電力小売り全面自由化とFITによって追い風を受けることで注目されてきた「地域新電力」だが、厳しい現実に直面することも多い。そうした中にあって、本来の目的である、地域活性化に向けては、エネルギーを超えた、もう少し広い視野が必要なのかもしれない。地域創生とエネルギーの関係をめぐって、日本再生可能エネルギー総合研究所の北村和也氏が解説する。
地方創生EXPOで見たもの
2020年2月の初旬の先日、久しぶりに東京・幕張メッセに出向いた。目的は『地方創生EXPO』だった。暖冬でも寒さが戻りつつあり、メッセ会場までの道はぱらぱら程度の人であった。ところが会場に入ると一転、熱気が広がっていた。
この1・2年、再生エネなどエネルギーをテーマとする展示会は全体的に縮小の方向で、入場者数も以前に比べかなり減っていると感じていた。ところが、地方をテーマにする展示会は逆に隆盛だと聞く。確かに『地方創生EXPO』の会場は人・人・人でごった返し、盛り上がりは本物であった。
今回は、地方創生をキーワードにして、エネルギー、新電力などとの関係を整理する。
広い幕張メッセの中で、このEXPOのスペースはそれほど大きいものではなかった。しかし、主催者によれば「日本最大!560社が出展」とある。中身には、地域PR、観光・インバウンド支援、産業支援、IT、スマートシティ推進などが並んでいた。
筆者の仕事のベースは、再生エネや地域、自治体新電力である。しかし、この展示会に対して、エネルギーに関するテーマのソリューション、例えば発電技術や新電力の支援ビジネスなどをはなから期待するつもりはなかった。再生エネや新電力は『地域を元気にするためのツール』というのが、最近、私の腑に落ちてきた考え方である。幕張は本当に遠かったが、結果としてこのEXPOは行ってよかったと間違いなく思えた。
筆者が持ち帰った出展者のパンフレットを並べてみよう。
一般社団法人地域活性化センター「地方創生セミナー」、一般社団法人移住・交流推進機構「賑わいサミット&視察ツアー」、AI人材の育成、阪急交通社「旅行を通じた連携で地域活性」、地域観光総合研究所「ワクワクする地域の未来づくり」、ピーチ「ますます広がる就航地」、NTT東日本「車中泊をトリガーとした地域観光活性化」「シェアリングエコノミーの推進による地域社会課題の解決」、NTTe-Sports、パワーシェアリング「全国の自治体に広がっている地域による地域のための新電力」、JR東日本「モビリティ変革コンソーシアム」、めがねのまちさばえ、マンガを活用した様々なコンテンツ(ゆるキャラのアニメ化)、地方自治体のデータ活用、大切な人をスマホで見守る・・・などなど。
パンフレットの内容は、一見ばらばらのようだが、これらは全て地域活性化=地域を元気にするための具体的な方法である、と考えると共通点がはっきりする。
底に流れる地域活性化への熱望とビジネス化
『新電力』、『シェアリングエコノミー』などのテーマは再生エネやエネルギーに直結するものであり、私も普段から興味がある。では、それ以外のテーマは私が関わる地域、自治体新電力と関係ないかというとまったく逆である。
地元に入って話を聞くと、新電力立ち上げの目的として、必ず地域活性化や地域内の連携強化などがあがる。単なるお題目ではなく、自動運転などの『モビリティ』や『見守りサービス』の実現方法など具体的な相談内容にまで至ることが多い。つい先日伺ったある地域新電力では、今後必ず地域で必要となるAI人材の獲得方法として、e-Sportsの導入を考えていると言われて私の方が驚いた。
展示会場にブースを構える企業サイドから具体的に見てみよう。地域活性化の定番である観光では複数の大手の旅行会社が競う。モビリティなど交通も大きなテーマで、航空会社やJR東日本が掲げている。また、ゆるキャラをアニメ化するアイディアはYouTube、SNS時代に地域発信の有効な手段の一つになる。
圧倒的な存在感を示していたのは、前述のAIを含むITの活用である。観光、モビリティ、シェアリング、もちろんe-Sportなど、すべてをつなぐ必須のベースがITであろう。地域の活性化に直結する観光、交通など旧来からのアイテムについてさえ、新しい技術を駆使し重層化したアイディアで、企業が新しい提案を進めている。
