出光興産(出光昭和シェル)、小型EVでガソリンスタンドを脱炭素ステーションに -シリーズ・脱炭素企業を分析する(8) | EnergyShift

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出光興産(出光昭和シェル)、小型EVでガソリンスタンドを脱炭素ステーションに -シリーズ・脱炭素企業を分析する(8)

出光興産(出光昭和シェル)、小型EVでガソリンスタンドを脱炭素ステーションに -シリーズ・脱炭素企業を分析する(8)

昭和シェル石油と合併して国内第2位となった石油会社、出光興産を脱炭素の視点から分析する。株価は底をうち、上昇に転じるも、業績は大幅な減収。将来に向けたポートフォリオはどうなるのか。

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最新の株価と業績は

株価は2018年をピークに急激に下がり、低迷していたが、2020年11月に底をうったあと、上昇に転じている。上昇への転換には昭和シェル石油との合併が影響している。

一方、業績だが、2021年3月期、売上高4兆5,566億円となっている。これに対し、2020年3月期、売上高6兆458億円。大幅な減収だ。

2020年度はコロナの影響もあり、石油の消費が減速。ただ、これは日本に限ったことではなく、全世界的に見られることである。

とはいえ、ガソリン需要は自動車の燃費向上によって需要が減少してきた。電気自動車が普及するにしたがって、ガソリン需要はますます減少する。新たな事業を開発しなければ、企業として先細りとなる。では、どのような事業を考えているのか。

とはいえ、その前に、沿革を確認しておく。

沿革 1911年石油販売事業から今に至るまで

出光興産は、1911年、出光商会として石油販売事業をスタート、創業者は出光佐三。戦前は、満州をはじめとする大陸や台湾に進出、そうした中、1940年に出光興産が設立される。とはいえ、戦局が悪化し、出光興産も大陸から撤退。敗戦によってすべての事業が消滅する。

しかし、海外から引き上げてくる従業員を一人も首にしないと宣言する。

ところで、当時の本社ビルは敗戦後、GHQに接収されて使用されたのは、有名な話である。

出光興産は旧海軍タンク底油回収作業から事業を再開、1947年には石油業に復帰。

1953年の日章丸事件とは、出光興産が極秘にイランと石油を直接取引し、英国石油会社から訴訟を受けた事件だ。結果は出光の勝訴となる。

1977年には石油ショックを受け、石炭、地熱、ウランを石油代替事業として着手。脱ガソリンの起源はここにあるのかもしれない。

上場企業になったのは遅く、2006年である。2002年にはじめて創業家ではない天坊昭彦氏が社長に就任したのがその布石だ。

その後、風力や太陽光発電にも着手している。

一方、昭和シェル石油は、1942年に石油会社3社の合併で設立された昭和石油と、横浜の貿易商サミュエル商会を源流とするシェル石油の日本法人が1985年に合併して誕生した。同社も石油だけではなく、2000年には発電事業に参入し、2006年には太陽電池メーカーの昭和シェルソーラー(現ソーラーフロンティア)を設立、小売電気事業やメガソーラーにも取り組んでいる。

そして、2019年には出光興産を存続会社として、この2社が合併した。

今後の事業展開 注目はモビリティとコミュニティ

石油事業からどのように業態を転換していくのか。次の図が、2030年ビジョンとしてしめされたものである。この中で注目されるのが、次世代モビリティ&コミュニティだ。

モビリティについては、出光タジマEVに注目だろう。

ねらいどころは、サービスステーション(ガソリンスタンド)の多機能化。

ガソリンが売れなくなったとき、既存のSSやスタンドをどうするかということで、小型EVのカーリースなどをSS等で展開する事業も始めている。

小型EVは他のメーカーが苦戦している分野でもあるので、こうした対応は他に比べ出光のアドバンテージになるだろう。

2050年カーボンニュートラルを目指していくことは間違いない。ただ、気になるのは、エネルギー・マテリアルの部分が残っていることだ。これについては、カーボンクレジットなどを利用するとしているが、2050年の段階で安価なクレジットがあるのかどうか。ここは事業のリスクとなってくるところだ。

その一方で、再エネ事業については、大きな期待を寄せている。特に地熱に取り組んできた歴史は長く、今後も期待したい。

子会社であるソーラーフロンティアによるメガソーラーの経験をはじめ、風力や、バイオマスにも取り組んでおり、2019年に0.2GWだった再エネ電源発電量を、9年後の2030年には4GWまで成長させる方針だ。

投資計画については、3分の1をM&Aにあてることに注目される。その一方、2,700億円を資源開発にあてるとしているが、地熱はともかく、石油や天然ガスの開発にあてることには、疑問もある。

それでも、自分達でできないことは、技術を持っている会社を取り込むという方向性で出光タジマや、リチウムイオン電池向け電解質の事業などに投資をしながら会社として脱炭素していこうという姿が見えてくる。

まとめ:歴史あるがゆえに脱炭素には力不足か

歴史ある会社だが、歴史がある会社ゆえに脱炭素には決定的な力不足が否めない。

地熱、風力、太陽光、水素と、いろいろな再エネにも取り組んでいるが、決して規模が大きいわけではなく、その点ではいっそうの奮起も必要だろう。特に地熱には経験があり、他社とは違った展開が可能だ。

他方、石炭をいつまで抱えるのか。石炭は終焉を迎えるものとして、どうやって決別していくのかも重要だ。

出光と昭和シェルそれぞれで、日本中に多くのサービスステーションを展開しているが、その業態転換も課題となってくる。もちろん、出光タジマのEVビジネスにも期待したいが、それだけでは不足だ。bpのように、小売業への転換など、多様な方策がある。ENEOSとはまた違った展開を見せて欲しい。サービスステーションが脱炭素の時代において、どのように発展、展開していくかは目が離せない。

(Text:MASA)

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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