2020年12月中旬から2021年1月下旬にかけて(以下当期)、電力需給は逼迫(ひっ迫)し、卸市場価格は超高値に張り付いた。政府・審議会や民間シンクタンクなどで、今回の事件についての検証が行われている。エネルギー戦略研究所 取締役研究所長の山家公雄氏にも、この事件を検証し、原因を考察していただいた。(第3回)
この2021年12月中旬から1月下旬にかけて生じた「マクロの需給逼迫」と「卸市場の売り不足と高値継続」は、まぎれもなくエネルギ-市場に残る大事件である。
停電に至っていないという理由で過小評価してはならない。しかし、自然災害や異常気象があった訳ではなく、LNG調達期間が突然長くなった訳でもない。「平時の長期需給逼迫」はどうして生じたのか。
筆者は、西日本で主に多発した電源トラブルが原因とみている。それしか思い浮かばない。高浜3号機稼働延期にはじまり大飯3号機稼働開始に終わったのは、偶然だろうか。
その根本原因はエネルギ-基本計画の電源ミックスにある、と考える。
長期間方向性を曖昧にしたことから、稼働しない原子力を代替する形で既存石炭火力が酷使されてきた。あまり議論されていないが、燃料制約とは無関係の再エネ、特に風力の開発を押さえてきたツケが回った。
卸価格はどうして超高値張り付きが現出したのか。日本の電力市場は「旧一電市場」であり卸市場は補助的でしかない実態が今回改めて明らかになった。
旧一電市場の余剰を元手に運営するというシステムが、旧一電市場の逼迫という想定外の事態で破綻した。調整力も不足し、TSOと旧一電そして広域機関は「協力」して調整力をかき集めたが、これで卸市場の売り不足は加速度がついた。
さらに不幸だったのは、需給調整市場(アンシラリーサービス市場)が未整備で、暫定的・試行的な調達価格(インバランス単価)にいきなり最終調整指標という大役が回ってきてしまったことだ。200円上限も登場した。
「旧一電市場」のインバランスはどのように清算されるのか、電源Ⅱや自家発余剰取引は合理的だったのか、ガス取引は合理的だったのか等々清算の検証は容易ではないと考えられる。
何よりも、この不透明な指標で正確に清算できるのだろうか。清算見直しの可否を判断するうえでも、説得力のある清算は不可欠である。
今次大混乱の根本原因は、もちろん制度の不備にある。
旧一電の圧倒的存在感と市場支配力、発販一体の存続、先着優先ルールの存在等を放置してきたなかでの卸市場整備は無理がある。
それを承知の上で市場機能活用に舵を切り、何とか整備を進めてきたが、大きいとは思えない異変でも大混乱が生じてしまった。
今回の事件は、もはや根本課題を放置できないとのメッセージを発した。制度の不備は当然として、それ以外の原因を探すと、電源トラブル多発となる。しかし、これも既存システムと新規システムとの混在(電源ミックス)により生じたのである。
全体目次
1. 今回の需給逼迫要因は、気温の低さでも燃料不足でもない
1.1 主因は電源トラブル
1.2 調整力不足から始まる奇異
1.3 どうして西日本が不足したか
2. 異常事態だった卸取引市場 1ヶ月も売り不足
2.1「旧一電市場」は主役 「卸取引市場」は脇役
2.2 旧一電の協力で存在感を発揮した「一送電市場」
2.3 卸市場と調整力市場の分離 弱かった12月15日の調整力不足シグナル
2.4 卸価格≠調整力買取価格≠インバランス単価
3. まとめと考察「平時の一ヶ月逼迫」の根本原因は市場支配力放置
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