第6次エネルギー基本計画の見直しに向けて、日本がとるべきエネルギー・気候変動政策とは何か? 短期集中連載の第2回は、新技術とエネルギーミックスをどのように考えるかについて、経済産業省の総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会の委員である、公益財団法人 地球環境産業技術研究機構システム研究グループ(RITE)主席研究員の秋元圭吾氏にお話を伺った。
短期集中連載:秋元圭吾氏に聞く脱炭素への道
(全5回 毎日更新)
第1回 カーボンニュートラルは、なぜ困難な挑戦なのか (3月15日公開)
第2回 エネルギーミックスの目標と技術の進展をどう考える (本稿)
第3回 原子力発電をエネルギーミックスにどう位置づけるのか (3月17日公開)
第4回 エネルギーインフラへの新規投資に必要なものとは? (3月18日公開)
第5回 DXとEV、ユーザーに立ち返ったサービスでCO2削減を (3月19日公開)
―エネルギー基本計画で示されるべき、2050年のエネルギーミックスについてはどのようにお考えですか?
秋元氏:2050年の電源構成の姿は、一義的には決まらないと思います。どのような技術がどれくらい進展するかによって変わってくるでしょう。
数年後などの近い将来なら、足元から考えることはできます。しかし、30年後のデザインとなれば、複数のあるべき姿を技術の開発動向や社会の変化を見極めながら目指していくことが必要です。
原則としては、原子力発電は排除すべきではないでしょう。CCS(炭素貯留・回収)も同様です。ただし、原子力やCCSはさまざまな動向に左右される不確実なものです。その点、再エネを伸ばすとともに電化率を高めていく方向性は確実なものです。
こうした前提に立つと、電源構成は再エネを50%から70%の範囲で考えることになるのではないでしょうか。
また、10%くらいは海外からの水素でまかなうことになるかもしれません。私は原子力の比率を高めることが経済合理的だと思いますが、現実的には不可能で10%から20%の間が妥当な範囲です。
同じく、CCSも国内で実施可能な場所がそう多くあるとは考えにくい状況ですから、10%いけば十分でしょう。
北海道・苫小牧市のCCS実証試験 資源エネルギー庁ウェブサイトより
秋元氏:発電サイドではこのように考えますが、他方で、需要サイドの非電力部門をどうするのかという難しい問題が残ります。CO2回収貯留バイオマス発電(BECCS)や大気中のCO2直接回収貯留(DACCS・貯留がない場合はDAC)といったカーボンマイナスのための技術と組み合わせながら、非電力部門の排出量を相殺する必要があります。
ただ、こうした新技術を活用するには、CO2の貯留ポテンシャルを十分に確保しなければなりません。発電部門や産業部門のCCSやBECCS、そしてDACCSでどれくらいの貯留ポテンシャルを配分するのかについては、合理性を検証する必要もあるでしょう。
これらの新技術の将来予測も難しいですが、原子力についての社会的制約もまた非常に厳しいものです。2050年の電源構成は、こうした不確実性を前提に考えていかなければならないと思います。
地球環境産業技術研究機構システム研究グループ(RITE) 秋元圭吾 主席研究員
―CO2を大気中から直接回収するDACは、テスラ創業者のイーロン・マスクが賞金を投じて開発を促すなどで、注目されています。
秋元氏:DACは、欧米ではベンチャー企業の参入も増え、熱心に取り組んでいるところです。限界費用の上限を切れる可能性も見えてきています。
もしCO21トンあたり150ドルくらいでDACが実現できれば、それよりコストの高い対策を実施する必要がなくなります。いわゆるバックストップ・テクノロジーと呼ばれるものです。しかし、現時点でのコストは1トンあたり500ドルから700ドル程度とも見られるため、簡単な道のりではないでしょう。
スイス・チューリッヒの「Climateworks」社のCO2直接回収システムこうしたDACなどに使われるエネルギーは、太陽光や風力といった変動する再エネ(VRE)の余剰電力の利用が主流になるでしょう。CO2の貯留がしやすい場所に再エネ発電所を設置することができるので、中東地域やオーストラリアなど、再エネの建設コストが安く、かつ貯留ポテンシャルの高い地域でのモデル構築が可能だと考えます。
(第1回 「カーボンニュートラルはなぜ困難な挑戦なのか」はこちら)
(第3回 「原子力発電をエネルギーミックスにどう位置づけるのか」はこちら)
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