筆者の平井氏がテスラとお別れしちゃいました。テスラに乗らないなら、この連載どうなるの?と突っ込んだ皆様、じつはここからが、この連載の本懐なのです。デジタルトランスフォーメーション的視点と論点を得意とする平井氏が、テスラと過ごすことによって構築した様々な企業の動向とそのビジョンをこの連載で紡いでいます!
前回記事の通り、約4年間お付き合いしたテスラ君とはお別れしたわけですが、このテスラとの出会いが、僕や僕の家族にとって「カーボンニュートラル」や「地球温暖化問題」を自分事として考える大きなきっかけとなりましたし、テスラが掲げる企業理念「To accelerate the world's transition to sustainable energy(持続可能なエネルギーの利用を加速化させる)」には大変感化されました。なので、これからも個人的に応援したい企業であることは間違いありません。
さて、これまではテスラが自動車領域の脱炭素化の旗振り役を担ってきたわけですが、これからは、テスラに限らず脱炭素化に力を入れる企業がガンガン増えていくことと思われます。
まず、自動車メーカーにとって脱炭素化は死活問題ですから、今後は化石燃料動力を使わない電気自動車をどんどんリリースしてくるでしょうね。特にEU(欧州連合)は、2035年までにハイブリッドカーを含む化石燃料動力を利用したすべての車の生産を実質的に禁止する方針を示したので、欧州の各メーカーからは素晴らしくカッコ良く、高性能な電気自動車が続々とリリースされることでしょう。
既に、ポルシェはBEV(バッテリー式電動自動車)の『タイカン』をリリースしましたし、他にもアウディの『e-tron』、ジャガーの『I-PACE』など、次々とカッコ良いBEVがリリースされており、都心ではチラホラと街を走る姿を見かけるようにもなってきました。
ちなみに、米国ではポルシェのタイカンの売れ行きが目覚ましく、既にテスラを脅かしつつある、なんていう記事も先日見かけました。BEV市場ではこれからますます熾烈な競争が繰り広げられることでしょう。
■Porsche Cars North Americaによると、タイカンは2021年上半期だけで米国で5,367台が販売されており、911の5,108台を上回る人気だ。またテスラの2021年上半期決算によれば、ワールドワイドで「Model S/X deliveries」のQ1とQ2の合計が、3,925台とのことなので、すでにタイカンはテスラのモデルSすら凌駕している。写真参照元:https://www.porsche.com/japan/jp © 2021 Porsche Japan KK ALL RIGHTS RESERVED
さらに、今後は自動車メーカーにとどまらず、エネルギー会社、運送会社、場合によっては既にカーシェアを展開している企業や、カーシェアリングのハブになり得る商業施設・不動産デベロッパーなども、電気自動車業界に乗り出してくるでしょう。
既に海外ではそのような動きが始まっています。たとえばエネルギー系の会社ですと、ロイヤル・ダッチ・シェルは英国で『Shell Recharge』という充電ネットワークを拡大中で、既に100ヶ所以上のガソリンスタンドに充電ポイントを設置しています。また、ここ数年次々と充電ネットワーク会社を買収しており、充電インフラへの投資を拡大しています。
同じく英国の石油メジャーであるBPも、2018年に充電ステーション運営英国最大手のChargemasterを買収し、2030年までに1,400ヶ所の高速充電ポイントの設置を目標としているようです。
運送業界でも動きが活発になってきました。たとえば米国では、UPSの子会社であるWare2Goが今年、すべての荷主を対象に「カーボンオフセット配送」の提供を開始しました。カーボンオフセット配送とは、配送に際して発生する二酸化炭素を相殺(オフセット)するために、Ware2Goが荷主に代わってカーボンクレジットを購入し、荷物ごとに上乗せして請求する仕組みです。
また、日本ではヤマト運輸や佐川急便が、自社トラックの一部をEVに置き換えていく方針を発表しています。これについては次回も触れたいと思います。
配車サービス最大手の米ウーバーテクノロジーズは、2021年5月、EVメーカーの英アライバルと提携を発表しました。同社と電気自動車を開発し、2023年中には生産を開始する予定とのことです。ウーバーは2030年までに北米と欧州で配車サービスに使用する全車両をEVに置き換える方針を示しています。
小売や商業施設においても、EV化の流れをチャンスとして捉える大手企業の動きが見られます。たとえば、英小売大手のテスコでは、2018年より国内スーパーマーケットにEV充電スタンドを設置し、店舗利用客に対して無料で提供しています。また、米セブン-イレブンでも同様の取り組みが進んでいます。いずれはEVのシェアリングや、サブスクリプション・サービスの展開を視野に入れていてもおかしくないかもしれません。
さて、ここまで従来の自動車会社とは異なるプレーヤーのEV参入の動きをご紹介したわけですが、これらの企業がEVを大きなチャンスと捉える背景には、たとえば昨今台頭著しい中国のEVメーカー等と提携して、OEMでEVを生産し、自社ブランドのEV車を展開していくといった選択肢があることも一因と思われます。
現に中国では、自動車会社以外のプレーヤーがEVメーカーと次々と提携し、自社EV車のサービス展開に乗り出しています。たとえば、ライドシェア大手の滴滴出行(ディディ)は、EV大手の比亜迪(BYD)と共同開発したライドシェア専用車「D1」を発表していますし、検索大手の百度(バイドゥ)は、2021年1月に浙江吉利控股集団(ジーリー)と合弁会社を設立し、自ら電気自動車の製造に乗り出すようです。
日本でも、佐川急便が導入する予定の電気自動車は、日本のASF株式会社が企画・設計し、生産は中国の柳州五菱汽車が行うようです。
このように、テスラが仕掛け人となって急速に進んだEV化の流れは、従来型の自動車会社だけでなく、新興系EVメーカー、エネルギー会社や運送会社、ひいては小売業などの商業施設も巻き込み、大きなうねりとなっているのです。
第7回に続く(次回10月初旬配信予定)
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