エナシフTVの人気コンテンツとなっている、もとさん、やこによる「脱炭素企業分析」シリーズ、特に好評だった企業事例を中心にEnergyShiftではテキストでお届する。第5回は日本を代表する重電メーカーの三菱重工業である。
最初に株価だが、2020年11月に大幅に急上昇したあと、高値をキープしている状態にある。とはいえ、長期的に見ると2015年をピークに大幅下落したあとの高値であり、2021年8月13日時点の株価はピーク時の半額以下。
直近の株価上昇は国産ジェットの開発断念(2020年10月)を市場が好印象と捉えたとみられる。
脱炭素の銘柄としてみた場合には水素タービン、合弁会社である三菱ベスタスの風力、三菱重工業の脱炭素はどこに向かうのかに注目したい。
一方、業績だが、2020年度(2021年3月期)決算では受注高、売上収益ともに減少し、売上高は3兆3,363億円、事業利益は540億円。
2021年度(2022年3月期決算)予測では売上高3兆6,000億円、事業利益は大幅に増える1,500億円を見積もっている。
会社としては2023年度に売上高4兆円が目標、それでようやく売上高が回復することになる。
セグメント別に見ていくと、2020年度は原子力・防衛・宇宙は堅調に推移しているが、エナジーやプラント、インフラはコロナの影響で一部の受注が後ろ倒しになり受注残高が低下したと考えられる。
セグメント別 受注⾼・受注残⾼
三菱重工業の歴史は、1884年、国のものであった長崎造船所を岩崎弥太郎が本格的に開始したことから始まる。
1934年、社名を三菱重工業に変更。最初は造船から始まったが船舶以外にも重機、鉄道、航空機なども製造。戦前によく知られたゼロ戦の開発も三菱重工業だ。
1950年、終戦後の財閥解体で三社に分裂したが、1964年に再度合併、新生三菱重工業が誕生、法人的にはこの年がスタートとなる。1970年には三菱自動車工業が分離したが、同社は現在、日産自動車の傘下にある。
三菱重工業のエネルギー・インフラ事業の中心は、発電プラントだ。高効率石炭火力発電技術のIGCC(石炭ガス化複合発電)も、三菱重工業が社運をかけて開発してきたものだ。残念ながら、石炭の時代ではなくなってしまったが、それでも2050年に向けてカーボンニュートラルな火力発電の実現を目指している。
その1つが、三菱パワーという子会社の存在だ。2014年には、三菱重工業と日立製作所の火力発電部門をそれぞれ統合した三菱日立パワーシステムズを設立した。お互いの火力発電事業の効率化を図ることが目的だ。しかし、2020年に日立製作所が脱退し、2020年には社名を三菱パワーとする。日立製作所が火力発電から距離を置いたことに対し、三菱重工業は火力の脱炭素を背負っていく判断をした。そして2021年10月には、三菱パワーは三菱重工業に統合される。
こうしたことから、三菱重工業の脱炭素の一丁目一番地は火力発電のカーボンゼロということになる。その中でも、水素タービン発電は、最重要な技術といえるだろう。
水素タービンについては後述するが、この他にも脱炭素技術としては、燃料電池などがある。また、火力発電の技術は地熱発電にも応用できる。さらにESS=蓄電池や燃料電池の技術もあるので、脱炭素のポテンシャルは小さくない。
この他、発電以外ではバイオマスによるジェット燃料の開発、さらにエネルギー以外では水素還元製鉄の技術開発にも取り組んでいる。
火力発電所で発電機をまわすタービンには、燃料を直接燃やしてまわす、ジェットエンジンと同じしくみのガスタービンと、ボイラでお湯を沸かして水蒸気で回転させる蒸気タービンがある。そして高効率火力発電所はガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた複合発電(コンバインドサイクル発電)というしくみになっている。
このうち、ガスタービンの脱炭素化を行なうために、燃料を天然ガスから水素に切り替えたものが、水素タービンだ。開発はかなり進んでおり、米国、ユタ州で行う実証試験では、840MW(84万kW)を水素だけで発電する。
水素の課題としては、天然ガスよりも水素の方が体積あたりの熱量の少なさがあり、同じ体積であれば天然ガスの方が2倍の熱量を有する。この水素を燃料としていかに安定して発電していくかが、実証の課題となってくる。
欧米では水素がカーボンオフセットの燃料としては主流になっており、再エネが豊富なのでグリーン水素を非常に作りやすい立地になっている。他にもガス田で水素を作り、余ったCO2は地下に埋め戻す(CCS)などでブルー水素を製造することもできる。こうしたことから、水素を使った発電は欧米で非常に期待されている。
グリーン水素は燃料価格が高いことから、風力や太陽光など変動する電力の調整力電源として期待されている。
一方、日本では沸点が低く輸送コストがかかる水素ではなく、液化しやすく輸送しやすいアンモニアが火力発電の燃料として主流になるとみられる。そのため、三菱重工業はアンモニアガスタービンも開発中。
三菱重工業は、「カーボンニュートラル社会のエコシステム」を掲げている。
そうした中、気になるのが原子力発電だが、正直なところ、原子力がお荷物にならないかどうかが懸念される。過去30年で、実際に建設したプラントは北海道の泊発電所1基のみ。海外では、政府とともにトルコで製造する計画があったが撤退している。三菱重工業と協力関係にあるアレバも低調で、イギリスで原子力発電所の計画を持っていたが撤退している。
新しい原子炉として高温ガス炉やSMRがあるが、未知数のところが多い。SMRは万が一の原発事故への対応もよくできているし、発電所としての使用が終わればそのまま発電所ごと取り替えてしまうことができるもの。ただ、コストが見合うかどうか。結論として三菱重工業の原子力部門に関してはクエスチョンマークといったところ。
カーボンニュートラル社会のエコシステム
三菱重工業は三菱パワーを吸収することで、火力発電関連事業を強化し、火力発電関連事業を背負っていくという決意なのだろう。脱炭素していく火力発電を目指すなかで、水素タービンへの期待が大きいし、世界的に見ても一番期待されるところではないだろうか。ただし、グリーン水素、ブルー水素の生産が活発化するにはまだ時間がかかるし、したがって水素タービン市場が拡大するのもまだ先だろう。
一方、再エネでは地熱、洋上風力、燃料電池、蓄電池、CO2回収など他の脱炭素事業にも目配りしているので、脱炭素への方法は多く持っている会社。
ただし、今のところ2050年、カーボンニュートラルの時代に三菱重工業はどういう会社になっているか? というところは未だに描けていないのではないか、というところが懸念される。
火力発電という従来型の技術にこだわるのは、マイナスともとらえられかねない、そういった状況にある三菱重工業だが、日本を代表する企業だけに、カーボンニュートラルをどんどん引っ張っていってもらいたいところだ。
(Text:MASA)
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