テスラのイーロン・マスク、世界のEV・自動運転へのシフトは「約30年で完了する」 | EnergyShift

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テスラのイーロン・マスク、世界のEV・自動運転へのシフトは「約30年で完了する」

テスラのイーロン・マスク、世界のEV・自動運転へのシフトは「約30年で完了する」

2020年12月24日

欧州や中国、そして日本もEVシフトを鮮明にしているが、これに対し、テスラのイーロン・マスクCEOはコネクテッドカーとしての技術も含めたEV化のロードマップを明確に打ち出している。そこには、どのようなビジョンがあるのか、日本サスティナブル・エナジー株式会社の大野嘉久氏が紹介する。

イーロン・マスクCEO「今から30年後にEVシフトが完成」

米EV大手テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEOは2020年12月1日、ドイツのメディア企業アクセル・シュプリンガー社が開催した「アクセル・シュプリンガー賞」の授賞式において、EV化や完全自動運転化のロードマップを次のように語った。

EV化とは「起こるのか」という問題ではなく、「いつ起こるのか」の問題だ

10年後には販売される新車の8割以上がEVに代わり、加えてほぼ全ての車に自動運転機能がつくだろう。ただし、それがEV化というわけではない。なぜなら携帯電話なら数年で多くの人が買い替えるのに対して、耐久消費財である車やトラックはもっと長く使われる。したがって、入れ替わるためにはもっと長い時間がかかる

いま地球上に約20億台の車やトラックがあり、そのうち1年に5%、およそ1億台がリプレースされる。そして全ての車がEVとなったり、完全自動運転機能がつくのは、ほぼ全ての新車がEVとなり完全自動運転機能がつくようになってから20年後となる


イーロン・マスクCEO 「アクセル・シュプリンガー賞」授賞式インタビュー(Elon Musk Interview At Axel Springer Award | SpaceX)

つまり、本格的なEVシフトが完了するのは今から10年+20年=およそ30年後だと予測している。また「人が運転することがなくなるわけではない」とも語っているところを見ると、路上にある全ての車両の運行をシステムが自動で管理するような仕組みを想定しているわけでもなさそうである。

そして自動運転については「エレベーターが登場した頃には(運転を操作する)エレベーター・ボーイがいないエレベーターなど誰も予測しなかったが、今では全てのエレベーターが全自動だ。車もそれと同じことになる」と、自動運転に対する人々の不安を払拭するかのように明言した上で、次のように語った。

「将来も人間が自動車を運転する事がなくなるわけではない。ただし、それは珍しいことになるだろう」

「私は運転の楽しさは理解しているが、それは例えば「走って爽快な道」や「美しい景色」「運転しやすい車」など、環境のよい場合に限られるのも事実。渋滞などひどい状況のもとで運転するのは楽しくない」

「カリフォルニアだと、多くの人は通勤のために一日あたり1~2時間ほど、長い時には3時間もかけて通勤のために自動車を運転するが、それが好きな人は多くない」

「来年(2021年)には完全自動運転機能を備えた車を販売できるだろう。とりわけ(テスラ社の運転支援ソフトウェアである)「オートパイロット」は他のシステムと比べて安全性が格段に高いことが統計で示されている。ただし、それが許可されるのに要する期間は見通しがつかず、中でも欧州は非常に保守的である。だが、それでも2021年には幾つかの地区において許可されるのではないか」


イーロン・マスクCEO 「アクセル・シュプリンガー賞」授賞式インタビュー(Elon Musk Interview At Axel Springer Award | SpaceX)

今まで「EVシフト」や「自動運転」という言葉を見たり聞いたりすることはあったものの、多くの人は“いつかくる将来のこと”という曖昧な印象としかとらえられていなかったと思われる。

しかし、このたびイーロン・マスクが示したビジョンによって「10年後に売られる車がEV化する」「30年後には地上の車がEV化する」という非常に分かりやすいイメージを与えてくれたと言えよう。

上記インタビューが開催されたちょうど2週間前の2020年11月17日、折しも英国が“ガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止する”という政策を発表したばかり。

したがって、この「10年後に製造される新車のほぼ全てがEVになる」という見通しは、英国が掲げている方針にも符合することになる。

なお日本では菅内閣が「2030年代半ばに脱ガソリン車」そして東京都の小池百合子知事も「2030年までに脱ガソリン車」という目標を掲げているものの、どちらもガソリンとモーターを併用するハイブリッド車は現状だと禁止しないため、(良いか悪いかは別として)世界の潮流とは離れている。

欧州では既にEV化が進んでいる国も

現在の日本における新車販売はEVよりエンジン車(ガソリン車+ディーゼル車)やハイブリッド車の方が圧倒的に多いが、海外ではEV化が進んでいる国も少なくない。

例えばEVの浸透率が高いことで知られるノルウェーでは2020年11月に販売された車の80%がEV(うち純EVが56.1%、プラグイン・ハイブリッドが23.8%)であり、また同じ北欧のスウェーデンも同月に38.7%の新記録を達成した(うち純EVが10.2%、プラグイン・ハイブリッドが28.5%)。20世紀の自動車王国ドイツも同月に20.5%という新記録を打ち出した(うち純EVが10.0%、プラグイン・ハイブリッドが10.5%、以上出典:Clean Technica)。

主要国 EV販売台数(2020年Q3)


出典:EV Volumes "xEV Market Outlook 2020 Q3" (BEV+PHEV+FCEV、 乗用車のみの販売台数(新車登録台数))


テスラ モデル3 (2017年)

一方、テスラの本拠地である米国では純EVとプラグイン・ハイブリッドを合計しても2019年の実績値は1.9%と欧州に比べたらかなり低く、2020年の予想も2.3%と伸び悩んでいるのが現状である。

イーロン・マスクは学生へのメッセージで、「若いころ、私たちは寝ている時間を除いたらほとんど働いていた」と語っていたが、この日のインタビューで「今日はどこに泊まるのか?」と聞かれた際にも「いまドイツで建設中の工場に一人で泊まる」と、世界第2位の富豪らしくないハングリーな横顔も見せた。

これまで何十年も一刻一秒を争ってきたイーロン・マスクが、これからまた30年も必死に働いて、彼はようやく世界のEV化を完成させるのであろう。

大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。

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