イオン株式会社インタビュー(2)
日本全体の総電力消費量8,505億kWh/年のうち、約1%を消費しているイオン。2018年には、独自の「イオン 脱炭素ビジョン2050」を策定するとともに、RE100宣言も行った。再エネへの転換は、まずオンサイトからと、国内では珍しいPPAなど積極的な施策を打つ。だが、オンサイトには限界がある。同社のさらなる取り組み、そして将来ビジョンをイオン株式会社 環境・社会貢献部 部長 鈴木隆博氏に聞いた。
イオンが卒FIT買取プランを電力会社と進める理由
―オンサイトだけではやはり限界があると思われます。
鈴木隆博氏:先ほど(前編参照)も言った通り、優先順位としてはまずオンサイト。PPAモデルがその新しい形です。送電などを考えると当然オンサイトの方が有利だからです。もちろん、それだけでは全電力を賄えないので、店舗外のオフサイトからの電力供給も検討しています。地域店舗ごとに条件は違いますが、その地域内に大きな電源プロジェクトがあれば導入を検討してもいい。
コストをかければ非化石証書やプレミアムを払っての再エネ調達手段もありますが、イオン全体の電力使用量は大きく、持続できるのかという問題があります。現在推進しているPPAでは、今の電力単価とほぼ同等のレベルで再エネ調達を実現できるスキームで組み立てています。店側に負担にならないことが重要です。
私たちの見立てですと、おそらく将来的に電気料金は上がっていくのではないかと思っています。その状況で、安定的かつ低価格で再エネをどう調達するかが鍵です。
― 卒FIT買取も発表されました。
鈴木氏:色々考えているなかのひとつが卒FITの活用です。「卒FIT電源を一緒に調達しましょう」という取り組みを、各電力会社さんと一緒に始めています。まずは中部電力、中国電力との取り組みを発表しました。今後、全国規模で行えればと考えています。
再エネ電力の利用は、環境のためという側面だけでなく、イオンとお客様の関係にも関わることだと思っています。例えば、省エネは当然コスト削減につながり、再エネも今より安く調達できればコスト削減になる。イオンにとっての経済的なメリット、ビジネスの維持・継続のためという考えです。それと同時に、お客様にも経済的なメリットがあるとさらに良いと思うのです。
今までFITで売っていた余剰電力の売り先がないというお客様の電力をイオンが買う。その際に、電子マネーの「WAONポイント」を提供し、それで買い物をしてもらえるようにするといった仕組みです。今年発表した中国電力との取り組みでは、中国電力の買取価格7.15円/kWh(税別)に加え、1kWhあたり、1WAONポイントを付与します。ポイントをイオンのお店で使ってくださいね、ということです。これなら、お客様にとっても私たちにとってもよい関係を構築できると考えているのです。
また、全国の店舗にEV充電器を順次設置し、2019年2月末時点では1,972基となっています。2017年11月には、イオングループの大型のショッピングセンターを運営するイオンモール(株)が日本企業で初めてEV100に参加しています。
さらに、新たな施策としてEVの余剰電力をイオン店舗に供給してもらう仕組みを実証していきます。これも卒FITに近いですが、お客様が使わない電気を有効に活用できる手段の一つにもなるのではと思っています。
製造から小売の現場までを包括した取り組みとその難しさ
―どんどん周りを巻き込んだ取り組みへと発展していきますね。
鈴木氏:イオン一社でもかなりのCO2を排出していますが、例えばサプライチェーンで見ると、商品をつくる段階で出るCO2が含まれるので、さらに膨大な量になります。私たちが販売する時に出るCO2、さらにお客様が商品を使った時に出るCO2もあります。
今までの省エネ法で管理が義務付けられているScope1(直接排出・化石燃料・天然ガス等)、Scope2(間接排出・オフィスの電力など)に加え、Scope3(製造・運輸・廃棄)を考えないといけない。それぞれの段階でCO2排出削減のアプローチが必要です。
私たちイオンはこれらの間をつなぐ小売業なので、私たちが動けばサプライチェーンの上流と下流を上手く巻き込んだ取り組みを実現できるかもしれないのです。
実際には、日本の再エネ事情を汲みながら進めなくてはなりません。海外では再エネが通常の電力よりも安い場合もありますし、日本ではそもそも再エネを調達する手段が少ない。国内の制度設計も含め、再エネの調達や融通の仕組みが整うことが鍵を握っていると感じます。
一方、お客様にとっては、店舗が再エネを使っているかどうかはあまり関係のないことに感じられるかもしれませんが、お客様にも気候変動リスクの問題を知っていただき、一緒に解決に向けて取り組むことが大切だと思います。そのための情報提供や、私たちの取り組みをわかりやすく発信していくことも必要です。
ただ、その発信だけではなく、もっとカジュアルに対策ができないと広がりがないですね。環境意識に訴えるだけでは弱いとも感じています。
では何ができるのか。例えば、もっとお客様にCO2削減に資する商品を普通に選んでいただきたい。そのための様々な施策が必要ではないか。いくつかある商品のうちの一つだけがCO2ゼロだとしても、お客様はカジュアルに“選ぶ”ことができません。理想は、PB(プライベート・ブランド)もNB(ナショナル・ブランド)も含め、並んでいるすべての商品がCO2ゼロであるのが一番いい。特に意識しなくてもCO2ゼロ商品を選べるという状況です。
また、エネルギー起因のCO2だけでなく、使い方や生活の仕方などすべてが脱炭素に貢献できるものに変わっていくように、イオンの店舗やサービスが貢献できればと思っています。
―気候変動リスクの危機感は強いですね
鈴木氏:グループとして強い危機感を持っています。冒頭(前回)でお話しした通り、ハード面とソフト面のリスクがあります。気候変動の影響で企業が生き残れないのではないか、とすら考えています。それを各店舗、各従業員が理解して、お客様と共有することが重要だと思います。
2050年に確実に目標達成するためのマイルストーン
―2050年まで30年ありますが、この長い道のりをどう進んでいくのでしょうか?
鈴木氏:2018年に「脱炭素ビジョン2050」とRE100を宣言して、1年半ほど経過しました。必死にやってきましたが、公表できている再エネの数字がまだ数%にも達していないことに、現状のルールの中で進める難しさを痛感しています。この事実を行政に伝えていかなくてはなりません。
ただ、技術的にはもうできるんです。あとはもう、仕組みの中で実際にどう回すのかというフェーズにあると思います。我々ができることは率先してやっていきたい。
目標達成の2050年は30年も先ですから、今後もさまざまな分析や評価を続けながら、イオングループとしてできることを整理しつつ、マイルストーンを設定して着実に、持続的に進めていかなくてはなりません。30年の間には実行する人も変わっていきます。ですから脱炭素に向かっていく組織としての体質と体制を固めておく必要もあります。ぜひ私たちの取り組みを見守っていてください。