ロボットやスマートフォン、PC、クラウドなどのデジタル化、そして脱炭素社会の実現に不可欠な半導体をめぐり、米中の技術覇権争いが激化するなか、経済産業省は6月4日、半導体などデジタル産業の基盤強化に国家事業として取り組む、新たな戦略を取りまとめた。
半導体はAI、ロボット、スマホ、PC、クラウドや自動車の電動化など、ありとあらゆる社会がデジタルに移行するなかで欠かせない製品だ。
たとえば、自動車の「走る」「曲がる」「止まる」といった基本的な動作の多くは半導体で制御されている。 一般的なガソリン車には一台あたり200ドル(約21,000円)の半導体が搭載されているが、これがE V(電気自動車)になると400ドル(約43,000円)に増えるという。さらに自動運転が進展すれば、搭載金額は800ドル(約87,000円)以上になる見込みだ。
しかも、半導体は脱炭素社会の実現にも欠かせない。
情報通信機器の省電力化のほか、再生可能エネルギーでつくった電力の制御にも必要不可欠だからだ。
半導体をめぐっては、米中はじめ、台湾、韓国、EUなど世界各国が巨額の資金を投じ、開発競争を繰り広げており、米中の技術覇権争いは激化する一方だ。さらに半導体メーカーの工場火災などにより、世界的に半導体が不足。自動車メーカーも減産をよぎなくされており、すでに半導体は国家戦略物資と位置づけられている。
経済産業省では、デジタル化や脱炭素社会の実現、そして経済の安全保障を確保するため、「エネルギーや食料の確保に講じてきた政策と同様、半導体産業を国家事業として取り組む」新たな戦略をまとめた。
新戦略となる「半導体・デジタル産業戦略」によると、日本の半導体産業は1990年までは50%の世界シェアを持っていたが、現在では10%程度にまで低下。2030年には日本のシェアはほぼ0%になるとの危機感を募らせている。
そこで、民間事業支援の枠を越え、国家事業として取り組む。 具体的には世界最大の半導体メーカー、TSMCなど海外企業と組み、国内に合弁工場などを設立する。国内の製造基盤を確保するとともに、次世代半導体の製造技術の国産化を進めるというもの。
実現に向けては、脱炭素技術の開発支援をする2兆円基金や、各種補助金制度を活用するという。
一方、米バイデン大統領は520億ドル(約5.7兆円)の半導体産業投資を含むCHIPS法案に賛同している。中国は半導体関連技術へ中央政府、地方政府合わせて10兆円規模を投じる構えだ。EUはデジタル移行に約17.5兆円を、台湾は2021年までに半導体分野に300億円の補助金を投入する。
世界各国が兆を超える巨額な資金を投じるなか、日本の支援額は1ケタ少ないという批判がすでに出始めている。日本自動車工業会などはさらなる政府支援を要望している。
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