2030年の再生可能エネルギーの導入比率はどれだけ上方修正されるのか。再エネの導入政策を主導する経済産業省資源エネルギー庁は、4月13日に開催した第40回基本政策分科会において、2030年の再エネ導入目標に関して、事実上30%を超える目標値を打ち出した。審議会では多くの委員が30%超という方針に賛同したが、実現可能性について危惧する声も上がった。
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資源エネルギー庁では、エネルギー基本計画の見直しにあたって、2030年までに再エネをどれだけ導入拡大できるのか、さまざまな審議会で議論してきた。4月13日に開催した総合資源エネルギー調査会 第40回基本政策分科会において、エネ庁は現状22〜24%とした2030年再エネ導入比率に関して、事実上、30%を超える目標値を打ち出した。
2030年に向けて、再エネ電源の中心となるのが、運転開始までのリードタイムがもっとも短い太陽光発電だ。まずは太陽光発電の導入シナリオを見ていく。
太陽光発電は、2015年に策定したエネルギーミックスにおいて2030年導入量が64GWに設定されていた。しかし、2020年3月末時点ですでに導入量は56GWとなっており、さらなる上積みが期待されていた。
エネ庁では、FIT制度の認定を受けながら未稼働状態である24GWの案件のうち、75%が運転開始すると想定し、約18GWが追加できると試算。さらに2021年度から2030年度の10年間にわたり、毎年1.5GWが認定・導入されると想定。2030年までに新規案件が14GW追加されることで、全体の導入量は88GWになると試算した。
エネ庁では、適地の確保や系統制約の克服、PPA(電力購入契約)などのビジネス推進といった政策強化を進めることで、さらなる導入拡大が見込めるとし、次の5つの方向性を示している。
たとえば、環境省が今国会での改正を目指す温対法におけるポジティブゾーニングでは、地方自治体などと連携しながら、地域と共生可能な再エネ促進区域を指定することで、再エネ導入を加速させたい狙いがある。
また、PPAでは小売電気事業者を通さず、需要家が直接再エネを調達できるルール整備や、オフサイトPPAにおける再エネ賦課金の負担のあり方が議論されている。一連のルール整備が進めば、FIT制度に依存しない形で太陽光発電が普及拡大すると期待している。
ピーク時には年間10GWを超える認定量があった太陽光発電だが、買い取り価格の低下や事業規律の強化によって、産業規模の縮小が続く。2020年度の認定量はわずか1.5GWだった。産業基盤の維持すら危ぶまれる太陽光発電について、エネ庁では2030年までに市場規模を6GWまで回復させ、産業の維持・再構築を図るという絵姿も描いている。
ただし、政策強化に向けた5つの施策は、どれだけ導入量を拡大できるのか。まだまだ未知数であるため、今回の目標値には試算されていない。
そのほかの電源の導入見通しは以下のとおりである。
陸上風力
現行エネルギーミックス水準9.2GW
努力継続シナリオ13.3GW
政策強化シナリオ15.3GW
洋上風力
現行エネルギーミックス水準0.8GW
努力継続シナリオ1.7GW
政策強化シナリオ3.7GW
地熱発電
現行エネルギーミックス水準1.4〜1.6GW
努力継続シナリオ0.7GW
政策強化シナリオ1.0GW
水力発電
現行エネルギーミックス水準48.5〜49.3GW
努力継続シナリオ50.6GW
政策強化シナリオ50.6GW
バイオマス発電
現行エネルギーミックス水準6〜7GW
努力継続シナリオ7.2GW
政策強化シナリオ7.3GW
政策強化によって最大限導入した場合、2030年の再エネ発電電力量は2,903億kWhに、これに太陽光発電のさらなる上積みが加わることで、事実上、再エネ比率は30%になる見込みだ。
エネ庁が示した2030年の新たなエネルギーミックス像について、委員からはさまざまな意見が出た。
橘川武郎国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授は、「政策強化シナリオによって、太陽光発電の導入比率が11%、風力4%、地熱1%、水力9%、バイオマス4%、合計29%。これに太陽光発電のプラスαが加わることで、事実上、2030年の再エネ電源比率は30%以上という方針が打ち出された」と述べた。
その一方で、隅 修三東京海上日動火災保険相談役は、「2030年における日本のNDC(温室効果ガスの排出削減目標)を国際的に遜色ない目標に上方修正する可能性が取り沙汰されているが、30%を超える目標値に引き上げることは難しいのではないか」と発言。
続けて、「再エネの最大限の導入にあたっては、2030年という時間軸で考えると太陽光発電が中心となるが、最大の障害は立地制約だ。温対法の改正によってポジティブゾーニング、促進地域を指定して、太陽光発電などの導入促進を掲げているが、地元との調整を含めて、促進地域の指定も簡単なものではない。温対法改正によって、どれだけ再エネ比率を引き上げられるのか、明確にすべきだろう」と述べた。
工藤禎子三井住友銀行 取締役専務執行役員は、新規導入量の試算について、次のようにコメントした。
「太陽光発電は2020年度の認定量が維持・継続されると仮定して、2030年までの新規導入量を算出しているが、過去のトレンドを見ても、太陽光発電の認定量は減少傾向にある。実際に、事業者からはFIT価格の低下による投資インセンティブの減退に加え、送電網や適地の問題によって、優良案件の確保が難しいという声が聞かれ、金融機関への持ち込み案件も減っている。
このような状況下で、2020年度の認定量1.5GWを2030年まで横置きすることが、現実的なシナリオなのか。慎重な判断が必要ではないか」。
また再エネ導入の加速は、産業界、国民負担の増加に直結する。
「再エネ比率の上方修正がどれだけの負担増となるのか、コスト試算を示すべき」「議論が進むカーボンプライシングの税収を再エネ促進にあてるべき」といった意見も上がった。
保坂伸資源エネルギー庁長官は、15日から開催される日米首脳会議や、4月末の気候変動サミット、6月開催のG7といった国際交渉の動きを念頭に「いよいよ各論を詰めていかなければいけなくなった」と述べ、2030年の再エネ比率などの各論を速やかに決定していく構えだ。
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