気候変動には、臨界点があるという。平均気温の上昇がある温度を超えると、気温上昇が止まらないということだ。さらに海面上昇も大規模なものとなってくる。1.5℃未満に抑制することと2℃を超えることには大きな違いがあり、最悪の事態にもつながりかねないという。では、私たちはどうすればいいのか。350org japanの荒尾日南子氏が積極的なアクションをよびかける。
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グレタ・トゥーンベリさんの、「私たちの家が燃えている!」というのは気候危機の私たち一人一人の命への危険性、緊急性、実際に熱くなっていく肌感覚など色々な側面を的確に捉えている比喩です。
日本でも、この危機感を感じている人は、どんどん増えてはきていますが、それでもまだ、大多数の人は、数ある社会問題の中の一つ、と捉え、自分の人生との接点を感じていないのではないでしょうか。
あと数年のうちに、より実感できる大きな気候の変化や、気候災害の増加、そしてそれによる多方面での社会の大きな動きによって人々のこの問題への認識は、劇的に変わる可能性があります。
しかし、このあと数年で、より多くの人が気づくのをのんびり待っていられないほど、緊急な対策が必要とされているのが気候危機です。ここから一年一年何を達成できるかが、非常に重要だと言われています(あと4年未来を守れるのは今 キャンペーンページ のWHYをご参照ください)。つまり、みんなが肌感覚で、「やばい!」と感じられるようになってから、急いで十分な対策をしようとしても、最悪の事態を免れるのに、間に合わない可能性が高いのです。
では、この最悪の事態とは、どんな事態でしょう?
私は普段、350Japanのオーガナイザーとして、気候危機を止めるための市民運動の構築やサポートをしていますが、今、自分の生活の中でできることをしようと活動に入ってきてくれる多くの市民がいます。そして市民にとっての、「最悪の事態」というのは、環境学者のヨハン・ロックストロームさんなどが発表した「ホットハウス・アース・シナリオ」が指し示すものです。
ホットハウス・アース・シナリオが示しているのは、一言でいうと、ある地点(地球全体でのティッピングポイント・臨界点)を超えると、地球の気候システムが大崩壊を始め、地球が暴走し始めてしまうような状態になるというものです。
一度、臨界点を超えるスイッチが入ると、気温の上昇は人間がどんな努力をしても止められなくなり、最終的に数世紀かけて平均気温上昇は4℃から5℃まで進んでしまいます。その結果、グリーンランドの氷床や氷河の融解によって、海面はなんと10mから60mも上昇してしまう、灼熱地球(ホットハウス・アース)になってしまう、というものです。海面上昇が10mと聞いても、日常からかけ離れていて、なかなかピンと来ませんが、1mの海面上昇は、日本の砂浜が9割なくなるほどのインパクトだそうです。それから考えると、10mから60mのインパクトの大きさが想像できると思います。そして、今このスイッチが入りそうになってしまっているのです。スイッチが入ったからといって、すぐに海面がこれだけ上昇するわけでなく、変化は数世紀にかけて起こります。ですが、その変化の道のりは、今地球で起こっている異常気象とは比べものにならないものだと予想されます(このような将来の影響については、NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦の動画や、NETFLIX 地球の限界: "私たちの地球"の科学でわかりやすく説明されていますので、お時間のある方は、ぜひご視聴なさってください)。
そして、このスイッチは、平均気温上昇が産業革命前から2℃ぐらいになると入ってもおかしくないと言われています。今地球の平均気温は、1.2℃ほど上昇し、2030年には、パリ協定の目標である1.5℃上昇に到達してしまうと言われています。そして、クライメート・アクション・トラッカーによる各国が現在示している政策に基づいた2100年の気温上昇予測は、ほとんど全てのシナリオで2℃を超え、3℃前後を指しています。
2021年6月、シアトルなど北米では熱波が襲った(Image:NASA)
「パリ協定の1.5℃目標」という言葉自体はよく聞くようになりましたが、それを何としても守らなくてはいけない、そこにある状況の切実さを理解している人はまだまだそんなに多くはないかもしれません。
