日本では、電気自動車(EV)の本格普及はまだまだ先というイメージだ。しかし、EVは走行するだけではなく、蓄電できるという特長を活用し、エネルギーインフラの一部となることも期待されている。EVそのものの利用も、所有からシェアへという、消費のスタイルの変化に合致している。
EVを利用したカーシェアリング事業を、エネルギービジネスという枠組みで展開しているのが、REXEV(レクシヴ)だ。代表取締役の渡部健氏に、将来ビジョンをおうかがいした。
モビリティ+シェアリング+バッテリーで新規事業
―最初に、会社を設立した経緯から教えてください。
渡部健氏:元々は、同じエネルギーマネジメント会社にいた3人で、2019年1月に設立しました。その会社に、大手発電会社と通信会社が出資し、通信会社の子会社となった時点で私たちがスピンアウトした形になります。
その会社では、バッテリー事業ですとか、VPPの実証なども行っていました。しかし、バッテリーはまだ高価ですし、VPPも投資回収がなかなか難しい状況でした。そうした中にあって、EVをうまく使うことでこの課題を解決できないか、と考えました。
モビリティ+シェアリングエコノミー+バッテリーマネジメント、という組み合わせではどうか、ということが、REXEVを設立するアイデアとなっています。
―その組み合わせには、どのような優位性があるのでしょうか。
渡部氏:一般的に、自家用車の稼働率は10%程度しかありません。90%は駐車しています。そうであれば、自動車を所有するのではなく、移動手段としてシェアすればいい。とはいえ、カーシェアリングにおいても、稼働率は20~30%です。ということは、70~80%の稼働しない時間帯に、バッテリーとしての価値が使えるといえます。
そこで、3つのサービスのハイブリッド型の事業を考えました。エネルギーという視点で見たとき、EVを調整力として使うことで、再エネを増やすことができる。そこが事業の目的ということにもなります。
小田原市でEV100台導入へ
―直近では、事業はどのように展開されるのでしょうか。
渡部氏:今年(2020年)6月から、神奈川県小田原市で、カーシェアリング事業をスタートさせます。これは、環境省の「脱炭素型地域交通モデル構築事業」という補助事業で、湘南電力、および小田原市とともに採択されたものです。モビリティの未来として、いわゆるCASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electricの頭文字をとったもの)が語られていますが、CとAは他社との連携でやるとして、今回はSとEの部分を、REXEVとして取り組む、ということになります。
具体的に3者で取り組むのは、EV特化型のカーシェア事業に加えて、再エネ普及と再エネによる充電、そして調整力の提供などです。
6月の時点では、カーシェアリング事業からスタートさせます。調整力を提供するVPP事業は、もう少し先になるでしょうか。とはいえ、太陽光発電の出力に対応した充電制御や、あるいは電力のピークカットのための放電など、できるところからやっていきたいと考えています。
2019年度中にプレ運用としてEV14台を導入し、2020年度中には100台を導入する計画です。プレ運用にあたっては、小田原市をはじめ、湘南電力の株主でもある小田原ガスなど複数の法人での導入が決まっています。普通充電設備とV2H(EVへの充電だけではなく、EVからの電力供給も行う)の設備をそれぞれ設置し、EVを運用します。
行政や法人利用から事業は開始しますが、2020年6月からはホテルや旅館にもEVを設置し、観光客に利用していただけるようにします。EVシェアリングを通じて観光客が街を回遊するようになれば、街の活性化にもつながります。
運用にあたってのアプリケーションの開発も進めています。アプリ上で、どのEVが使えるのか、どこの充電ステーションが空いているのか、ということだけではなく、どこのEVにどの程度再エネの電気が充電されているのか、ということも表示されます。一部のステーションは、湘南電力とのタイアップで行いますが、すべての電源が湘南電力というわけではなく、ステーションごとに、電力会社が異なり、その電源構成も変わってきます。そうした中、再エネ100%の電気というものも今後は出てくる可能性があります。
―充電ステーションの電気をすべて湘南電力にするということはなかったのですか。
