温室効果ガスの排出量を抑制するため、再生可能エネルギーなどCO2排出量の少ない非化石エネルギー源に置き換えていくことが求められています。こうした背景から、2018年5月、企業に対してクリーンエネルギーの導入を推進する「非化石証書」制度が開始されました。
非化石証書とはどういった制度なのでしょうか?今回は、非化石証書の効果や仕組みについてご紹介します。
非化石証書とは、「化石燃料」ではない「非化石燃料」の電源や電力を使うことで、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの削減目標に貢献していることを証明するものです。企業は非化石証書を購入することで、太陽光発電や風力発電といったクリーンエネルギーの運営や、それらの普及に必要な経費を負担することになります。その代わり、自社が排出する化石燃料分のCO2排出と相殺することができるのです。つまり、非化石証書とは、CO2排出量削減価値(ゼロエミ価値)などの環境価値を証書化したものです。
仮に、自社の供給する電気を化石電源で賄っている企業が供給電力量40%に相当する非化石証書を購入した場合、この会社はCO2を「実質」40%削減した、ということになります。
それでは、なぜ「証書」を購入する必要があるのでしょうか?CO2排出量40%分を、非化石証書で購入せずに再生可能エネルギー(再エネ)の電力を購入すればいいのでは?と思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、太陽光や風力といった一部の再エネは、季節や天候によって発電量が変動してしまいます。実際のところ、日本国内では再エネの発電量はまだまだ少ないため、コストが高いというのが現状です。
*資源エネルギー庁「主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較」
そのため、すべて再エネで賄うことは難しく、CO2削減のためには再エネと非化石証書の購入を組み合わせながら必要な電力を確保していくことが必要となります。非化石証書は、非化石電源の「非化石価値」などの環境価値を「電力そのものの価値」と切り離して取引するため、証書化されました。
非化石証書は、①FIT非化石証書(再エネ指定)、②非FIT非化石証書(再エネ指定)、③非FIT非化石証書(指定無し)の3種類が存在します。
※FIT:「固定価格買取制度」のこと。太陽光や風力といった再エネで発電した電力を、電力会社が一定期間・一定価格で買い取ることを国が約束する制度。
*経済産業省「非化石証書の種類」
①FIT非化石証書(再エネ指定)
FIT制度に指定されている再エネに由来する電力の証書のこと。太陽光や風力、バイオマス、小水力などがFITに指定されています。FIT電気は、その原資として市民も電気料金から再生エネルギー賦課金を徴収されています。
②非FIT非化石証書(再エネ指定)
再エネに区分されてはいるが、FIT電気でない再エネの非化石価値を証書にしたもの。FIT制度に指定されていなかったり、FITの指定期間が終了した(卒FIT)電力などがあげられます。
③非FIT非化石証書(指定なし)
化石燃料由来ではないが、「再エネ表示価値」を持たない発電方法による非化石電源を証書にしたもの。主として原子力発電がこれに相当します。
①と②は、CO2排出をしないことに加え、環境への負担が少ないという環境価値があります。③についてはCO2排出がないため非化石価値はあるものの、発電に伴って使用済み核燃料を生み出すなど、CO2以外の環境負担が大きくなります。そのため、「CO2を排出しない、かつ環境負担の少ない電気」を使いたいと思ったら、非化石証書の中でも「再エネ指定」のものが使用されている電気を選ぶ必要があります。
非化石証書は、2018年から売買する制度が生まれました。日本では、非化石証書を購入できるのは小売電気事業者や発電事業者のみで、電気を売買する会員制の日本卸電力取引所(JEPX)の中にある「非化石価値取引市場」で実際の売買が行われています。そのため、一般企業が非化石証書を購入するためには、まずは小売事業者と電力供給契約を結ぶ必要があります。購入したい場合は契約中の小売電気事業者に非化石証書の対応をしてもらいます。
非化石証書の売却益は、国民が支払っている再エネ賦課金と同じようにクリーンエネルギーへの投資や運用に充てられます。つまり、小売電気事業者は化石燃料を使用する代わりに、クリーンエネルギーへの資金を提供することになります。これまで、FIT制度による再エネの購入の一部は国民負担によって賄われていました。そのため、電力会社がFIT制度によって再エネを購入すればするほど、消費者の負担が大きくなることが問題でした。さらに、再エネ賦課金の価格は年々上昇を続けています。
一方、非化石証書は再エネ賦課金に対する国民負担を軽減することが期待されています。非化石証書の売上は、再エネの安定的な普及に役立てられます。非化石証書が売れれば、その分再エネへの資金投入が進み、結果的に電気料金から再エネ賦課金そのものの減額につながるというわけです。
2021年11月から、小売電気事業者以外の入札参加も認められ、需要家や仲介事業者の購入できるようになりました。この時、国が実施した入札では売入札約559億kWhに対して19億kWhが売れました。これは、同年5月に実施された5倍の金額に相当します。また、最低価格も1.3円/kWh(税別)から、0.3円/kWh(税別)と見直され、調達のハードルが下がったことも注目された要因の一つです。
2022年2月には第2回オークションが開催。FIT非化石証書の約定量は約13.4億kWhと第1回を下回ったものの、需要家や仲介事業者の参加は、前回は需要家6者、仲介事業者19者でしたが、第2回は需要家14者、仲介事業者34者と2倍近くに増加しました。
*経済産業省 第62回 総合資源エネルギー調査会
非化石証書取引の活発化は企業の脱炭素への取り組みを促進するだけでなく、コストダウンの契機になるともいえるのです。近年では非化石証書を利用した電気料金プランを提供している電力会社が徐々に増えてきています。ただし、先に述べたように、非化石証書の中には原子力などの電源構成によっては再エネではないとされてしまうケースがあります。
企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブであるRE100においては、トラッキング付の非化石証書のみ、適用が認められています。トラッキングとは、非化石証書に対して、どこのどんな発電所で発電された電気なのかをわかる情報を付与することです。
トラッキング付きの非化石証書に対応したプランを提供している電力会社は、みんな電力のENECT RE100プランやOJEXのRE100プラン、afterFITのしろくま電力などがあります。電力会社による電気料金プラン提供はより活発になると予想されます。
非化石証書に対応した電力会社は数多くありますが、再エネ対応の電気料金を選ぶ際は、電源構成をしっかりとチェックするとともに、トラッキング付かどうか、確認することをおすすめします。
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