Googleは2030年までにエネルギー使用量の100%を再生可能エネルギーのみとし、24時間、365日、全世界でのカーボンフリーを目指している。今年の開発者会議でGoogleが提携を発表したFervo Energyとは?
5月19日、Googleのサンダー・ピチャイCEOはGoogleの年次開発者会議Google I/Oで、Googleの新しいカーボンフリー戦略を発表した。同日、Googleのエネルギー担当ディレクターであるマイケル・テレル氏はブログでその詳細と新たな提携先、Fervo Energyを紹介した。
Google I/Oで地熱発電について述べるサンダー・ピチャイ氏
Googleは2030年までにエネルギー使用量の100%を再生可能エネルギーのみとし、24時間、365日、全世界でのカーボンフリーを目指している。以前からGoogleはこの目標の達成には新しい技術が必要だとしていたが、そのひとつが今回発表したFervo Energyとの提携だ。次世代地熱発電の技術を持つこのFervo Energyは、Googleのネバダ州全域のデータセンターやインフラに電力を供給することになる。
今回Googleが重視したのは、カーボンフリーの常時供給だ。このFervo Energyの技術は時間を問わず、安定したものになる。
Googleの紹介した図を見てみると、1週間のうち、電力需要は24時間7日間ほぼ変わらないが、現在の自然エネルギーは夜に凹みができる。それを補うのがバッテリーの技術だが、そこに地熱を組み合わせてみたらどうか、というのがGoogleのアイデアだ。
まずは24時間、同じ量の地熱発電の電力を導入すると、当然のことだが太陽光の昼間の電力は余ってしまう。なので、自然エネルギーの凹みに合わせるようにFervo Energyの地熱発電の発電量を凸型になるようにコントロールすれば、無理なく電力の需給バランスがとれる。
このような地熱発電のコントロールができるのは、Fervo Energyの技術だからこそ、とGoogleは強調した。
図上:自然エネルギーとグリッドミックスで需給バランスがとれている状態 図下:自然エネルギーの凹みを地熱発電が補完している状態 Google Cloud Blogより
では、Fervo Energyとは何者なのか?
Fervo Energyは今最も注目されているアメリカの次世代地熱発電会社だ。ヒューストンを拠点にしているが、その技術は場所を選ばない。
ビル・ゲイツのBreakthrough Energy Venturesや、eBay出身のジェフ・スコールが手がけるCapricorn Investment Groupからも資金提供を受けている。この5月にも新たに2.800万ドル(約30億円)のシリーズB資金提供を発表した。これにもBreakthrough Energy Venturesは再び参加している。
Fervo Energyの次世代地熱発電とは、強化地熱システム(EGS)を先端技術でおこなうというもの。強化地熱システムとは、地下深くの熱い岩盤層に人工的に貯留層をつくり、そこへ地上から水を送り込んで蒸気タービンを回すというもの。1970年代にアメリカで実験が始まり、日本でも検証されたが当時の技術では貯留層をうまくつくることができず、いったんは途絶えていた技術だ。
資源の場所の特定がカギを握るこのシステムを、Fervo Energyは分散型の光ファイバセンサや新しい計算モデル、水平掘削技術などを駆使して実現にこぎ着けたのだ。さらにそこに、GoogleのAIや機械学習、リアルタイムの収集が加わることになり、さらに精度は増すだろう。
米国エネルギー省は、政策、技術、調達が進歩すれば、地熱エネルギーは2050年までに米国で最大1億2,000万kWの安定的かつ柔軟な発電能力を提供できると発表している。また、地熱が米国の電力の16%を供給する可能性があるとしており、次世代地熱への期待と注目は増すばかりだ。
さらにユニークなのは、Fervo Enrgyの創立者でありCEOのTim Latimer氏の考え方だ。彼はテキサス州の小さな街にある、アメリカ最後の石炭発電所のひとつ、サンディクリーク石炭発電所の近くで育った。彼の家庭、そして彼の最初の仕事も石油業界に関わるものだった。しかし、そこから自然エネルギーへの大転換がはじまったのだ。
「私にとって、石油・ガス産業で仕事を始めて以来一番大切にしてきたことは、エネルギー転換が起きる中で、化石燃料側にいる人達が将来クリーンエネルギーの仕事に就けるようにすることです。私は石油価格の暴落によって失業したり苦労を強いられている人たちを雇い、私たちの発電所で働いてもらうためのスタートを切ることができました」とTechCrunchの取材で彼は語っている。
こうしたエネルギー業界の雇用の変化は、バイデン政権も重視している。転換した先での雇用が安定してあってこそ、産業構造は変化できる。カーボンからカーボンフリー社会への転換において、雇用の転換は非常に重視すべき点である。
地熱発電の課題はコストにある。65〜75ドル/MWだが、アメリカの太陽光発電は35〜55ドルだ。しかし、Latimer氏は地熱発電には「安定性」があるという。Latimer氏自身もテキサスで停電をこの冬に経験しているからこその自信だろう。また、Googleが採用に踏み切ったのもこの安定性を重視したからだ。
Googleは排出権購入などでCO2を正味でゼロにする「カーボンニュートラル」ではなく、「カーボンフリー」を目指している。世界中で使うことが可能な次世代地熱発電に大きな期待を寄せるのもそのためだろう。
そして、Fervo Energyはその期待に応えられるだろう。
( Text:小森岳史)
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