エナーバンク:脱炭素時代のエネルギーコミュニケーションをテックベンチャーがつくりだす | EnergyShift

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エナーバンク:脱炭素時代のエネルギーコミュニケーションをテックベンチャーがつくりだす

エナーバンク:脱炭素時代のエネルギーコミュニケーションをテックベンチャーがつくりだす

2019年06月14日

エナーバンク 村中健一CEOインタビュー(1)

2019年1月、エネルギーテックのエナーバンクが、法人向けに電力のリバースオークション・エネオクのサービスを開始した。開始1ヶ月足らずで取扱額は3億円を突破。電力自由化後、自社に最適な電力プランを見つけるサービスの登場が待たれていたことが伺える。エナーバンク創業者の一人である村中健一社長がエネオク成功の裏側と、エネルギー業界の将来について話した。

後編はこちら

エネオク ウェブサイト https://auctions.enerbank.co.jp より

エネオクとは

全国の小売電気事業者から最安の電力プランを見つけられる、法人向けのオークション型仲介サービス。オフィスビルなどの施設情報と直近12ヶ月の電力使用明細をアップロードすれば、2週間ほどで、複数の小売電気事業者の入札によって決定した電力プランの最安値が分かる。チャット機能付きで、法人と小売電気事業者の直接交渉も可能。電力プラン切り替え義務はないので、安心して使うことができる。

エナーバンクとは

2018年7月10日創業のエネルギーテックのベンチャー企業。当社初となるエネルギープロダクト・エネオクを2019年1月に本格始動。自由化を果たした電力業界に新たな一石を投じるサービスとして注目を集めている。

エネオクは5ヶ月でβリリース、8ヶ月で本格稼働

2019年1月、エナーバンク初となるエネルギープロダクト・エネオクを本格始動させました。自由化前の電力事業の流れを引きずり、価格競争なんかしたくないという人が残る中、価格競争を促進するサービスが果して受け入れられるか、僕たちも正直不安に思っていたんです。

ところが予想に反して、電力自由化に伴う変化の流れをどう読み解いたらいいか興味を持っている人が多く、思ったより広く受け入れられています。概ねポジティブな感触を得られたので、今は積極的に情報発信し、攻めの営業を行っていますね。

エネオクの制作は、スピード感を持って進めました。2018年のゴールデンウィークに仕様が決まり、7月に制作に着手、3ヶ月後の10月にはβ版をリリースし、2019年の1月に本格始動です。

この間、関わったメンバーは、エナーバンクの創業メンバーである僕と佐藤丞吾のほか、内製と外注のエンジニアが1人ずつの4人だけ。開発費用は数百万円です。

これほど効率的に事業を立ち上げられたのは、佐藤が前職で「エネがえる」というエネルギープロダクトを立ち上げた経験を持っていたことが大きいですね。「エネがえる」は、電力自由化に伴って爆発的に増えた電力プランから、そのお客様に最適なものを選び出すサービスが基本ですが、そこに自宅の屋根に太陽光発電パネルを設置した場合や、蓄電池を使った場合の電力プランをシミュレーションしてみせるオプションを追加し、ユーザーにとってよりよい電力プランの提案ができるようになっていて、お客様の新たなエネルギープロダクト購入の意欲を引き出すことに成功していました。

これは電力業界全体を活性化する仕組みだと思い、同様のサービスを法人向けにやろうと考えたのが「エネオク」誕生のきっかけです。ほかにもいろいろと目指すサービスがあったのですが、その実現には電力情報が必須だとわかり、その情報を集めるステップとしてまずエネオクを立ち上げることにしたんです。

新サービスが受け入れられた理由

エネオクが受け入れられた理由は、3つあると思っています。

1つ目は僕がエネルギーの文脈を理解しており、エネルギーの世界をどういう方向にもっていきたいかを語ることができたこと。2つ目は、佐藤が「エネがえる」を通して築いた横のネットワークをもっており、協力パートナーを得やすかったこと。3つ目が、見せ方にこだわったことです。

