4月2日、バイデン大統領はホワイトハウスにおいて、「チップサミット」を一部バーチャルで行った。ここで言う「チップ」とは、供給不足が問題となっている半導体チップのことだ。
この半導体の供給不足解消のための討議には、インテル、Google、Dell、台湾TSMC、韓国サムスンなどの半導体企業、IT企業はもちろん、ゼネラルモーターズ、フォードなど、自動車メーカーも加わっておこなわれた(テスラは招かれなかったようだ)。
ホワイトハウス側はサリバン国家安全保障問題担当顧問、ライモンド商務長官が参加し、ディーズ経済会議委員長が議長を務め、短時間ではあるがバイデン大統領も参加した。
主な議題は前述の通り半導体チップの不足解消と、半導体供給網の再構築だ。
今年2月、就任したばかりのバイデン大統領は半導体の供給網強化の大統領令に署名している。この大統領令の中では半導体はもちろん、レアメタルなどの供給網について100日間でレビューを行うとしている。今回の「チップサミット」がそのレビューの一環だ。
バイデン大統領は会議で「半導体不足により、自動車の生産に遅れが出ており、アメリカの労働者にも影響が出ている」と指摘。これは、短期的にはEV/自動車業界のことを指している。実際に、GMは4月8日から8つの組立工場が一時的に閉鎖していることが新たにわかっている(一部では再開の予定)。フォードも一部工場を休止している。
自動車メーカー各社は、この半導体の供給不足が2021年の業績にどのように影響するかを発表している。仮に2021年上半期まで供給が不足した場合、下半期の生産補填を考慮しても10億ドル(約1,100億円)から25億ドル(約2,730億円)の減収になり、今年の生産台数が130万台不足する可能性があるという。
自動車に使われる半導体はいわゆるインフォテイメント(たとえばモバイル機器とつながる機能など)だけではなく、パワーステアリング、ブレーキシステムなど100を超えて使われている。EVとなると電力管理システムはもちろん、自動運転など、この数はさらに増える。
GMは3月、一部のピックアップトラックに燃費向上のための半導体モジュールを使用せずに生産すると発表した。それほどに半導体不足は自動車メーカーに打撃を与えている。
バイデン政権はこうした半導体の供給不足の影響について直接産業界のリーダーから話を聞き、短期・中期的にどのように対処したらよいかを議論したが、ホワイトハウス側の参加者にサリバン国家安全保障問題担当顧問がいることからもわかるように、多分に国家安全保障と中国の影響力についても考慮しているようだ。
大統領令には「我々の価値観を共有する同盟国やパートナーとレジリエントな(弾力性のある)サプライチェーンについて緊密に協力することで、経済を国家の安全保障と共同で育み、国際的な災害や緊急事態に対応する能力を強化することができる」とある。
半導体の供給網を大々的に見直すことは、自国の雇用の建て直し、国家安全保障、そして、脱炭素対応(EV/電化)を進めるために一挙両得だ。
だからこそ、今回のチップサミットで公表されたように、半導体の製造と研究に500億ドルを拠出する提案には超党派で支持が集まっているのだ。「我々の提案を両院ともつよく支持してくれている。中国は半導体の供給網を再構築し、支配する計画を積極的に進めている」とバイデン大統領はサミットで述べた。
インテルのパット・ゲルシンガーCEOは会議後のインタビューで「ホワイトハウスと議会は半導体産業支援のためにより多くの国内製造、研究開発、雇用の取り組みを積極的におこなっている」と評価した。
台湾のTSMC(世界最大の受託チップメーカー)が招かれているのは今年中にアリゾナ州に120億ドル規模の工場建設予定があるからだ。ここでは5nmプロセスチップが製造される予定で、TSMCも会議後に「アリゾナの工場が米国政府とのパートナーシップの元で成功すると確信している」と声明を出した。
米国の半導体供給網の再構築は一気に進むとみられる。
(Text:小森岳史)
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