ドイツの2020年の消費電力量の40%以上が再生可能エネルギーになっているという(速報値)。日本における現時点での2030年目標が22~24%であることを考えると、そこには大きな差がある。なぜ、ドイツは再生可能エネルギーの大量導入が進んでいるのか、ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏が報告する。
欧州連合(EU)の事実上のリーダー国ドイツは、欧州で再生可能エネルギーの拡大に最も力を入れている国の一つだ。同国が2000年に再生可能エネルギー促進法(EEG)を施行し、FITを導入してから20年が経つ。電力業界の速報値から、この国の電力消費量の半分近くが再生可能エネルギー由来であることが明らかになった。
ドイツ連邦エネルギー水道事業連邦連合会(BDEW)とバーデン・ヴュルテンベルク州太陽エネルギー・水素研究センター(ZSW)は12月14日に、2020年の再生可能エネルギー消費量に関する暫定的な速報値を発表した(注=この値は暫定的な速報値なので、2021年の発表で修正される可能性もあり)。
ドイツの国内発電量と電力消費量(BDEW)
この速報値によると、2020年の再生可能エネルギーの消費量は2,517億kWhで、前年(2,416億kWh)よりも4.2%増えた。再生可能エネルギーが消費電力に占める比率は2019年には42.5%だったが、2020年には3.8ポイント増えて46.3%となった。2018年に比べると8.1ポイントの増加である。
2020年の再生可能エネルギーによる電力消費量の柱は、風力発電だった。再生可能エネルギーの電力消費量の52.8%が陸上風力と洋上風力による。
洋上風力による電力の消費量は、まだ陸上風力の約4分の1にすぎない。だが洋上風力による電力の消費量は、2019年に比べて11.2%と大幅に伸びている。これに対し陸上風力による電力の消費量は、前の年に比べて4.2%しか増えていない。この背景には、鳥獣保護団体や住民が陸上風力プロペラの建設に反対して訴訟を提起するケースが増えているために、地方自治体による建設許可申請に以前よりも時間がかかっていることも影響している。
これに対し、訴訟の悪影響を受けていない太陽光発電装置による電力の消費量は、2019年の451億kWhから11.8%増えて、2020年には504億kWhとなっている。2020年の電力消費量の増加率が最も多かった再生可能エネルギー電源は、太陽光だった。
ただしBDEWは、「再生可能エネルギー由来の電力の消費比率が増えた背景として、コロナ・パンデミックを無視することはできない」と指摘する。
BDEWによると、2020年の全ての電源からの総消費電力量は5,645億kWhで、前年(6,035億kWh)に比べて6.5%も減った。これはパンデミックの影響で、2020年3月以降多くの工場が生産活動を減らしたり停止したりしたためである。実際ドイツの大手電力の2020年・第4四半期の業績報告書を分析すると、発電事業を行っているRWE、ユニパー、EnBWでは、2020年1月から9月までの発電量が前年同期よりも少なくなっている。
現在ドイツでは、二酸化炭素(CO2)排出権の価格の高騰などにより、発電事業者にとっては、褐炭、石炭など化石燃料を使用する発電所の収益性が低下している。このため発電事業者は、発電量を絞る際にまず化石燃料の発電所を選んだものと推定される。
BDEWは、「コロナ危機による発電量減少の影響を差し引いても、2020年の再生可能エネルギー由来の電力の消費比率は、前年の44%から46%に増えている。その理由は、2020年前半の風況が前の年に比べて良かったことと、2020年の日照時間が前年よりも長かったことだ」と説明している。
だがBDEWのケアスティン・アンドレー専務理事は、「再生可能エネルギーの消費比率の拡大という成果に満足していてはいけない」と釘を刺す。アンドレー専務理事は、「我が国で再生可能エネルギーの拡大が進んでいることは事実だ。しかし、コロナ禍によって総消費量が減少したために、再生可能エネルギーの拡大テンポが十分ではないという事実がはっきり見えなくなっている」と指摘する。
アンドレー専務理事は、「2030年へ向けてドイツの電力需要は大幅に増える。一方ドイツでは、陸上風力発電プロペラの新設について、訴訟や建設許可の遅れなどによってブレーキがかけられている。こうした障害を取り除かなければ、2030年までに消費電力の65%を再生可能エネルギーでまかなうという政府の目標を達成できない」と警告する。
特にアンドレー専務理事が重視しているのが、2020年1月1日に建設から20年を経過して、再生可能エネルギー促進法による助成が終わる卒FITの発電装置だ。同氏は「卒FITの陸上風力発電装置については、改修・整備などのリパワーリングによって運転を継続できる枠組みを早急に整備する必要がある。20年前から運転されているこれらの発電装置については、周辺住民や鳥獣保護団体からの反対運動は起きていないのだから、今後も有効に活用するべきだ」と主張している。
EU加盟国の首脳たちは2020年12月11日の欧州理事会で、「2030年までにEU域内の温室効果ガスの排出量を1990年比で少なくとも55%減らす」という目標について合意した。これまでの目標(40%)を一挙に15ポイントも引き上げたことになる。
ZSWのフリトヨーフ・シュタイフ教授は、「ドイツはこの目標を達成するために、気候保護への努力をさらに強めなくてはならない」と主張する。シュタイフ教授は、「すでに電力需要が増える兆しがはっきり見える。たとえば製造業界は、CO2を排出しない製造方法への切り替えを急いでいる。自動車業界では、経営の主軸をディーゼル・エンジンやガソリン・エンジンを使った車から、電気自動車やプラグインハイブリッドの車に移す動きが進んでいる。また建物の暖房についても、エネルギー源を灯油などの化石燃料から電力に置き換えようという努力が行われている」と述べる。つまりドイツでは、エネルギー源のグリーン化の動きに、今後益々拍車がかかるのだ。
さらにシュタイフ教授によると、EUとドイツ政府が水素エネルギーの実用化を加速するために、将来は水を電気分解してグリーン水素を作るための、再生可能エネルギー由来の電力への需要も増加する。このため教授は、「2030年の再生可能エネルギー消費比率に関する目標を達成するためには、ドイツ政府は再生可能エネルギー拡大のテンポを引き上げるべきだ」と訴えている。
ちなみに再生可能エネルギーの比率の計算には、2つの算出方法が使われている。1つは今回BDEWが公表した、電力消費量に占める再生可能エネルギーの比率。もう1つは、発電量に占める再生可能エネルギーの比率だ。電力会社などが構成するエネルギー収支作業部会(AGEB)によると、2019年の発電量に再生可能エネルギーが占める比率は40.1%だったが、2020年には44.9%に増えている。
ドイツ政府は電力業界の要望に応えて、再生可能エネルギー拡大に拍車をかけるための法律や制度上の枠組みを迅速に整備することができるだろうか? 2050年のカーボンニュートラル達成のためには、今後10年間が鍵となることは間違いない。
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