見せ方で言えば、ウェブサイトやチラシでは、オークションであることを前面に出し、エネルギーっぽさを抑えました。エネルギー・オークションをエネオクという4文字で分かりやすく表現し、手軽にスマホでも利用可能なサービスにしました。さらにロゴやデザイン、色合いは、世の中で良く受け入れられているサービス側に寄せ、その中で、エネルギーをどう表現していくべきなのかを自分なりに変換したものです。それが、多くの人に「面白そうだね」と言ってもらえる結果につながったと思います。

とはいえ、ビジネスが成り立っていなかったり、業界に則していなかったらそもそも受け入れられないので、サービス設計にはもっとも注力しました。ゴールデンウィークの休み中に仕様を決められたのも、それまで長年の電力業界にいた蓄積があってのことだと思います。

エネルギーの陣取り合戦がはじまっている

エネオクの使われ方をみていると、いろいろ面白いことが見えてきます。

まず、まだシェアが少なく、今から顧客を新規開拓したいという小売電気事業者にとっては、新しい顧客獲得チャネルになっています。代理店を使ったり、営業マンを派遣したりする必要はなく、ウェブを見ていれば次々に電力需要案件が入ってくるのが便利なんです。さらに、他社の入札情報が見られるので、今後の参考にもなる。

もう少し大手になると、顧客獲得にこういうチャネルを使うことに抵抗を感じる方もおられます。ですがエネオク内で起こっている競争を無視できないというのが実情だと思います。

最大手である旧一電*がエネオクのリバースオークションに参加した例は今のところありません。もし参加することになったら、現状では、圧倒的にお客様を取られる立場になるので、それにどう対処するかが問題になるでしょうね。一方で、今までとは違う、他のエリアへの進出を考えているとしたら、旧一電にとっても活用できるツールになると思っています。

今は、旧一電 vs 新電力といった構図の中で、地域ごとの陣取り合戦が起こっています。興味深い状況で、エネオクがどのような競争を起こせるのかを見極めようとしているところです。

エネオクは営業対象が日本全国ですので、「この県の人は電力自由化に対して感度が高い」などといった地域性が見えてくるのも面白い。こうした情報は今後のビジネス戦略につなげていきたいですね。

* 旧一般電気事業者・大手電力会社10社のこと

コストとエネルギーコミュニケーション

旧一電のコスト構造は、発電コストに販管費と利益を加えたものです。営業の人間をたくさん抱え、オペレーションも丁寧であるため、販管費が高くついています。一方、新電力は、顧客獲得チャネルとしてエネオクのようなツールを活用したり、システム化を推進して料金明細をウェブで完結させるなど、販管費をぐっと削減し電力料金を下げています。

しかし、それだけでは、単なる価格競争になってしまい、電力サービスとしての広がりが見込めません。そこでエネオクではチャット機能を設け、お客様と電力会社の直接交渉を可能にしました。

複数年契約をしたらどうか、電力のコスト以外にどのようなサービスが受けられるかといった個別交渉によって、電力サービスに広がりが生まれます。

つまり、お客様側と小売電気事業者側とが、互いに価格だけでなく、マッチングにどれだけ納得できるかが重要で、「エネルギーコミュニケーション」を起こさなくてはならない。

本来、僕たちがやりたいのはこのエネルギーコミュニケーションを広げていくことです。ゆくゆくはエネルギープロダクトをもっている人たちにも、このコミュニケーション体験の向上に加わってもらいたいと思っています。

エネルギー市場 攻めの一手目がエネオク

もともと僕たちは、エネオクは事業の第一段階だと考えていました。エネオクが好意的に受け入れられたことで、今、次々に新しいビジネスのアイデアが湧いてきているところです。

エネルギー市場への攻め込み方はさまざまあり、僕たちのようなベンチャーは、ニッチなところを取りに行くという戦術をとることもある。しかし、それでは、「彼らはニッチを攻めているから」とエネルギー業界の中で先入観を持たれ、業界全体に影響を出せなくなる心配があります。再生可能エネルギー(再エネ)やブロックチェーンにも、もちろん興味はあるんですが、その時代がいつ来るのかもわからない状況で取り掛かるプロダクトは何か。