パリ協定の目標とされる1.5℃上昇の世界でもサンゴ礁が70-90%死滅してしまい、北極海の氷が全て融けてしまう夏が100年に一度訪れるほどの規模の大変化が起こってしまいます。それでも、この灼熱地球(ホットハウス・アース)へのスイッチを入れてしまわない為にも、これは、確実に達成したい目標です。今のままでは、8年後にはこの数字を超えてしまうのです。
ということは、スイッチが入らないようにするためには、もう時間がないのです。この最悪のシナリオを免れながら、被害を少しでも小さく抑えるには、この3、4年の間にしっかり対策を実施し始め、8年先の2030年にある程度の結果が出せているかどうかが一つの勝負です。もちろん、1.5℃を超えたら、あるいはこの灼熱地球(ホットハウス・アース)へのスイッチが入ったら、努力する意味が全てなくなる、なんてことではありません。温度上昇は、1.5℃をたとえ超えてしまっても、低ければ低いほど被害が少なく、灼熱地球(ホットハウス・アース)へのスイッチが入ってしまっても、その変化のスピードを緩められれば緩められるほど、多くの人の命と生活を守ることができます。ただ、「今」なら、この臨界点に到達しそうになっているけどまだ到達していない「今」なら、まだ踵を返して安全な未来へと歩み始めることができるのです。これから数年は、まだそのチャンスがあるのです。
だから、「今」、この問題の大きさに気づいた人からできることを着実に実行していくことが大切です。
そして、日本に住んでいる私たちは、とてもパワフルなポジションにいます。日本は、温室効果ガス排出量世界第5位です。つまり、私たちがこの国のこの問題への取り組みに違いを作ることができれば、この世界規模の問題解決に向けて大きな貢献をすることができるのです。
では、とっても長い前置きになりましたが、私たちの家が燃えている今、「普通」の個人である私たちがこの火を消すためにできる効果的なことは何でしょう?
もちろん、もっと余裕のある人は、自治体への働きかけを行ったり(ゼロエミッションを実現する会)、350クルーやGreen TEAさん、Fridays For Futureさん、のメンバーとなり、どんどんいろんな活動をしていくことをお勧めします。ただ、上にあげた3つの取り組みは、気候危機の解決に貢献したいと思ったすべての人にそれぞれの人生の中で実行可能か検討してみて欲しいことです。
パワーシフトキャンペーンロゴ
ここで、肉食を減らすことや、飛行機に乗るのをやめること、省エネを心がけたり、ファストファッションの消費をやめることはしなくて良いのか? という考えが頭をよぎる人がいるのではないでしょうか?
これら全てはとても大切なことです。ただ、個人のライフスタイルをエコなものにすることは、例えば癌が見つかった人が、睡眠や運動をして、タバコをやめ、健康的な食事を心がけることと似ています。つまり、これらは全て癌を治そうとする過程で絶対的に行った方が良い大切なことであることに疑いはないのですが、「癌治療」をすることなく健康的な暮らしを心がけるだけで、癌が治る可能性は非常に低いのです。
気候危機でいうと、「癌治療」は、システムチェンジに働きかけることを意味します。個人の温室効果ガス排出量を減らす努力は確実に大事でとても良いことですが、それでこの問題が解決できると考えるのは残念ながら現実的ではありません。個人個人の暮らし方だけではなく、温室効果ガスに関連している社会のあらゆる政策やビジネスが温室効果ガスを出さないものへと急速に変化する必要があります。そのためには前途のキャンペーンやアクション参加のように、社会の構造の変化=システムチェンジのために、変化を求める個々の思いが可視化されるようデザインされたものに参加することが必要です。
350Japanもこうした想いから、ドキュメンタリー映画「PEOPLE POWER」を作成しました。様々な社会の立ち位置から、この問題の解決に向け動く人々のドキュメンタリー映画です(5人集めると自主上映ができるようにしていますので、ぜひ、上映会の企画をご検討ください)。
みなさんも、暮らしを変えるだけではなく、社会を変えるため行動を考えてみてください。
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