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世界の蓄電池市場をひっくり返す、日本発の全固体リチウム硫黄電池とはなんだ

2021年12月10日

全固体リチウムイオン電池の課題を解消する、全固体リチウム硫黄電池とは

簡単に言うと、複合正極層中の活物質に高エネルギー密度正極活物質である硫黄を用いたのが全固体リチウム硫黄電池である。

いま、サラッと硫黄が高エネルギー密度の活物質だとしたが、正極で使うと、硫黄は1,675mAh/gもの高い理論容量をもつとされている。リチウムイオン電池正極のコバルト酸リチウムが137mAh/gとされているので、如何に優れているかがわかるだろう。その上、硫黄は低コストで資源的に豊富であるという利点もある。

つまり、硫黄を用いた全固体リチウム硫黄電池は、現行リチウムイオン電池と比べ、大幅にエネルギー密度を向上できる可能性があるわけだ。先ほど述べたように全固体リチウムイオン電池がエネルギー密度に課題があるとされていたことから、全固体リチウム硫黄電池に期待が高まっている。

一方で、もちろん、課題がないわけではない。

全固体リチウム硫黄電池の実現に向けた課題として2つが知られている。

1つ目は、正極・負極の活物質の組み合わせである。正極活物質に硫黄単体を用いた場合、負極となるリチウム金属は充放電サイクル時のデンドライト成長による短絡の可能性が高いとされている。デンドライト成長とは充放電を繰り返すことで負極上に針状のリチウム金属が成長する現象のことで、成長が進むとこれが隔離層を貫通し、正極-負極間でリチウム金属がつながってしまって、短絡、つまりショートしてしまう。これは事故の原因になる。

また、これに加えて電池製造時の取り扱いが困難であるなどの課題があった。

そこで注目を集めているのが、リチウム金属を用いない系として、正・負極活物質にそれぞれリチウム硫黄(Li2S)とケイ素(Si)を用いた系の電池だ。これらに関しては、後程詳しく解説するが、ポイントは正・負極活物質をリチウム硫黄とケイ素にそれぞれ置き換えるということが課題の一つを解決するということだ。

そして課題の2つ目が、正・負極内および隔離層に使用される固体電解質材料である。

一般的に固体電解質材料には、このリチウム硫黄電池では硫化物系固体電解質材料が検討されているが、空気中で不安定であり、分解して硫化水素ガスを発生するため、より安全な酸化物系固体電解質材料への置き換えが望まれている。しかしながら、高容量活物質であるリチウム硫黄やケイ素は反応性が低いため、室温で酸化物系固体電解質材料を用いて実用的な充放電をすることは困難であった。

従って、全固体リチウム硫黄電池の実現に向けて、正・負極内の構造を抜本的に改善することが望まれてきたという経緯がある。

その取組みをずっとしてきたのが産総研である。では、産総研が果たしたブレークスルーとは如何なるものなのか。解説していこう。

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前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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