簡単に言うと、複合正極層中の活物質に高エネルギー密度正極活物質である硫黄を用いたのが全固体リチウム硫黄電池である。
いま、サラッと硫黄が高エネルギー密度の活物質だとしたが、正極で使うと、硫黄は1,675mAh/gもの高い理論容量をもつとされている。リチウムイオン電池正極のコバルト酸リチウムが137mAh/gとされているので、如何に優れているかがわかるだろう。その上、硫黄は低コストで資源的に豊富であるという利点もある。
つまり、硫黄を用いた全固体リチウム硫黄電池は、現行リチウムイオン電池と比べ、大幅にエネルギー密度を向上できる可能性があるわけだ。先ほど述べたように全固体リチウムイオン電池がエネルギー密度に課題があるとされていたことから、全固体リチウム硫黄電池に期待が高まっている。
一方で、もちろん、課題がないわけではない。
全固体リチウム硫黄電池の実現に向けた課題として2つが知られている。
1つ目は、正極・負極の活物質の組み合わせである。正極活物質に硫黄単体を用いた場合、負極となるリチウム金属は充放電サイクル時のデンドライト成長による短絡の可能性が高いとされている。デンドライト成長とは充放電を繰り返すことで負極上に針状のリチウム金属が成長する現象のことで、成長が進むとこれが隔離層を貫通し、正極-負極間でリチウム金属がつながってしまって、短絡、つまりショートしてしまう。これは事故の原因になる。
また、これに加えて電池製造時の取り扱いが困難であるなどの課題があった。
そこで注目を集めているのが、リチウム金属を用いない系として、正・負極活物質にそれぞれリチウム硫黄(Li2S)とケイ素(Si)を用いた系の電池だ。これらに関しては、後程詳しく解説するが、ポイントは正・負極活物質をリチウム硫黄とケイ素にそれぞれ置き換えるということが課題の一つを解決するということだ。
そして課題の2つ目が、正・負極内および隔離層に使用される固体電解質材料である。
一般的に固体電解質材料には、このリチウム硫黄電池では硫化物系固体電解質材料が検討されているが、空気中で不安定であり、分解して硫化水素ガスを発生するため、より安全な酸化物系固体電解質材料への置き換えが望まれている。しかしながら、高容量活物質であるリチウム硫黄やケイ素は反応性が低いため、室温で酸化物系固体電解質材料を用いて実用的な充放電をすることは困難であった。
従って、全固体リチウム硫黄電池の実現に向けて、正・負極内の構造を抜本的に改善することが望まれてきたという経緯がある。
その取組みをずっとしてきたのが産総研である。では、産総研が果たしたブレークスルーとは如何なるものなのか。解説していこう。
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