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急拡大する自動車の電動化に迫る落とし穴 世界で加速する資源問題とは シリーズ:資源問題の“今” 前編

2022年01月31日

LIBの生産量を左右するコバルト資源

BEV・PHVの増加にともなって、コバルトを使用する三元(ニッケル・コバルト・マンガン、NCM)系正極材やニッケル・コバルト・アルミニウム(NCA)系正極材のリチウムイオン電池(LIB)もかなりのペースで伸びている。三元系正極材のLIBの比率が最も低い中国でさえ、三元系車載LIBの2021年1〜11月生産量は82.4GWhで前年同期の2.1倍に達した(図3)。

図3:中国の車載用NCM系LIB生産量(GWh、中国汽車動力電池産業創新連盟)


出所:中国汽車動力電池産業創新連盟

こうした状況にあって、コバルトは供給余力に乏しく、2021年は世界需給のタイト感が一気に強まり、国際相場が大幅回復をみせてきた。コバルト地金の2021年の国際相場(ヨーロッパ)は15ドル/lb付近でスタートすると、年末には33ドル台半ばと年初の2.2倍に高騰し、2018年のピークに近づいている(図4)。

図4:コバルトの国際相場(ヨーロッパ、月平均・中値)


出所:著者取材による

コバルトの供給余力がないため、主要諸国の自動車会社がコバルト資源に依存した三元系などのリチウムイオン電池(LIB)を大量に用いて、BEVやPHVを大幅に増やすことはほぼ不可能だ。コバルトの長期調達を行った上で、コバルトの省資源や代替材料の活用などを徹底的に進め、コバルトに依存しない状況でない限り、BEVやPHVを大幅に増やすことはできない

コバルトの2020年の世界需要は、様々な調査会社・機関によると、13〜14万トン台との見方が多い(図5)。

図5:コバルトの⽤途別世界需要


出所:著者取材による

BEVやPHVなどが高成長したことで、LIBの用途は全体の5割強を占めるようになったとみられている。車載LIB向けコバルトは全体の3割となり、2割超の民生用途を超えた。

主要な生産者や商社が加盟するコバルト協会の報告書「コバルト市場の状況」(2021年5月、調査機関はイギリス・ロスキル)をみると、コバルトの2020年の世界需要が13.5万トンで前年比0.6%減とほぼ横ばい。このうちLIB用途が7.7万トンほどで同5%増え、需要全体に占めるシェアは57%に達し、2019年(54%)から3ポイント上昇した。

一方、LIB以外の用途は、航空エンジンに用いられるニッケル基のスーパーアロイや、超硬工具に用いられる超硬合金(炭化タングステンなど)のバインダー材などがそれぞれ12%減少したことから、5.8万トンで前年比7%減った。

地域別需要では、中国が4.4万トンで全体の32%を占めた。一方、日本や韓国といった中国以外のアジアは全体の17%前後を占め、アジア全体は5割ほどに達する。北アメリカとヨーロッパは合計で4割を占めている。

今後の世界需要も新エネルギー車と車載LIBが成長をけん引することが予測され、早ければ2025年に26〜28万トンと2020年比で倍増し、遅くても2030年には倍増するとの予測が多い。一方、LIB以外の用途が増えずに、増産分のすべてはLIB用途に用いるとすると、LIB用途の需要は21万トンほどと2020年の3倍近くに達し、需要全体に占めるシェアが8割近くを占める計算だ。車載以外の民生用途や定置用途が2割程度の伸びなら、車載用途は2020年の4倍近く伸び全体の6割超になる。

それでも、BEVやPHVなどの世界市場が2025年に2020年の3.8倍、2030年には2020年の7.5倍に増える間も、コバルトの供給は2020年代後半に倍増できれば良い方ということになる。

 

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吉竹豊
吉竹豊

有限会社アルム出版社代表取締役/「週刊レアメタルニュース」「年刊工業レアメタル」編集長。慶応義塾大学政治法学部中退。福岡県福津市出身。 レアメタルとは、自動車や航空機、産業機器、電子機器、家電製品などに微量に含まれ、現代社会に欠かせない元素の総称。1955年にレアメタルという言葉を日本に持ち込み、定着させた唯一の専門メディアのジャーナリストとして活躍中。 ホームページ https://www.raremetalnews.co.jp/ E-mail: info@raremetalnews.co.jp

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