次世代の電力システムにおいては、AIとIoTは必要不可欠な技術となりそうだ。すでにスマートメーターやエネルギーマネジメントシステムという形でIoTは入り込んでおり、そのデータを分析するにはAIは欠かせなくなるだろう。こうした中、米国のアイトロンは、まさにこうした分野の最前線を進んでいる。そこには、“分散した人工知能=DI”という新しい概念が導入されている。それはどのようなものか、日本サスティナブル・エナジー代表取締役の大野嘉久氏が解説する。
目次[非表示]
20世紀に世界各地で構築された中央集権型の電力システムはいま、米国をはじめとする諸外国で「再生可能エネルギー」「電力貯蔵」「EV」「センシング」「“発電する消費者”である分散型エネルギー源(DER)」などの登場を背景に分散型へと移行しつつあり、その流れはもはや“不可逆的”との指摘もある。
つまり、20世紀には“電力を供給する”ことが電気事業の本分であったが、21世紀にはそれに加えて「家電製品の稼働状況を常時モニタリングし、故障を発見する」「最適な充放電パターンを自動的に実行」「故障箇所をほぼリアルタイムで検知する」「変圧器の負荷を管理する」「盗電の即時感知」などのように、事業者と消費者の双方に新しい付加価値を持つようになるのだという。
その最先端をゆくのが次世代電力計(スマートメーター)大手、米アイトロンだ。
同社は電力需要を「Distributed Intelligence(DI、分散された人工知能)」に見立てたアプリケーションを数多く開発している。
従来の考えでは、電力系統を司る事業者にとって電力需要とは制御の全く効かない巨大な相手であり、需給ひっ迫時には大停電を回避するためにあらゆる手を尽くしてきた。とりわけ近年では太陽光発電や風力発電といった自然由来のエネルギーが電力系統に多く接続されるようになって周波数や電圧を乱す要因が大幅に増えている。
しかし、アイトロンはスマートメーターなどの開発で培ったIoT(Internet of Things、モノのインターネット)を活用して電力需要の集合体を人工知能としてとらえるDistributed Intelligenceというアプリケーション群を発表しており、そのアプローチ方法は従来の“中央集権的、上意下達”から“分散された各地でのAIによる判断”へとシフトしている。
電力系統の安定化を図る技術として、配電用変圧器の負荷を常時モニタリングによって安定度の向上と寿命の長寿化を図る「変圧器の負荷管理」、停電後に配電系統内を復旧させる際に変圧器の負荷を調整することで過電流が流れることを防ぐ「コールドロード・ピックアップ」、電気メーターの前に違法な回路接続して盗電することを防ぐ「迂回路盗電検知」、低圧回路において抵抗値が高くなっていることを示す「高インピーダンス検知」などが実現されている。
家庭内における電気機器の使用状況を常時モニタリングすることでAIが「その家の生活パターン」を学習する。たとえば「子供が学校から帰ってきた」「高齢の父母が今日もいつもと同じような生活をしている(だから問題は起きていない)」という情報を提供してくれるほか、EVが充電した記録を蓄積して最適な充電タイミングを示してくれたり、家電の稼働状況をモニタリングすることで利用時間が長くなっている機器を示してくれたり、故障している機器を教えてくれる。
ブロックチェーンでも利用されている『ピアツーピア (Peer to Peer/P2P、端末同士が直接・対等に情報をやり取りして実行する方式)』を取り入れることでデマンドレスポンスの精度を飛躍的に向上させる「アクティブ・デマンドレスポンス」、電気メーターより消費者側(ビハインド・ザ・メーター)にある設備による発電量を正確に把握することで契約外の機器利用を探知する「分散発電検知」など。
そして2021年6月15日、アイトロンはDIサービスが新しい次元に到達することを発表した。
それはAI企業の米Grid4C社が開発したアルゴリズムによって、アイトロンのIoTネットワークに最先端のマシン・ラーニング機能を加えることで「需要側におけるリアルタイムの需給最適化」を可能とするものである。
というのも、Grid4CのAIによってこれまでになく忠実性の高いデータを得ることができ、そのおかげでアイトロンのDIプラットフォームは顧客である電気事業者と消費者の双方に更なる付加価値を提供することが可能だという。
Grid4Cは既にアイトロンのRaleigh DI Labにシステムの構築を完了しており、2021年内にはアイトロンのEnterprise Application Centerを通じてサービスの提供が可能になる計画である。具体的には電気事業者側がより精度の高い需給予測を可能とすることでピークロードを減少させたり、あるいは系統設備や電気機器をモニタリングする能力が高まることで効率の低下や故障を予防することができるようになる。
これらは一見すると非常に地味な機能であるが、このアイトロンによる「Distributed Intelligence」という取り組みは、電気事業というサービスが20世紀までの「電力供給」から21世紀には「電力供給+スマートな付加価値の提供」へと大きくシフトしている過程にあることを映し出しているのではなかろうか。
エネルギーの最新記事