木質バイオマスガス化と発電システムについては、国内でも少しずつ広がりが見えてきています。特に小型の50kW未満のものは低圧連系になることから、電力会社による送電網への繋ぎ込みを断られることがないため、注目されています。
木質バイオマスガス化発電システムメーカーの1つである、フィンランドのVolter社(オウル市)を訪ね、フィンランドのバイオマス事業の状況について、おうかがいしました。
Volter社の歴史
Volter社はフィンランド前首相のユハさん*1が1998年に、研究対象として木質バイオマスにシフトしていったときに作った会社だそうです。ユハさんは、自らの別荘がグリッドから遠かったため自立電源を設ける必要があり、当初は風力、太陽光、ディーゼルエンジンによる発電の研究を進めていました。ガス化発電の発想は、近所の若者が自動車の動力としてガス化を活用していたことからヒントを得たそうで、当初、ビジネス色はなく「遊び」からスタートしたとのことです。
- *1 ユハ・シピラ Juha Petri Sipilä 第65代フィンランド共和国首相(在任期間2015 - 2019)
フィンランドで再エネが広がる背景
実は、フィンランドにはFITはなく、売電単価は約5-6円/kWhと安価です。そのような状況の中でなぜ木質バイオマスが導入されるのか、少し疑問でした。その背景は、地域熱供給の広がりと、バイオマス燃料の仕入れの安さに起因します。
フィンランドの地域熱供給は、1970年頃に敷設が始まり、現状では総延長15,400kmまで広がりました。170の自治体で導入されており(うち121でバイオマスまたはカーボンニュートラル)、全体で19GWの熱源となっているとのこと。
地域熱供給事業は、地図を見るとわかりますが、かなり広い範囲に分布しています。熱の利用先はこの配管につなぎこめば良いのですから、安定した熱購入先がある状況で、事業を計画できるということになります。
バイオマス燃料の単価については、チップ絶乾トン*2120-150€/t(2019年12月11日現在の為替レートで約14.4-18.0円)で、これは日本のほぼ半分程度の価格です。フィンランドの地形は平地が多く、林業は非常にしやすいそうで、仕入れ値が安い要因は伐採コストの差もひとつの要因です。
- *2 絶乾トン=完全に乾燥させた状態に換算したときの重量
地域熱供給は豊かな暮らしとセット
とはいえ、単純に地域熱供給があればいいというわけではありません。今回、オウル市から車で2.5時間ほどにあるVolter社の現社長の別荘にも泊めていただきました。
その住宅で感じたことは、洗練されたインテリアデザインと、圧倒的な断熱気密性能と熱交換換気です。これによって、ある程度の温度を保った空気が循環していました。基本的な暖房は床暖房(地中熱ヒートポンプが非常に多いとのこと)による非常に柔らかい暖かさが足元にあって、全体としては「涼しい」と感じました。さらに多くの戸建て住宅にはサウナがあるそう。
こうした高性能住宅の中に豊かな暮らしがあって、そこに地域熱供給がセットになっていることに気づかされます。ひとつの例として、オウル市郊外の32世帯が1つの熱供給網となっている街区を訪れました。
中央にVolter社のガス化熱電併給装置(40kWe+100kWth)が導入され、電気は電力会社に販売し、熱は暖房と給湯へと供給しているとのこと。熱供給の需要を運転の基本とし、10tの蓄熱タンク温度が高ければ(=熱需要が低ければ)、運転を抑制するとのことで、視察時も抑制気味で40%程度の運転を行っていました。
日本では、FITによる売電単価が高いので、発電が運転の基本となりますから、ほぼ100%で運転するのですが、全く異なる状況に驚きました。
- * フィンランド中部に位置する北ポフヤンマー県の県庁所在地。都市圏人口は23万人。北欧のシリコンバレーとも呼ばれる。
日本への実装に向けて
実は、Volter社は日本と英国を大きな市場と見ています。日本にはFITがあり、さらに発生熱の100%を販売することができれば、非常に採算性は高く、導入インセンティブは高いと考えられるからです。すでに、日本にも拠点としてVolter Japan(リンク:http://www.volter.jp/)を設立しています。
しかし、日本への実装時には燃料と熱利用の課題があります。
燃料については、含分率、形状、質量をクリアする必要があります。含水率は15%以下が求められるため人工乾燥が必須ですが、日本ではほぼ人工乾燥の整備がありません。燃料の形状については、細かいチップが含まれているとガス化炉の空気穴を塞いでしまいコントロールを失う原因になるため、燃料搬送時にスクリーン(サイズの選別機)を設置して、細かいチップを取り除かなければなりません。
また、樹種についても違いが見られ、フィンランドではパイン(マツ)、トウヒ、シラカバのような比較的質量が高い樹種が用いられますが、日本ではスギやヒノキといった質量の低い樹種が中心となります。
質量が低い=軽いとメーカーの燃料想定と異なるため、ガス化炉の中で上手くコントロールできなくなり、低温になった部分等からタールが発生してしまいます。現状、日本では、こうした課題を個別に解決している段階です。
熱利用については、フィンランドはすでに地域熱供給を行政が敷設してそこにつなぎこむわけです。安定した熱販売先の確保、たとえばそれは地域熱供給などとのセット、ということも検討する必要がありますが、ひとつの可能性は見えてきたように思います。
次回はオーストリアのバイオマスエネルギー事業を紹介する予定です。