地熱発電にCO2を活用? 大成建設と地熱技術開発がタッグを組むイノベーションとは | EnergyShift

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地熱発電にCO2を活用? 大成建設と地熱技術開発がタッグを組むイノベーションとは

地熱発電にCO2を活用? 大成建設と地熱技術開発がタッグを組むイノベーションとは

2021年08月26日

脱炭素への取り組みで重要となのは、再エネと、CO2の削減。個々に加えて、実はCO2の利活用という論点もある。東芝が発表した人工光合成ではCO2を一酸化炭素にし、プラスチックなどの原材料になるという、CO2を有用な製品に変える、いわゆるカーボンリサイクル技術の一つになる。これまでは再エネとCO2の利活用は別軸で行われていたが、大成建設がこの2つを一緒にやってしまうという技術に着手した。CO2を使って、地熱発電で発電する、という今回の発表は、これまでの地熱の難点さえも克服する技術だという。

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日本の地熱の概況と弱点

2050年カーボンニュートラル宣言を2020年に行って以降、日本でも脱炭素について様々な話題が出てくるようになった。電力は再生可能エネルギーに焦点が当たっている。世界の潮流は、太陽光、風力だが、では日本はどうか。

政府が掲げるグリーン成長戦略の再エネのメニューは洋上風力、太陽光、地熱となっている。このうち、洋上風力は、促進区域を設定するなど、かなり政府としても力が入っており、多くの大手企業もここに参入する姿勢を見せている。太陽光については、目下、2030年温室効果ガス排出46%削減のために、足の早い再エネ増を実現できるツールとして、注力されようとしている。

地熱はどうだろう。

グリーン成長政略に太陽光や洋上風力と並んで入ってきていることからも、日本政府から注目されていることはわかる。地熱発電の開発スピードを損なう要因となっていた自然公園法、温泉法等の在り方に関する措置については、まだ検討中だが、確実にメスが入ろうとしている。地熱発電の日本のポテンシャルは、アメリカ、インドネシアについで世界第3位(2,347万kW)のポテンシャルだといわれている。

では、何か開発を妨げている問題はあるのか。前述の法律や制度面の他に、そもそも開発が容易ではない、という点が難点として上げられている。地熱発電の原理をみてみよう。

火山帯である地下数km~数十km には「マグマ溜まり」というものがある。このマグマ溜まりが約1,000℃の高温で周囲の岩石を熱している。ここに地表からの雨水が数十年かけて岩石の割れ目を通って浸透し、マグマ溜まりの熱によって高温、高圧の熱水となり、地熱貯留層が形成をされている。地熱発電は、この地熱貯留層まで生産井と呼ばれる井戸を掘り、熱水や蒸気を汲み出して利用する、というのが発電の基本方式だ。

つまり、しっかりこの地熱貯留層を当てないといけない。そのために、地中深くまでボーリング調査を行う必要があるが、ボーリング孔の掘削は1本数億円の費用が必要で、莫大な投資が必要になる。

このことから、まずは「地熱探査技術の精度向上」が非常に重要になる。ボーリング調査によって地層中が十分に高温であることが確認されても、熱水量が十分でないと発電には適せず事業化に至らない、という難課題もある。数億円かけて掘り、熱源を引き当てたのに、発電できない、という罠があるわけだ。

そうした開発の難しさ、投資の必要性から、現在の国内の総発電電力量に対する地熱発電電力量の割合は0.3%に留まっているが、日本に非常にポテンシャルがあることも確かだ。エネルギー安全保障的にも非常に利点があり、再エネで脱炭素でもある。しかも天候などの自然条件に左右されず、安定した電力量を確保できる。

これはやるしかない、ということで、地熱発電関連のプロジェクトは多数立ち上がっているが、その中で注目したいのが、今回のプロジェクト「カーボンリサイクルCO2地熱発電技術」の開発だ。

カーボンリサイクルCO2地熱発電技術とは

熱源の特定については、アメリカでのシェールオイル・ガス採掘の進展によって、昔に比べるとかなり進歩したと言われている。ただ、前述のように、そもそも地熱貯留層を引き当てても、熱水量不足というトラップがあるわけだ。

では、そもそも熱水を汲み上げる必要があるのか? と、発電手法そのものを変えようとしているのが、今回のプロジェクトになる。

実はこのアイデアは以前からあった。EGS:Enhanced Geothermal Systemと呼ばれる技術だ。熱水や蒸気を汲み上げてくるのではなく、EGSは水を人工的に地下に注入・循環することで、地熱流体の生産を維持・増産する技術になる。地上から水を注入するため熱水がない、という問題はこれで解決できる。

