現在販売されている太陽光発電事業用の太陽電池モジュールには、一般的に20年以上のメーカー出力保証が付与されている。しかしながら、実際に過去に設置された製品で20年以上安定して発電している例もある一方で、その信頼性に疑問を感じる例も少なくはない。長期間安定した発電が求められる太陽電池モジュールに、どのような死角が潜んでいるのだろうか。世界有数の化学メーカーであるデュポンの日本法人(デュポン・スペシャルティ・プロダクツ株式会社)の柴田道男氏が解説する。
太陽電池モジュールの長期信頼性リスク
永年にわたって航空機のエンジン部品や自動車の駆動系・制御系システム、半導体製造装置用部品など、多岐にわたる高機能樹脂材料の用途開発に従事してきた筆者は、約10年前から太陽電池事業に携わるようになったが、それまでの経験と比べると使用部材の物性変化や劣化がもたらす影響を適正に評価している太陽電池モジュールメーカーが多くないことにカルチャーショックを受けた。
太陽電池モジュールには国際規格のIECや日本工業規格のJISで製品仕様や安全性に関する基準が定められており、各メーカーはこの規格に準拠した認証を取得した製品を販売している。
そもそもこれらの規格は工業製品としての一定の品質基準を評価するものであって、20年以上の期間、不具合なく安全に運用できる信頼性を担保するものではない。また、IEC規格は2016年、JIS規格は2020年2月に性能および安全性の検証を強化する改訂が行われたが、現時点では旧版の認証で販売されている製品も数多く存在する。
ライバルメーカーとの熾烈な価格競争に晒された結果、長期の信頼性が十分に評価されていない安価な部材や設計を採用しているモジュールメーカーは少なくないと考える。
ものづくりに於ける適切な材料選定の重要性
ものづくりとは、①適切な材料選定、②適切な設計、③適切な製造プロセスの3要素の組み合わせである。20年、30年の耐久性が確認された材料を選択し、設置環境に適応した製品設計を行うべきである。
その中でも特に適切な材料選択は、設計マージンを増やし、製造プロセスのばらつきによるリスクを低減させられるため、他の2要素への波及もふくめて重要と言える。
デュポンは定期的にモジュールの不具合調査を行っているが、2019年の調査では発電所全体の1/3で何らかの不具合が見つかり、更にそのうちの半数近くが主に部材選定の問題だと疑われるバックシートでの不具合であった。
太陽電池モジュールの製品寿命
太陽光発電事業者は、モジュールの製品寿命が全量FIT(固定価格買取制度)の20年以上であると想定して事業計画を立てているのが一般的だと思われる。あるいはポストFITの需給一体モデルを想定している事業者は、それ以上の長期安定運用を想定されているかもしれない。
それに対して、太陽電池モジュールメーカーの考えはどうであろうか?
メーカーは、一般的に10年~15年間の「製品保証」と、25年~30年の「出力保証」を付与しており、多くの事業者は上記のような不具合が発生し、正常に発電できなくなったらメーカー保証で対応すれば良いと考えているかもしれない。
「製品保証」期間内であれば、それなりに不具合の保証が期待できるが、保証期間は20年に満たない。
一方、「製品保証」が切れた後に移行する「出力保証」では「正常な発電が行えない状態であったり安全性のリスクがあったりしたとしても、所定の標準試験条件での発電出力が保証値を下回っていなければ保証の対象とはならない」とされる可能性が高い。
加えて、保証の求償には「メーカーの瑕疵や欠陥をユーザーが立証すること」が条件になっているものが多く、中には「そもそも瑕疵や欠陥の立証なんて簡単ではないので求償されるケースは少ない」と考えていると疑われるメーカーも見受けられる。
そもそも製品の耐用年数は、要求される性能が「安全に」発揮される期間であり、安全性のリスクがあるような不具合が発生したら、例え所定の出力性能を有していたとしてもそれは寿命と考えるべきではなかろうか? その意味で、モジュールメーカーの保証では、20年間の製品寿命はカバーしきれていないと考えるべきである。
これから太陽光発電を行おうとする事業者は、太陽電池モジュールを購入する際に、その価格だけではなく使用部材を含めた製品の信頼性に配慮すべきであるし、すでに稼働している太陽光発電所においては、日頃の設備の保守・点検を行うことはもちろんのこと「製品保証」が切れる前に大がかりな点検を行うことが大切である。