地域活性化=地域の価値向上を、再生エネが実現する
展示会名の『地方創生』や『地域活性化』は、どこでも繰り返し使われるが、その完成形や、そこに至るまでの具体策はなかなか見えてこない。
筆者は最近になって、それらを「地域の価値を上げること」と読み替えて、セミナーなどでお話ししたり記事につづったりしている。そして、実例としてエネルギーを挙げることが多い。再生エネの重要な性質の一つ、地域分散型を思い浮かべればよい。地域抜きには再生エネは語れないからである。
地球温暖化による気候危機によって、CO2削減は待ったなし、喫緊のテーマとなった。解決策の筆頭に並ぶのが再生エネの利活用の拡大で、もはやこれに反対する人はいないであろう。
これまでは、再生エネといっても、環境にやさしいなど、ほわっとした、感覚的な良さで言及されてもいたが、今や地球の危機を救う救世主として確固たる地位を得ている。民間企業にとっては、再生エネ利用を進めるか後ろ向きかが、融資を受けられるか受けられないかの死活を決める線引きになりかねない。
また、政府の主要な再生エネ拡大策だったFIT制度が新しい制度に移ろうとしている。いわゆるアフターFITである。地域での自家消費やBCPにつながる「地域活用電源」だけに優遇措置を残すことが決まったのは、地域と再生エネの強固なつながりの証拠である。
RE100、RE Action、そしてSDGsと地方自治体
再生エネの利活用と地域活性化は、より良き未来に向かう一本の線上に並んでいる。地域の目標が「地域活性化=地域の価値増大」であるとすれば、再生エネ利用はその最も有効な手段のひとつとなる。
企業活動の100%再生エネ電源化を目指す「RE100」やその自治体や中小企業版である「RE Action」への参加を増やしているのは、CO2削減につながる再生エネの価値の高まりでもある。
地域での再生エネ利用の拡大は、直接、間接に自治体や地域民間企業にチャンスを与えてくれる。例えば、自ら再生エネを使うことが、RE100に参加する全国、世界規模の企業のサプライチェーンへ入り込む条件になる。一方、似通った論理で自治体は企業誘致のツールとして再生エネを使いはじめている。
最近流行のSDGsでも同じような仕組みがある。前述のパンフレットで、「めがねのまちさばえ」に気づかれただろうか。福井県の鯖江市は人口7万人弱の地方都市で、日本のめがねのフレーム生産シェアが100%近いことで知られる。その鯖江市が昨年、SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業に選ばれた。SDGs推進の主要テーマにジェンダーを掲げるところがユニークだが、実は女性の就業率が日本一だという。SDGsは地域を売り出す重要なPRにもなる。
ある地域でSDGsの17のゴールがすべて実現したとしよう。それは、その地域が誰もが住みたいと思う理想の地域になることでもある。ここに地域でSDGsに取り組む肝がある。一方で、SDGsに熱心でない企業は融資を受けにくくなるという時代はすぐ目の前である。
地域活性化を担うステークホルダーとしての地域・自治体新電力
地域を元気にするためには、自治体や商工会議所など地元の各種団体、民間企業、住民などすべてが参加することが必要である。ちょうど、SDGsの5つの特徴の一つとして掲げられている「全てのステークホルダーが役割を」と同じことになる。
その中で重要な役割を果たすことができるステークホルダーのひとつが、地域、自治体新電力であるというのが筆者の持論である。
今後、分散型エネルギーは地域で大きなプレゼンスを持つことになる。その重要な再生エネを地元でコントロールしたり、地域が参加して増やし地域に利益を落としていったりするためには地域に核となる存在が必要である。そこに地域、自治体新電力の存在意義がある。
電気代を安くするためだけに地域の新電力は存在するのではない。地域活性化、地域の価値を高めるための有効な手段としても存在することをぜひ確認してもらいたい。