究開発に取り組む、「スピントロニクス」と呼ばれる新技術を用いた次世代半導体メモリー「MRAM(エムラム)」が注目を集めている。
「半導体は、パソコン、スマホ、家電、自動車など、さまざまな製品に搭載されています。それら電子機器の性能を桁違いに向上させ、消費電力を格段に抑えられるのがMRAMです。革新的な夢のメモリーといえるでしょう」(藤本氏。以下同)
現在主流の半導体は「DRAM(ディーラム)」で、パソコンやスマホをはじめ、デジタル家電に幅広く内蔵されている。このDRAMが回路内の電荷によって情報を記憶するのに対し、MRAMは磁性体を用いた磁気記憶式メモリー。簡単にいえば、磁気を利用して情報を保持する仕組みになっているという。
「MRAMの場合、電源を切った状態でも情報を保持できるのが大きな特徴です。磁石の性質を応用した最先端技術で不必要な待機電力を大幅カットし、DRAMと比べて消費電力を100分の1以下まで抑えられるのです」
超低消費電力を可能とするMRAMは、脱炭素社会で注目を集め、さまざまな製品に搭載されることが予想される。また、高性能化によりIOTやAIなど適用領域の拡大も予想される。
「半導体がものすごい電力消費を伴うのは自明の理です。中でも世界のデータセンターで使われる半導体のエネルギー量は強烈で、全世界の消費電力の3~4%を占めると言われています。データセンターにMRAMが投入されたら、膨大な電力削減になるでしょう」
環境負荷の低減、カーボンニュートラルに大きく貢献するであろう次世代メモリー。藤本氏は「MRAMが実用化されれば、世界の半導体がMRAMに置き換わる可能性を秘めている」と言う。日本発の夢のメモリーが世界の半導体市場を席巻するかもしれないのだ。
そうなると株式投資の観点では、MRAMに関連する会社が気になるところだろう。
東北大学でのスピントロニクス技術は2013年に発足した「国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)」からはじまった。民間企業と連携して共同研究を進め、18年には東北大学発のベンチャー企業「パワースピン」を設立。同社は出資を募る形でスピントロニクス技術の社会実装を加速させることを使命としている。
「東北大学とタッグを組み、MRAMの実用化を後押し、製造・量産を手がける会社がどこかは現段階ではわかりません。ただ私の予想では、東証1部に上場すると見られている【キオクシア】が濃厚と読んでいます。DRAMを作ったのも東芝メモリ(現キオクシア)ですし、海外メーカーとは考えにくい。となればキオクシアが本命に挙げられるでしょう」
キオクシアとともに藤本氏が注目するのが、独立系のシステムインテグレーターとして知られる【ティアンドエス】(マザーズ:4055)。同社はソフトウエア開発を強みとし、半導体工場向けシステムの保守運用サービスを行っている。
「ティアンドエスは2020年11月、東北大学と次世代半導体技術の実用化に向けた研究開発を始めると発表しました。MRAMのソフトウエア開発を担い、開発効率の向上やコストの削減を託されています。一方で、同社の半導体事業がキオクシアを主要顧客としている点も見逃せません。キオクシア関連銘柄として恩恵を受ける可能性もあるわけです」
ティアンドエス(マザーズ:4055)
2021年8月18日時点株価4,065円(最低購入価格406,500円)
MRAMの実用化に向けては、多くの民間企業が東北大学と連携して共同研究を進めている。半導体製造装置で世界大手の【アドバンテスト】(東証1部:6857)や、同じく半導体製造装置で世界3位の【東京エレクトロン】(東証1部:8035)を要チェックとして挙げる。ちなみに両社は2021年6月に東北大学が設置した「東北大学半導体テクノロジー共創体」にも参画している。
アドバンテスト(東証1部:6857)
2021年8月18日時点株価9,220円(最低購入価格922,000円)
東京エレクトロン(東証1部:8035)
2021年8月18日時点株価44,330円(最低購入価格4,433,000円)
加えて、東北大学と連携する企業のほか、MRAMの研究開発をIBMと共同で始めている【TDK】(東証1部:6762)なども抑えておくべきという。
次世代メモリーとして実用化が期待されるMRAM。世界的に半導体が不足する中、日本ブランドのシェア獲得や、関連銘柄の株価躍進が望める存在として、その動向をウォッチしておきたい。
(取材・文 百瀬康司)
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