渡部氏:充電ステーションは設置していただいた電力需要家の設備の一部ということになるので、電力会社は需要家の選択で決まります。ある会社さんに設置した充電ステーションの電気は、その会社さんが契約している電力会社からのものになる、ということです。
震災後、エネルギーの地産地消に取り組んできた小田原市だからこそ
―ところで、最初のサービス提供の場所として、小田原市を選ばれたのは、どのような理由からでしょうか。
渡部氏:以前勤務していたエネルギー会社で、私が湘南電力の設立に関わったということがあります。
そもそも、小田原市では、東日本大震災のあと、いち早く地元の人がエネルギー問題に取り組み、2012年にはほうとくエネルギーという再生可能エネルギー専門の発電会社が設立されました。さらに2014年には湘南電力が設立され、地域内でエネルギーの地産地消ができる条件がそろいました。また、小田原市自身も、SDGsへの取り組みが盛んだということもあります。
―地域エネルギー事業という点では、他にも意識されていることはありますか。
渡部氏:やはり、災害対策は意識しています。
100台のEVを導入するわけですが、行政と防災協定を締結し、例えば災害が発生したときは、EVの予約を凍結し、行政が優先的にEVを防災目的で使う、ということです。 シェアリングによる経済性、再エネ利用拡大という環境対策、そして防災の3点で、バランスのとれた提案になったことも、モデル事業に採択された理由だと思います。
再エネの大幅な拡大に資する事業に
―将来像もおうかがいします。まず、小田原市の事業が成果を上げれば、次の都市にも展開することになると思います。例えば、渡部さんは板橋区のめぐるでんきの社長もされています。
渡部氏:確かに、地域新電力があるところが、次の候補になってくるとは思います。地域新電力で利益を出し、地域の課題を解決していく、というのが理想ですが、特に地方では移動が課題になっています。地域交通の多くは赤字です。例えば地域に再エネの発電所が整備されていて、そこで地産地消ができれば、EVのエネルギーは電気ですからその再エネの電気を利用する、再エネ発電所の投資が終われば燃料費ゼロで対応することも可能になるかもしれません。地域によってニーズがあれば、電気バスということもあるでしょう。
―エネルギー事業としての将来像というのはいかがでしょうか。
渡部氏:現状では、カーシェアリングの会社のように思われるかもしれません。モビリティの世界はどんどんと電化が進む可能性がありますし、そのエネルギー源は再エネを使っていくということになるでしょう。
再エネ拡大は電力系統にも影響を与えます。そこで、EVのバッテリーを調整力として活用して、再エネ拡大を推進するということにつながります。EVのバッテリーをうまく使うことでいろいろな可能性があります。あらゆるeモビリティシーンにおいてそのバッテリーがネットワーク化され、つながっている世界観、その意味では、eモビリティのバッテリーマネジメントプラットフォームを担う会社になっていければと考えています。
一方、市場環境も変化していくでしょう。石油会社なども化石燃料を販売していくことは難しくなっていくと話しているように、再エネへのエネルギーシフトは進んでいきます。あとは、これをどのように具体化していくのか、ということです。
―確かに、再エネが増えていくほど、系統連系の問題が大きくなります。その一方で、気候変動問題に対応するためには、再エネの拡大は必須です。
渡部氏:おそらく、政府のエネルギー基本計画は、見直すことになるのではないでしょうか。2030年には、再エネ電源を22~24%にするとしていますが、これは大きく見直す必要がでてくるのではないでしょうか。
一方、系統連系の問題はすでに出ています。ルールを見直して、日本版コネクト&マネージを進めることや、ノンファーム接続を認めることも必要ですが、そのためには調整力の確保が必要ですし、配電事業のレベルでスマートグリッド化していくことも必要でしょう。そうなると、ドイツのシュタットベルケを参考にしつつ、地域レベルでのエネルギー事業の役割が大きくなってきます。
同時に、自家消費の再エネも増えると思います。そうした中、太陽光発電+EVといった、あらたなPPAの事業モデルも登場してくるでしょう。
―そう考えると、モビリティとシェアリングエコノミー、そしてバッテリーマネジメントを組み合わせた事業には合理性があるように感じられます。
渡部氏:再エネはどんどん安くなります。移動もエネルギーも限界費用がゼロに近づく。そうした中、持続可能な社会インフラをつくっていきたいと思います。
(Photo:岩田 勇介、Interview&Text:本橋 恵一)