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GMのEVが火災でリコール 日本勢にも影響か

GMのEVが火災でリコール 日本勢にも影響か

2021/08/31

脱炭素の流れを受け、車の電動化も潮流が激しくなってきた。欧州は2035年までにガソリンを使う車を販売禁止、日本も2030年代半ばまでの新車販売の電動化を掲げている。車大国のアメリカも2030年までの新車50%電動化を発表した。

そのEVについて、大きな論点はいくつかあるが、航続距離とともにクローズアップされてきたのが安全性だ。安全性にもいくつかの議論があるが、EV固有の問題点は、蓄電池の発火問題になる。

やはり車は命を預かるもの。脱炭素や利便性よりも、安全性が担保されるのが何より重要だと筆者は考える。

8月20日、アメリカの大手車メーカーGMはEV「シボレー・ボルトEV」のリコールを発表。搭載バッテリーに発火の恐れありと言うことだが、実は、過去の火災と根が同じではないか、と問題視されている。

また、それが意外な日本企業に影響を及ぼすのではないかということも見えてきた。

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GMのリコールのニュース

今回、GMはバッテリーパックに発火の恐れがあるとして、「シボレー・ボルトEV」のリコール対象を拡大すると発表した。実はGMは、7月にも同じ理由でシボレー・ボルト約6万9,000台のリコールを発表しているが、その対象を拡大したということになる。

今回対象となるのは、2019年─2022年式の7万3,000台で、前回と合わせると14万台を超えるシボレー・ボルトEVがリコールになる。

火災についてのGMのコメントはリリースの通り

今回リコールの対象となった車種に搭載されている蓄電池には一つではなくて2つ問題がある。

  • 同一バッテリーセル内に破損した陽極タブがあるという問題
  • 折れたセパレーターがあるという欠陥

この2つの製造上の欠陥が存在する可能性があるために、火災の危険性が高まるという内容になっている。

もちろん、全てではなくて、英語で「In rare circumstances」、まれに、といっているが、実際に火災が起きており、穏やかな話ではない。

今回のリコールでは、バッテリーを全て交換するため、かなり費用がかさむとみられている。具体的には、7月発表のリコール費用が8億ドル、今回のリコール費用が追加で10億ドルになるという。

GMは2035年までに全ての乗用車モデルをEVにすると発表していた。6月には、2020年から2025年までの間に350億ドル(約3.9兆円)の投資を発表したばかり。このようにEVを主力化するつもりのGMにとっては当然、大きな打撃になる。

ちなみに、今回のリコールを受けて、GMはシボレー・ボルトEVの販売を無期限で停止するとも発表している。


シボレー・ボルトEV

今回の問題となったバッテリーを供給したのは韓国のLGだ。LGは今回のリコールに声明を発表。「GMとLG電子、LGエネルギーソリューションは共同で原因を調査しており、リコール費用の引き当てと割合はその結果による」という内容だ。リコールが迅速に進むよう協力する考えも表明している。

ただ、GMは「問題はLGにある」、と考えているようで、以下のようにコメントしている。

「After further investigation into the manufacturing processes at LG and disassembling battery packs, GM discovered manufacturing defects in certain battery cells produced at LG manufacturing facilities beyond the Ochang, Korea, plant. GM and LG are working to rectify the cause of these defects. In the meantime, GM is pursuing commitments from LG for reimbursement of this field action.」

LGが韓国で製造したバッテリーに問題があることをGMは発見した、という内容だ。

このように、リコールに際して車メーカー側が部品メーカー名を公表し、欠陥があると指摘するのは異例のこと。それだけGMとしては問題が明らかだと考えているのだろう。

LGの「問題をGMと一緒に調査して、これからリコール費用の引き当てを決めます」と言っているのとは対照的になっている。

GMは、バッテリーの調達先である韓国のLGに補償を求める(pursue commitments)とも言及。LGに補償のコミットメントを求めている。

今回のリコール額は、そこまで大きくないとも言える。EVの販売台数がまだ少ないために救われた感があるというのが正直なところかと筆者は見る。

ただ、バッテリーパックを総入れ替えということは、一台あたりのリコール単価は高い。売れた台数が多くなればなるほど、リコールの費用もかさむ。今後、電動化が主流になってくるに従い無視できない問題になってくるだろう。

ただ、気になるのはLGがEVでリコールを引き起こしたのは今回が初めてではないということだ。

現代自動車のリコール問題

現代のリコールも発端は、EVの火災だ。今年2月、現代が全世界でEV8.2万台をリコールした。リコール費用は約1,000億円と、現代史上、過去最高額。理由は出火の恐れがあり、バッテリーシステムの交換のため。

リコール対象はクロスオーバーSUV「コナEV」と、「アイオニック」「エレクシティー」の一部モデルになる。


現代自動車 コナEV

実は現代は2020年10月にも一度リコールを実施していた。しかし、一度リコール対応が終了した車両1台で再び火災が発生し、2度目のリコールとなった。

韓国政府の国土交通部は、韓国で最初のKona Electricの火災事故が発生してから2ヶ月後の2019年9月に調査を開始。今年の2月火災事故の調査結果を発表したが、そこで明らかとなったのは電池不良であり、負極タブの折り畳みによるもの。つまり、セル製造による火災発生の可能性だという。GMのバッテリー問題は陽極だったが、こちらは負極が問題だった。