今回のプロジェクトでは、このEGSをさらに進化させたものになる。なんと、水を注入する代わりに、CO2を注入するのだ。

高温状態にある地熱貯留層中にCO2を圧入し、高温になったCO2を回収することで地熱発電が可能だという。

しかも、ここでCO2を使うには理由がある。

前述の通り地熱発電開発には、非常に深い地盤までの採掘が必要になるが、深い地盤中は温度と圧力が非常に高い状態になっている。こうした温度と圧力が高い、深い地盤にCO2を入れると、CO2は液体・気体の両方の性質を持った超臨界状態となり、高密度かつ低い粘りの低粘性に変質する。

この低粘性のCO2は小さな亀裂面に入り込みやすく、熱交換を効率的に行うことができる。また、高密度で圧縮率も大きいため、生産井での採熱効率も高くなる可能性があるというのだ。

つまり、EGS方式を進化させるとっておきの物質が、CO2というわけだ。

ここで使用されるCO2は、地熱発電所の中で循環させることになる。つまり、地中に圧入し、発電用に使い、今度は冷却されて元に戻る。冷却されたCO2にCO2を外から足して圧縮をし、再度、地中に注入する。つまりCO2自体がぐるぐる回るサイクルになり、CO2は使うものの、CO2の大気への排出は伴わないことになる。

さらに、圧入されたCO2の一部は、地熱貯留層中に炭酸塩鉱物などとして固定されるという。化石燃料の逆パターンをイメージするといいかもしれない。CO2が地中にいき、熱源で反応し、炭酸塩鉱物として地中に炭素が固定されていく。

これまでの地熱の欠点を補うだけでなく、カーボンリサイクルを超え、カーボン固定を地中で行える。しかも、日本の地熱のポテンシャルを引き出す可能性を秘めている。これはもう、この脱炭素時代には期待しないわけにはいかない技術だ。


大成建設「カーボンリサイクルCO2地熱発電技術」の開発に着手 より

大成建設がこのプロジェクトを手がける理由

今回のプロジェクトはJOGMECが公募した地熱発電技術研究開発事業であり、実施期間は2021年度から5年になる。

採択された事業者は2社であり、そのひとつは大手建設会社の大成建設だ。大成建設はカーボンニュートラルの取組みに積極的であり、CO2をコンクリートに固着するカーボンリサイクルコンクリの開発も話題になった。同社は火力発電所などの排ガスからCO2を分離・回収し、地層中に圧入・貯留する「CO2回収・貯留」に力を入れている。今回のプロジェクト参画も、こうしたCO2の回収・貯留の文脈に乗っている。

大成建設は地盤に圧入したCO2の挙動を数値解析する技術も開発しており、長年、国内外のCCSの研究開発や実証事業に活用されてきた経緯がある。

今回のプロジェクトでの開発項目は主に3つ。

  • CO2地熱発電のための全体システム設計
  • CO2を破砕流体とした人工地熱貯留層造成技術
  • 地熱貯留層内でのCO2流体挙動把握技術

大成建設はこの解析技術を用いて、地熱貯留層内でのCO2流体挙動把握技術の開発を主に担当することになっている。

この技術を支える地熱技術開発株式会社とは

大成建設とパートナーを組むもう一社の事業会社は、地熱技術開発株式会社。1975年創業。当時の旧通商産業省により、サンシャイン計画での地熱研究開発のために設立された。この会社が提供している4つの先端技術が①探査技術、②掘削技術、③坑井調査技術、④水理・貯留層技術。今回のCO2を活用したEGS技術は④に該当する。

地熱技術開発はこのEGSに関する技術開発に長年取り組んできた。それだけではない。CCSの、CO2の挙動を連続観測する坑井内圧力温度観測装置を国内のCCS実証実験場に提供するとともに、CO2を地熱貯留層に注入する場合における岩石・水との反応挙動の数値モデル解析にも取り組んでいる。

今回のプロジェクトではこれらの技術を用いて、全体システム設計と、CO2人工貯留層造成技術の開発を主に担当することになっている。

このプロジェクト、ぜひ成功して、日本の地熱に風穴を空けてほしいと筆者は願っている。今日はこの一言でまとめたい。

『地熱でCO2を使うという逆転の発想に脱帽』

参考資料
地熱発電にCO2活用、地下水不要で適地多い利点…大成建設が事業化目指す

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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