近年、米国カリフォルニア州では深刻な山火事が発生している。その原因の1つは電力会社の送電線であるとされる一方、その送電線が山火事によって分断され、停電も発生している。山火事が起こりやすい背景には、気候変動問題がある。こうしたことにより、電力会社には、二重三重の意味で、気候変動対策が求められる。カリフォルニア州ではどのような対応がなされているのか、YSエネルギー・リサーチ代表である山藤泰氏が報告する。
地球温暖化による気候変動の影響により、世界各地で山火事が頻発していると言われている。
とりわけ米国のカリフォルニア州では夏の気温が異常に高くなり、その影響を受けて、州内各地で発生する山火事の件数が急増するようになっている。実際に森林地域にある多くの住宅が被害を受け、死傷者の数も増えている。
この気温の高温化に関わる災害について、最近カリフォルニア大学アーバイン校の環境関連学部が、2000年から2019年にかけての森林火災の発生データを集め、それを1920年から1999年のそれと比較した研究結果を報告している。
直近20年間とそれ以前の80年間との比較で分かったことは、直近の20年の間に、年間で見て山火事の起きるシーズンの期間が長くなり、気温がピークになるのが8月から7月にシフトしているということだ。
そして、この間に起きているのは、大気の湿度が下がったことによって、森林の水分が下がって干ばつ状態になり、自然発火するのに加え、森林を走る送電線が樹木と接触することによる発火から、火を消さずに捨てた煙草によるものに至るまで、様々な人為的な原因で着火しやすくなっているということだ。
さらには、この20年間に起きた6,336件の山火事の内、1,247件(約20%)が、森林喪失の原因の97%をしめていることもわかった。これまでほとんど山火事が起こっていなかったカリフォルニア州北部の森林にも被害が出るようになっている。これまでの山火事は、ほとんどが落雷によるものだったが、森林地域内に住宅地ができるようになり、ずさんな火の取扱で起こるものが急増していることが指摘される。
ロサンゼルスより見るサンガブリエル山脈の山火事 2020年
こうした中で注目されるのが、この調査で挙げられている原因の一つとされる送電線の接触による発火による被害が、カリフォルニア州の電力事業に大きな影響を及ぼしているということだ。
山火事によって送電線が切れたりして電気を送れなくなったために、その送電先の地域一帯が大停電となり、その修復に時間がかかるために停電の復旧が遅れ、何日も続く停電や輪番停電を止むなくされる状態となる。電力会社が自ら停電の原因をつくっているということになる。
そもそも、風で揺れた送電線が樹木に接触することで発火して山火事となった場合、送電線管理者は樹木の伐採などの防止策を怠ったとして、訴訟の対象となる。
サンフランシスコに拠点を置く大手民営電力事業PG&E(Pacific Gas & Electric)社は、山火事を起こす原因を放置したとして被害を受けた地域住民から多くの訴訟を起こされ、その賠償規模の大きさから破産宣告を受けたが、電力事業を止めるわけには行かないために、州当局の支援を受けた上で経営陣が総入れ替えになっている。
PG&Eの送電線に起因した山火事は、6年間で1,500件に上ると言われており、住宅地域への延焼で多数の死者も出しているために、今後も訴訟が続くことになるだろう。
2020年の夏、州の規制当局は、カリフォルニア州内の民営電力事業者に対して、山火事によって電力供給が止まるブラックアウトの可能性を引き下げるために、マイクログリッドの導入を急ぐように指示し、広域停電が起きるのを防止する目的でコミュニティー・マイクログリッドの導入に2億ドルを充てることを承認するに至った。
これは、連邦政府が、マイクログリッドを一つの電源と見做し、電力卸市場で他の大型電源と対等に扱われるようにするために昨年の9月に出したOrder2222と、それをこの3月18日に改訂したOrder2222-Aに準拠したものだ。
太陽光発電や蓄電池、DR(デマンドレスポンス)など分散型エネルギー資源の集合体を配電システムなどを通じて一体化させて制御することで、ある程度まとまった規模の発電設備として運用することを認めたものだ。
とはいえ、山火事による停電が今後も増える可能性が高い中、この導入プロジェクトは、計画から実施まで数年はかかると想定されている。
マイクログリッドに関係する事業者は、この事業に収益機会を認めた民間資金が投入される状況になったとしても、今年の山火事シーズンに間に合うとは思えないという。それでも、PG&Eはこの4月、コミュニティー・マイクログリッド・プログラムに着手した。
PG&Eが最初に導入しようと計画しているのは、Redwood Coast Airport Renewable Energy Microgrid(レッドウッド沿岸空港再エネマイクログリッド)で、2021年11月までには稼働を始める計画になっている。大規模な太陽光発電と蓄電池を組み合わせて電源とするこの空港から電力を供給するのは18の事業所や建物だが、PG&Eからの電力供給が止まれば、その送電系統から切り離されて独立系統として運用することができる。
Redwood Coast Airport Photo by Schatz Energy Research Center
PG&Eの送電線などに起因した山火事は、6年間で1,500件に上り、住宅地域への延焼で多数の死者も出している。したがって、森林地帯周辺にコミュニティー・マイクログリッドが増えることは、同社にとっても大きなメリットがある。
森林地帯に長大な送電線を敷設する必要度が下がると同時に、山火事を防止するための樹木刈り取りなどのメンテ作業を減らすことができる。また、電力供給先の地域の広域停電を心配せずに送電線による電力供給を止めることも可能になる。
ある地域ではPG&Eの送電線の接続自体を拒否した事例もあるようで、マイクログリッドが社会に広く受け入れられつつあると言えるだろう。
問題は、PG&Eがコミュニティー・マイクログリッドの設置・運用に今後どれだけ関与できるかだ。他のマイクログリッドの運用事業者が系統運用を行って、PG&Eよりも低廉な電力を個々の需要家に供給する可能性もあるからだ。
大規模発電所から大規模送電系統で電力を供給してきた電力会社の伝統的な方式が、気候変動問題によって大きく変わるかもしれない。
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