ただ、LG製バッテリーに問題があったという点ではどちらも同じだ。

現代のリコール時にもLGは調査をおこない、リコール費用負担割合を調整するつもりだったが、韓国国内で大きな問題になり、現代が新たなEVを投入するタイミングであったこともあり、早期に幕引きを図らなければならなかった。結果として電池を供給したLG化学が約7割、車両メーカーの現代が約3割を負担した。

このLG側のリコール費用700億円が重くのしかかり、LG化学は2020年に最終赤字を計上。売上はあるのに赤字になると言うジレンマを抱えたわけだが、今年度もGMとの関係で損失を計上するのは必至となる。

すでに引当金を計上しているようだが、これが続くとなると、中国CATL、日本のパナソニックに並んで世界3強の蓄電池メーカーとなっていた地位が危うくなるかもしれない。筆者は信頼という点ではもう2ストライクが入った状況だと感じている。

困るのはLGだけではない。実はGMも同じく頭を抱えている。なぜなら、LGとの協業を進めているからだ。

GMはLGとかなり協業を進めていた

GMはEVの勝負手として、「アルティウム(Ultium)」バッテリープラットフォームを開発している。大容量のパウチ型セルをバッテリーパック内で、垂直にも水平にも積み重ねることができるという、画期的な方式を採用したこのシステムにより、各車両のデザインに応じてバッテリーの蓄電容量やレイアウトを最適化することを可能にしている

このアルティウム・バッテリープラットフォームの鍵を握ったのが、LGとの協業だ。

このアルティウム・バッテリープラットフォームの名前を冠したアルティウム・セルズという合弁会社をGMはLG化学の子会社であるLGエナジーソリューションと2019年12月に設立。

オハイオ州ローズタウンで、「アルティウム」生産工場を23億ドルかけて建設すると2020年5月に発表。さらに、今年4月にはさらに23億ドルをかけてテネシー州モーリー郡スプリングヒルに2つ目のアルティウム生産工場を作るとも発表。

今年5月にはバッテリーセル製造から出るスクラップ材を最大100%リサイクルする契約を、北米最大級のリサイクル会社であるLi-Cycleと締結した。

合弁会社を立ち上げ、ここまで連携を進めた、GMは、LGとEVに関しては一蓮托生となっている。

このアルティウム・バッテリープラットフォームは、GMのEVに搭載される共通プラットフォームで、いわば電動化戦略の生命線となる。ポートフォリオを組むのではなく、LGとがっぷり組んだところに、今回のリコールのニュースとなった。もう後戻りしづらい状況になっている。これはGMにとってはかなり深刻な状況なのではないかと筆者は思っている。


アルティウム・バッテリープラットフォーム

日本勢はどうか。トヨタも日産もLGとは提携をしていないが、実は一社、今回の影響を陰ながら受けそうな会社がある。

影響を受けうる日本企業は、ホンダ

その企業はホンダだ。ホンダの発表によると「2020年に中国CATLに対して1%の出資をして提携をする」という内容だが、その前、2018年にホンダはGMと協業を発表。その協業の分野が、車載用蓄電池になる。

そして、今年4月にホンダは「アルティウム」バッテリーを採用したEVをGMと共同開発をすると発表

「ゼネラルモーターズ(GM)とHondaは、GMが開発したグローバルEVプラットフォームと独自の「Ultium(アルティウム)」バッテリーをベースに、Honda向けの新型電気自動車(EV)二車種を共同開発することを新たに合意しました」。

このEV二車種は、アメリカ、カナダ向けで、GMの北米工場で生産される。そこに搭載されるバッテリープラットフォームは、GMとLGの合弁会社のアルティウム・セルズが手掛けることになる。つまり、ホンダの車に、LGの手掛ける蓄電池が搭載される形になる。

車の安全性を今年の戦略発表会でもかなり重点をおいていたホンダ。果たして、LGが手掛けるバッテリーを搭載することで大丈夫なのか、筆者は非常に心配している。

日産は2010年のEV発売以降、これまで一度たりとも火災事故を起こしていない。もちろん、中国の蓄電池メーカーと組んだという意味では、LGの問題を見ると心配ではあるが、実績という意味では十分かといえる。また、トヨタのEVもメインの提携先は、信頼のパナソニック。

まだ消費者としては蓄電池の容量競争に関心が集まっているが、最終的に消費者は安心・安全とのバランスを求めるのは、これは間違いないと筆者はみている。

その点、日本勢には抜かりなく、万全を期して、このEV戦線を戦ってほしい。

世界の蓄電池市場ではCATL、LG、パナソニックの三強となっている。しかし設備投資の観点ではCATLとLGが抜けそうである。LGに2ストライクが入ったいま、ぜひともパナソニックにはこうした機運も活かして、頑張ってもらいたいと筆者は願う。

今日はこの一言でまとめよう。
『EV文脈でGMもLGもピンチ』

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボール出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。