岸田内閣が10月4日、正式に発足した。岸田文雄首相は成長戦略の柱のひとつにグリーンをあげ、「研究開発に大胆な投資を行う」方針だ。しかし、脱炭素・エネルギー政策をめぐっては、再生可能エネルギーを推進してきた河野太郎氏や小泉進次郎氏が閣僚から外れる一方、原発推進派を閣僚、自民党執行部に添えた人事に対し、「経産省内閣の復活か」と指摘する声があがっている。
10月4日、岸田首相は記者会見に臨み、「成長戦略の第一は科学技術立国の実現です。科学技術とイノベーションを政策の中心に据え、グリーン、人工知能、量子、バイオなど先端技術の研究開発に大胆な投資を行います」と述べた。
イノベーション領域に関して、真っ先にグリーンを掲げたことで、脱炭素・エネルギー政策に対する重要性が増したことが窺える内容だった。岸田首相自身、総裁選で次期エネルギー基本計画の撤回、見直しは否定しており、10月4日で締め切られたパブリックコメントの結果を検討したうえで、閣議決定する方針を示している。
ただし、2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにする脱炭素に向けて、原子力発電を積極的に活用する方針も示唆しており、原発への揺り戻しが起こる可能性がある。
総裁選真っ最中の9月21日、岸田氏は、第6次エネルギー基本計画の改定案の一時撤回および見直し、そして原子力発電所のリプレース(建て替え)を求める、自民党の最新型原子力リプレース推進議連からの要望について、文書で回答した。
その内容は、「今後、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、電気自動車への転換、さらには経済安全保障の観点も踏まえたデータセンターの国内回帰など電力需要が増す中にあっても、安定供給を守りながら2050年カーボンニュートラルを目指すためには、再生可能エネルギー一本足では困難。まずは安全性を最優先に(原子力発電所の)再稼働を進めていく」というものだった。
リプレースについては、「小型モジュール炉等より安全性の高い技術の活用を含め、持続性・安全性を確保する観点から検討していく」とした。
ただし、「次期エネ基の素案を撤回し、衆院選後、リプレースなど原子力を最大限活用する内容に改善・修正するか」という質問に関しては、「次期エネ基はこれまで1年近く政府、与党の中で議論されたものであり、すでに自民党の審査プロセスを経て、パブリックコメントにかけられていると承知」と回答。続けて、「菅内閣で定めた46%という温室効果ガス削減目標の期限である2030年まで残り9年を切っていること、行政の安定性・信頼性を確保する必要もあることなどから、パブリックコメントの結果をしっかりと検討しつつ、閣議決定を目指すべき」としていた。
つまり、岸田政権は、菅内閣が進めた脱炭素政策をひっくり返すことはしないが、実現に向けては再エネと原子力を積極的に活用しようという方針が見て取れる。この方針は閣僚や自民党執行部の人事にもあらわれている。執行部人事の詳細については、こちらを参照してほしいが、甘利明氏は、原発の最大限の活用を訴える先のリプレース議連の顧問を務める。総務会長の高市早苗氏は、総裁選でエネ基の見直しに言及した。
カーボンニュートラルの実現に向け、次期エネ基の素案をとりまとめた梶山弘志経済産業相の後任には、萩生田光一氏が就いた。萩生田氏は、甘利氏とともにリプレース議連の顧問を務める安倍晋三元首相の側近として知られている。小泉氏の後任として環境相に就任した山口壮氏は、電力の安定供給確保に向け、再エネや原発を組み合わせた電源のバランスを重視する方針だと目されている。
さらに官邸では元経産省事務次官で東京電力の役員だった島田隆氏が首相秘書官に起用されるなど、岸田内閣の閣僚、自民党役員人事に対して「経産省内閣の復活か」と指摘する声がすでにあがっており、原発への揺り戻しが起こる可能性が出てきている。
岸田内閣による原発の揺り戻しに関して、再エネ最優先の原則を主張してきた小泉氏は10月1日、環境相としての最後の定例記者会見において、「それなりにあるでしょうね。それが権力闘争の現実ですから」と述べたうえで次のように語った。
「法律で位置づけたカーボンニュートラルを否定することはできない。経産省内閣のような形になったら、一気に原発に傾くのではないかと危惧されているのだろうが、再エネ導入の最優先は、今、パブリックコメントの真っ最中であり、10月末にはCOP26に向けてNDCを出さなければいけない。国際公約をひっくり返すことはないと思う」
またエネ基の見直しに関しても、「仮に見直すのであれば、何を見直すのか明らかにすべきだ。ただ、再エネ最優先の原則、原発依存度を低減させる。こうした方向性は、政府のプロセスを経たうえでのパブコメであり、党内の正式なプロセスを経たうえでのエネルギー基本計画案の党内了承であるため、それが大きく覆る、大きな方向性が曲げられるということは、現実として考えられない」と語った。
次期エネ基の改定案では、2030年度の再エネ比率について、2018年に策定した今の計画の「22〜24%」から「36〜38%」に引き上げる方針だ。再エネ比率をめぐっては、河野氏や小泉氏などの意向も踏まえ、経産省では「38%以上の高みを目指す」姿勢も打ち出している。
一方、原発比率は2019年度の6%から2030年度には「20〜22%」の水準を目指すものの、実現に向けては、未申請の9基を除いた、現在、新規制基準の審査中である11基を含めた27基を稼働率80%で動かして、ようやく20%に達するレベルだ。しかし、国民の再稼働に対する世論は依然厳しく、これまで再稼働したのは10基にとどまっている。
さらに原発の運転期間は最長60年と規定されている。仮に廃炉が決定したものを除く、36基がすべて60年運転をしても、2060年には8基しか残らず、リプレースをしなければ、いずれはゼロになる。ただ、リプレースをめぐっては、次期エネ基改正案では「必要な規模を持続的に活用していく」という記述にとどまり、国民の信頼が回復しない中では、建て替えや新増設に踏み込めない状況が続いている。
再エネ、原子力いずれにも課題がある中、エネ基を実効性のあるものとし、いかに2050年脱炭素を実現するのか。岸田政権は10月31日に投開票される衆議院選において、議論を深める必要があるのではないだろうか。
(Text:藤村朋弘)
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