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世界の蓄電池市場をひっくり返す、日本発の全固体リチウム硫黄電池とはなんだ

2021年12月10日

EV性能を飛躍的に向上させる全固体電池の課題とは

次世代電池の有力候補として全固体リチウムイオン電池の注目度は日ましに上がってきている。トヨタ自動車も開発を進めており、日産自動車も11月29日の戦略発表の中で全固体電池の将来活用について、言及した。海外勢もフォルクスワーゲン(VW)をはじめ多くの企業が全固体電池を将来搭載することを前提に動いている。

この全固体電池、構造をしめすと次のようになる。

全固体リチウムイオン電池の概略図


出典:産業技術総合研究所

複合正極層/隔離層/複合負極層の3層から成っており、リチウムイオンが正・負極内および隔離層内の固体電解質粒子を介して複合正・負極間を移動することで充放電する仕組みになっている。

全固体リチウムイオン電池は、上の図の吹き出しに示すように、リチウムイオンが粒子接点を介して移動するので、活物質粒子-固体電解質粒子間の接点固体電解質粒子間の接点形成、これらがエネルギー密度に大きく影響する形となっている。

要は粒子の接点が多ければ多いほど、そこをチャネルにイオンが移動するので、粒子の接点を多く作ることができれば、EV性能を飛躍的に向上させることができるわけだ。

となると、「接点をいっぱい作ったらええやん」という話になるのだが、ここに課題がある。

一般的にいま検討が進んでいる酸化物系固体電解質粒子は硬くて、また、結晶構造が壊れると大幅に特性が低下してしまう。

一方で固体の粒子の接点を多く作るためにはどうしたらいいかというと、ボールミル、簡単にいうと強く粉砕する機械などを用いて金属素粉末や合金粉末をミリング、つまり強撹拌し、メカニカルミリングと呼ばれる粉末に対して超強加工を施す手法などの機械的なエネルギーを利用した粒子間の接触形成の手法が必要になってくる。

ただ、先述したように、いま検討されている酸化物系固体電解質粒子は硬く、結晶構造が壊れると特性が低下することから、このメカニカルミリングなどが利用できないという欠点がある。そのため、十分な反応点およびリチウムイオン伝導経路を確保することが難しい格好となっていた。

例えばこの課題を乗り越えるための一つの手法として、加熱などがある。だが、加熱をするのは効率も悪く、動作環境も選ぶ格好になるので、課題解決には至っていなかった。

以前、解説したトヨタの蓄電池でも、トヨタが全固体電池について、エネルギー密度に課題があるので、まずは段階的に使っていく、という発表をしたことに触れたが、まさにそれはこうした課題によるところだ。

そこで、一つ注目をされているのが、全固体リチウム硫黄電池だ。では、全固体リチウム硫黄電池とはどんなものなのか。解説しよう。

全固体リチウムイオン電池の課題を解消する、全固体リチウム硫黄電池とは・・・次ページ

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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