脱炭素時代のプラットフォーマー、エナーバンク。カギは「エネルギーコミュニケーション」 村中健一氏インタビュー(1) | EnergyShift

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脱炭素時代のプラットフォーマー、エナーバンク。カギは「エネルギーコミュニケーション」

脱炭素時代のプラットフォーマー、エナーバンク。カギは「エネルギーコミュニケーション」 村中健一氏インタビュー(1)

2021年01月19日

2019年6月に本誌インタビューに登場いただいたテックベンチャー・エナーバンクの村中 健一CEO。法人向け電力調達プラットフォーム「エネオク」を通して、全国の自治体との連携を次々に発表している。ベンチャーキャピタルからの資金調達にも成功し、今最も勢いのあるスタートアップだ。2021年の飛躍に向けた意気込みを伺った。(前編)

(後編はこちら)

脱炭素の流れが加速した2020年

― 2020年を振り返っていかがでしょうか?

村中健一氏:法人向け電力調達プラットフォーム「エネオク」のリリースから1年半で、約600施設を超えるご利用をいただくことができました。2020年7月には、巨大市場のDXを支援する株式会社ジェネシア・ベンチャーズから、約5,000万円の資金調達を実施しました。

6月には環境省の『公的機関のための再エネ調達実践ガイド』にエネオクを掲載いただき、大きな節目の年になりました。この掲載は大きなトリガーとなり、これまで電力コスト重視だった需要家や小売電気事業者の意識改革に貢献しているのではないかと思います。再エネ電力メニューへのシフトは、需要家も小売電気事業者も取り組まなければいけないとわかっています。しかし、まだマーケット感や価格設定などのつかみどころがない状態です。

そこでエネオクでは、再エネ比率を任意に指定したうえで、お客様の使用状況ごとに価格比較ができる機能を搭載しました。RE100やCO2フリーといった、お客様の多様なニーズに柔軟に応えることができます。まだ相場のはっきりしない再エネ電力の価格比較も簡単にでき、大きな反響をいただいています。エネオクというプラットフォームを通して、お客様の再エネニーズを実現できる点が評価いただいていると思っています。現在、多くのお問合せをいただき、約25社のお客様にご利用いただいています。

2020年10月の菅首相のカーボンニュートラル宣言のあたりから、多くの自治体からお問い合わせをいただいています。宣言によって加速する脱炭素化の流れが、さらにいろいろな活動につながっているとも感じます。

エネオクは、2020年10月にデマンドデータをもとに需要家をグルーピングすることで、電力小売事業の利益率を向上させる機能で特許を取得しました。これにより、A、B、C、Dという複数の需要家を、A・B・DやA・Dといったさまざまな組み合わせにグループ化することができるようになりました。こうしたオリジナルのオークションサービスにおけるマッチングを今後も展開していく考えです。

― 10月の菅首相のカーボンニュートラル宣言では、デジタルに関する言及もありました。

村中氏:やっとデジタルが活用される地位まで上がってきた印象です。電力調達に関していえば、これまではデジタルではなく、単純に相見積もりをとればよかったわけです。その選択肢にようやく広がりができてきました。プラットフォームの特性は公平性。色がないという点が重視されるマーケットに変化してきました。エネオクは、プラットフォームとしての中立性こそが強みです。菅首相の宣言でも「デジタル社会の実現」という発言があった通り、我々が考えるところに時代がやってきたと思っています。

エナーバンク 村中 健一CEO
エナーバンク 村中 健一CEO

エネルギーコミュニケーションがさらに重要になってくる

村中氏:これはエナーバンクの創業時に描いていたビジョンですが、B2Bの法人向けをターゲットとする考えは変わっていません。今後、エネルギーコミュニケーションはさらに重要性を増していきます。つまり、需要家が再エネ電力メニューを選択したり、太陽光の自家消費を始めたりする際のソリューション提案のニーズが高まるということです。

これに伴って、エネルギーに関するプロダクトを取り扱う事業者も増加します。そうすると、需要家のところには右からも左からも営業がきて、何が正しいかわからなくなる。そこでベストな選択肢を選び抜くサポートをするのがエネオクです。

エネオクは、需要家の実際の使用電力データをもとにシミュレーションするため、最適なソリューションがわかります。エネルギープロダクトのトレンドが刻々と変化していく中で、来年のベスト、10年後のベストを実現していくのが、エネオクが提供するエネルギーコミュニケーションです。