そこで、今、まさに現場で起こっていて、誰もが課題だと認める電力の価格について取り組もうと決め、エネオクというサービスをリリースし、会社を設立したんです。

ここで多くのお客様を獲得し、その情報を収集して、次の展開・プロダクトにつなげていくつもりで、エネオクはその初手なんです。

次の展開として考えられるサービスは、具体的に3つに分類できると思っています。

1つ目が,僕らがエネルギープロダクトと呼ぶ、太陽光発電パネルや蓄電池、HEMSやMEMSといったシステムソリューション。2つ目は、再エネを使いたい人たちへ、供給の仕組みづくり。3つ目が、スマートメーターの普及に合わせた、需要と供給の最適化に基づく電力調達コストの削減です。

僕らテックベンチャーは、テクノロジーを使ってスピーディーに問題の検証を行い、そこで必要とされるプロダクトを制作していくことが得意です。プロダクトが世の中に浸透していくかを見定めながら社会実装していく。特に、提供サービス如何では、エネルギーにそれほど興味のない人たちを再生可能エネルギーに誘う仕組みをつくることもできると考えています。

テックベンチャーが電力業界変える

電力業界に、僕たちのようなテックベンチャーが入る意義は何だろうと、考えているんです。

これまでのエネルギー業界はルールも方向性も決まった産業で、大きなプレーヤーが決められた方針の下でインフラをつくり、その中でビジネスをするベンダーがいればよかったんです。しかし、自由化によってその構図は壊れつつあります。とはいえ国として動いている部分が多いため、課題は原発や再エネ、インフラなど規模の大きなものが多いです。

ここでテックの強みとなるのは、小さな問題の解決を着実に積み上げる力を持っていることです。

エネオクも、電力全体を変えることはできません。しかし、自由化に伴って小売電気事業者を選べるようになったことで、電力をもっと安くできるのではないか考えるようになった需要側の悩みを解決しました。

ひとつ問題を解決したことで、次につながるアイデアが出てきて、次の問題を解決するプロダクトをつくることができます。こうしてサービスが積みあがっていくと、それは既存市場に置き換わることになる。ここでビジネスが成り立つとわかれば、電力のことをよく知らないような新しいテックも、もっと参入してくるでしょう。

エネルギー業界にもっと新しい力

エネオクは、サービス開始からわずか1ヶ月で取扱額は3億円に達しました。一般的なベンチャーからみたら大変な額で、電力業界にビジネスのポテンシャルがあるのは明らかです。

エネルギービジネスを盛り上げるために、僕たちはエネルギーテックを広げたいと思っており、ほかのテックに対しても「興味があるならエネルギーに参入してみたら」と進めています。

そこで大事なことは、まず電力やエネルギーの文脈を理解して、一度アナロジーの中で自分のよく知っている文脈に置き換え、ビジネスを組み立て、最後エネルギー業界にカスタマイズすることです。

エネオクはセールステックを僕らがエネルギーにカスタマイズしました。このカスタマイズの部分でアイデアとスピードが重要で、この見極めが難しい。僕たちがその事例を示していきたいと思っています。だから、とりあえず何か思い付いたらプロダクトをつくり、世の中に放り込んでいこうと思っています。

インターン生を受け入れるのも、新しい人材にエネルギー業界に入ってきてほしいからです。エネルギー業界はアイデアさえあれば成功できる世界なのだと気付いてもらうことができれば、成長してくれるでしょう。そして一回自分で成功事例をつくれば、それを礎に新しい展開が訪れるので、ビジネスとして一人立ちできると思っています。ぜひ、高いポテンシャルをもったエネルギービジネスに、多くの新しい人に入ってきてほしいですね。

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取材・記事執筆:池田亜希子(サイテック ・コミュニケーションズ) 撮影:寺川真嗣
村中健一
村中健一

株式会社エナーバンク 代表取締役社長。 慶應義塾大学理工学部及び大学院理工学研究科で最適化理論・機械学習を学ぶ。ソフトバンクで経済産業省HEMSプロジェクト主任。2016年電力自由化で電力事業の立ち上げ、電力見える化プロダクト開発のリーダを務める。IoT関連の新プロダクト企画・開発実績。2018年エナーバンクを創業。 https://www.enerbank.co.jp

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