世界最大の資産運用会社、米ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、4月7日に公開した株主向けの年次書簡において、脱炭素(ネット・ゼロ)へ世界が前進するためには上場企業だけではなく、非公開企業にも情報開示が必要だと訴えた。
フィンクCEOは書簡の中で、「ネット・ゼロ・エコノミーを達成するには技術革新と数十年のプランが必要である。現在話題の中心となっているのは上場企業のネット・ゼロへの移行で、確かに重要な役割を担っているが、政府のリーダーシップも重要である」と述べている。政府のリーダーシップとは、世界的な基準の設定、インセンティブの創出、炭素価格設定、インフラ投資等を挙げている。
その上で、「大規模な非公開企業が上場企業と同じレベルの監視を受けなければ、炭素集約型の資産は、透明性が低く規制が緩い市場にシフトされてしまうだろう」と懸念を述べた。上場企業だけでは2050年までの脱炭素の実現には「なんの役にも立たない」と強調。「非公開企業も包括的な情報開示体制が必要だと強く思う」と述べた。
「政府による開示を待つのではなく、自主的な開示が必要だ。気候変動リスクは投資リスクであるとともに巨大な社会的リスクでもある。グローバルで一貫したサステナビリティレポートのフレームワークが必要だ」「イギリスのビジネス・エネルギー・産業戦略省とアメリカの証券取引委員会はすでに情報開示の強化を進め、それをわたし(フィンク氏)は支持する」と書いている。
ブラックロック自身の取り組みとして、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)をサステナビリティ会計基準審議会(SASB)に準拠した報告書を開示した。
ブラックロックは2050年までに同社の運用資産全体(2020年末で約8.7兆ドル)での排出量をネット・ゼロにすることを目指している。これには管理しているポートフォリオに起因するスコープ3の排出量も含まれるとのことだ。
また、4月8日に放送されたハーバード・ビジネス・レビューのインタビューでフィンク氏は、世界がネット・ゼロに向かうにはEVと関連技術だけに注目するのではなく、たとえば世界の二酸化炭素排出量の18%を占める農業にもフォーカスすべきだと述べた。
他にも書簡では、社内におけるダイバーシティ、インクルージョンにも言及。長期的な戦略と情報開示に努めるとしている。これは、4月6日に発表した人種格差に関する独立業務監査を指していると思われる。積極的にこうした監査を受けるブラックロックは、消極的なゴールドマン・サックス・グループやシティグループなどとは一線を画している。
米国気候特使のジョン・ケリー氏は4月7日におこなわれたIMF(国際通貨基金)のイベントで「バイデン大統領は情報開示を求める大統領令を発令する方針である」「気候危機をベースに、投資への長期リスクを加味した評価がおこなわれるだろう」と発言。ヨーロッパでの一部金融機関ではESG情報開示を義務づけられていることにも触れ、「欧州ではすでにおこなわれていることだ」と述べた。
ジョン・ケリー米国気候特使(2016)
ジャネット・イエレン財務長官は6日、気候変動対策に合わせ税制を調整するというバイデン政権のプランについて言及。これには、2035年までにクリーンエネルギーへの移行も検討されている。
ブルームバーグの報道によると、ホワイトハウスではこの大統領令について、まだ詳細は検討中とのことだが、今回のフィンク氏の書簡とアメリカ政府の足並みはそろって脱炭素へ向かっている。
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