電力の調達プロセスにおいては、比較、交渉のノウハウが求められます。電力契約に特有の計算方法や専門用語に関する知識が必要で、煩雑さを伴います。エネオクでは、こうしたソリューションをワンストップでわかりやすく提供します。今回、お客様がエネオクに登録する際にRE100やCO2フリーなどの条件を設定できるような機能を実装しました。お客様のニーズの高まりに応じて、エネオクの機能も拡充し、常に時代を先取りした最適な提案ができるように進化させています。

先ほど言った通り、現在、エネオクのユーザーは600施設を超えました。このうち、特別高圧と高圧のお客様が7割、低圧が3割です。しかし、これから低圧を中心とした需要家が増えていくと考えています。再エネ電力調達となると、小規模な事業所においてもSDGsやRE100達成のニーズが高まっていきます。未知の再エネ電力に対し、スモールスタートを希望する需要家も多いでしょう。

大手事業者では提案が難しい小規模事業者でも、当社ではソリューションを提供できます。ミニマムスタートしながら再エネ調達を進めていくことは、非常に重要だと考えます。需要家にまずは一歩踏み出していただき、段階的なステップで最終的にRE100達成を実現するのがよいと思います。

エナーバンク 村中 健一CEO

再エネ電力はコストから価値観への過渡期

― 環境省の『公的機関のための再エネ調達実践ガイド』への掲載についてお伺いします。

村中氏 エネオクがサポートした、環境省の吉野管理官事務所と土佐清水自然保護官事務所の電力調達がこのガイドに掲載されました。2ヶ所とも、2019年では再エネ電力の調達比率はゼロだったのですが、2020年には100%となりました。

一方で、電力の調達コストの削減も同時に実現できました。これがエネオクのリバースオークションによって競争をかけた実績です。コストが上がるなら再エネへの切り替えは進みませんが、コストが下がるなら、もはややらない理由はありません。

実は、エネオクは電力の調達先である小売電気事業者にとってもメリットがあるシステムです。営業開拓の手間を減らすことができますし、見積作成にかかるオペレーションも低減が可能です。見積作成にあたってはエネオク側で、電力の使用実績の明細をCSVデータに落とし込みます。小売電気事業者は、そのCSVデータを貼り付けるだけで見積の作成が可能です。営業コストと見積作成のオペレーションの双方を軽減できるため、小売電気事業者にとってもエネオクに参加するメリットは大きいのです。

「勝手に電力2.0」のYoutube『【フカボリ対談】さいたま市×エネオク」でもお話ししましたが、環境省の伊勢志摩国立公園も2020年11月から再エネ100%を達成しました。公共施設の中でも、文化的な施設やランドマークとして人が集まる拠点を再エネ化することは、PRや啓蒙の観点でも大いに効果的です。現在では、地方の環境事務所などからもお問い合わせをいただいています。

― 小売電気事業者の再エネ電力メニューは今、どのような状況でしょうか?

村中氏:小売電気事業者は今、再エネ電力メニューの適正な価格設定に頭を悩ませています。これまでは電力の付加価値を上げるのがトレンドでした。しかし、これからはそうではなくなってきています。中には、これまで特別割引で値下げしていたところにREコストを当て込むという戦略をとる小売電気事業者も出てきています。一方、コストを抑えながら、再エネ100%や50%、30%といった電力メニューをラインナップする事業者もいます。

今はまさにコスト偏重の価値観からの過渡期であり、事業者はメニューのあり方を模索しているところです。実際に小売電気事業者から見積をとってみると、各社の戦略に応じて価格設定や構成が異なります。こうした再エネ調達の選択肢の多様化を導き出すのが我々の使命です。

(後編はこちら)

(Interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:関野竜吉)

村中健一
村中健一

株式会社エナーバンク 代表取締役社長。 慶應義塾大学理工学部及び大学院理工学研究科で最適化理論・機械学習を学ぶ。ソフトバンクで経済産業省HEMSプロジェクト主任。2016年電力自由化で電力事業の立ち上げ、電力見える化プロダクト開発のリーダを務める。IoT関連の新プロダクト企画・開発実績。2018年エナーバンクを創業。 https://www.enerbank.co.jp

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